177.魔女様、ドレスとメテオに世界を託すことにする
「なんということだ……」
「我々はもう終わりだ……」
「世界は終わりだ……」
とりあえず、世界樹の下に降りて、村人たちに説明をする。
村人たちは皆が皆、悲嘆にくれてうつむいている。
空気が重い。
うーむ、これは困ったことになったぞ。
なんせこちらはこちらで緊急事態なのだ。
私は魔族がサジタリアスに向かっていることをドレスとメテオに伝える。
そして、私たちは一刻も早く村に戻らなければならないことを。
それは世界樹を見捨てるっていうことになるけれど、世界樹が枯れたら災厄の化け物とやらが復活する。
つまり、どっちを選んでもアウト。
どっちも放っておけない状況なのだ。
「……ユオ殿、これも運命なのじゃ。強い魔族には逆らえん。ふふ、わしらはいつまでたっても半端ものの魔族なのじゃ」
エリクサーはもう既に諦めモードに入ったのか、泣くことさえなくなっていた。
彼女の瞳からは光がなくなり、この世の終わりに添い遂げようとしているかのような悲しい色をしていた。
私はその瞳を知っている。
かつての自分自身がそういう目をしていたから。
実家から追放されるなんて宣言された時には、悲嘆に暮れて何もかも諦めるしかなかった。
それでもララが一緒に辺境に行ってくれるって言ってくれたから、自分を見失わずにすんだ。
そして、メテオもドレスも、他の仲間たちも私の夢に参加してくれるって言ってくれたから、今もこうして立っていられる。
絶望しているときこそ、誰かの支えが絶対に必要だよ。
「ドレス、メテオ、悪いけど、この村に残ってほしいの。あなたたちが世界樹を救うのよ」
私はドレスとメテオに新しい仕事をお願いすることにした。
それは世界樹にとりつけられたヘンテコ装置を取り外すこと。
今までの話を聞いている分に、彼女たちには十分な知識と技術がある。
もしかしたら、なんとかできるかもしれない。
いや、彼女たちなら解決できるって私は信じている。
「そう言ってくれると思ったぜ! あんだけの装置をばらせるなんて、わっくわくしてきたぜ!」
私の申し出にドレスはむしろ嬉しそうな声をあげる。
彼女のこういうポジティブさが今日はとっても心強い。
「ばらした部品はあっしがもらっていいよね?」
「もちろんよ」
そして、相変わらず素材に目がないのも彼女の特徴。
緊急事態でも初心を忘れない、そういったところも含めて大好き。
「あれぇ、ユオ様、うちがあれを大発見したこと、褒めてもらってないんやけどなぁ? まぁ本当はお宝を探して小屋に忍び込んだんやけど」
メテオも真剣な顔をするのかと思ったら、そうでもなかった。
彼女はこういう場面だからこそ、ちょっと茶化すような言動。
「メテオ、よくやってくれたわ! ありがと!」
私は彼女にしっかりハグをして、そう伝える。
実際の話、彼女があの設計図を発見しなければ、世界樹のピンチに気づくことはできなかっただろうから。
「ふひひ、あったかいなぁ。ま、素材をドレスだけにやるわけにはいかんし、うちもやったるわ」
不敵に笑うメテオ。
その笑顔はとてもすがすがしいものだった。
「頼りにしてるからね、二人とも! 世界樹を、そして、世界を救うのよ!」
「任されたぜ!」
「ええ仕事させてもらいまっせ!」
手を取り合って、お互いの覚悟を確かめ合う私たちなのであった。
「なんでじゃ、なんでそこまでしてくれるんじゃ? わしらは魔族じゃぞ、ヒト族のお主らがなぜ世界樹のことまで」
私たちが盛り上がっているそばで、エリクサーはわんわん泣き出す。
魔族だとか、そういうの関係ないって何度伝えたことだろうか。
それでも、大きくて深い溝がやっぱりあるっていうのだろうか。
