176.魔女様、世界樹の危機に直面し、ぎりぎりの状況に追い詰められる
「世界樹が大変なことになっているですって!?」
村に帰らなきゃいけないっていうタイミングなのに、メテオたちが新たな問題を持ってくる。
彼女たちの表情は真剣そのもので、冗談を言っているわけではないようだ。
「まずは見てもらった方が早いんちゃうかな。とりあえず、これを見てや」
メテオはそういうと懐から紙を取り出した。
そこにはヘンテコな絵が描かれていて、私にはちょっとよく分からない。
「これはな、昨日、例の立ち入り禁止の小屋に掲げられていたんやけど、魔族の悪い奴が何か企んどるらしいで」
「ユオ様、ここのところを見てくれよ。世界樹らしき木に魔法陣が描かれてるだろ?」
メテオとドレスは代わる代わる解説を続ける。
彼女たちが言うには、この魔法陣がなんだかとっても怪しいとのこと。
メテオは「世界の危機っぽい気がするで。うちの勘やけど」などと物騒なことを言い出す。
「魔力転移かなにかの魔法陣じゃな、これは……」
エリクサーはピンと来たらしく、顎に手を当てて考え込み始める。
私は自慢じゃないが、魔法陣についてはよくわからない。
学校にいた時も、魔力がないから魔法陣の読み方さえよくわからなかったのだ。
これを見た方が早いとか言われてもぉ。
「昨日、うちはあの小屋をくまなく調べとったんやけど、何だかよくわからん間に転移魔法陣を踏んでもうて、あのサルに捕まってしまったんや。いやぁ、まいったわ」
メテオが言うには、あくまで調査のために小屋に忍び込み、重大な発見をしたものの、事故のような形で世界樹の上に転移したとのこと。
それだけ聞くと、勇気ある少女の悲劇みたいに聞こえる。
けどまぁ、絶対にお宝目当てで忍び込んだんだと思う。
「あのサルがいなくなったからもう一度、行ってみたんだよ。そしたら、ビビったね。あったんだよ、魔力転移の魔導装置が、それも超でかいのが」
「魔力転移の魔導装置じゃと? ま、まさか!」
居ても立っても居られなくなったのか、エリクサーはそのまま外に駆け出してしまう。
顔色は悪く、顔面蒼白な面持ちで。
もちろん、私たちも後に続く。
世界樹にどんな危機が迫っているっていうのかしら。
◇
「このままじゃ、世界樹は枯れてしまうのじゃあああぁあ!」
世界樹には階段が取り付けられていて、必死の思いで昇る私たちである。
そして、ふっとい枝の上に到着した辺りでエリクサーが泣き出していた。
そこには資材置き場があり、あの聖獣はここから樽を投げていたらしい。
「ユオ様、あれがさっき話していた魔導装置だぜ!」
エリクサーが泣き出していたのは、どうも、木の幹に取り付けられているヘンテコな塊が原因らしい。
世界樹に似つかわしくないパイプみたいなものがぶすぶす刺さっていて、ヘンテコな回路がぐるぐる埋まっている。
その中央には巨大な魔法陣が3つ配置され、そのどれもが七色に光っていた。
大きさは直径3メートルぐらいもあって、かなり大きい。
魔法陣はふぃんふぃん音を立てて、風車のように回転しているらしい。