それなら、尚更、その溝を飛び越えなきゃいけない。
彼女が信じられないって何度叫んだとしても。
とりあえず、彼女が泣き止むまでよしよしと背中をさすってあげるのだった。
小さい子って泣いててもかわいいよね。
「……よし、わしも決めたぞ」
エリクサーは泣き止むと、先ほどとは打って変わって強い視線で私を見つめてくる。
その緑色の瞳は魔族特有のものだろうか、とてもきれいだった。
「ユオ殿、お主、南の都市に行くと言っておったな。それなら、わしが連れて行ってやるのじゃ。おぬしの村を迂回するよりもよっぽど早いじゃろう」
「ええぇ、いいの? だって、世界樹が危ないんでしょ?」
彼女の提案はとても意外なものだった。
なんとサジタリアスの近くまで案内してくれるとのこと。
彼女の植物操作をつかえば、私が一人で行軍するよりもよっぽど早いのは確か。
とはいえ、彼女は村にとって大切な人みたいだし、緊急事態に力を貸してもらうのは悪い気がする。
「エリクサー様、ここは私たちにお任せください!」
「あの猫耳とドワーフとしっかり協力させていただきます!」
「我々だって、困ったときはお互い様です!」
「ヒト族だけに任せてられるか!」
しかし、村人たちはエリクサーにむしろ行って欲しいと嘆願する。
困ったときはお互い様、なんてどこかで聞いたセリフ。
「わしもおぬしらを信じる。おぬしらがわしを信じるように」
エリクサーはそういって、ふふっと笑った。
そうだよね、私だって助けてもらってもいいよね。
私はエリクサーの提案を快く受け入れることにしたのだった。
ここにおいて魔族とヒト族が協力するチームが生まれたのだった。
「それとこれは前金じゃ。世界樹を助けてくれたらもう半分渡すぞ」
エリクサーはそう言うと、私の手のひらに袋を置いてくれる。
それを開いてみるとヘンテコに光る宝石のようなものが入っていた。
「め、女神の涙やぁああああ!」
「め、女神の涙だぜぇえええ!」
メテオとドレスの二人は、「わきゃぁあ」「やったぁ」などとけたたましい声をあげる。
これが彼女たちが言っていた希少な素材ってやつなのね。
ふーむ、きれいはきれいだけど、魔力がないからよくわからない。
「ひっじょうに残念やけど、ユオ様に預けとくで。ひゃひゃひゃ、クエイクに自慢したるで!」
「そうだな。村に帰る楽しみが増えるってもんだよ! あっしは今、猛烈に燃えている!」
意外なことにメテオとドレスは、今はこれを受け取らないという。
一粒ぐらい渡してもいいと思うんだけどなぁ。
でも、笑顔で再会するためにもいい心がけかもしれないね。
エリクサーが言うには女神の涙とは世界樹の樹液を加工したもので、特殊な力を秘めているらしい。
なんでも魔力を増幅させるとかなんとか。
ううむ、それなら私が持っていても尚更、意味がないんじゃないだろうか。
まぁ、預かっとけと言うので空間袋にいれておくけど。
「それじゃ、お願いするわ。サジタリアスに行って敵の魔族をおっぱらっちゃうわよ!」
かくして、私とエリクサーは森を抜けて南へと進むのだった。
目指すのは辺境都市、サジタリアス。
おそらくは敵の親玉に率いられた魔物たちが大挙して攻め込んでいるはず。
クレイモアやハンナを派遣したけれど、どんな状況だろうか。
お願いだからみんな、無事でいてね!
【魔女様の手に入れたもの】
女神の涙:魔族領の世界樹の樹液を加工して魔力とともに形成したもの。美しい宝石として珍重されるだけではなく、魔力を増幅させることから媒体として人間社会でも珍重されている。王族の装備品に用いられるほど、非常に高価な素材。
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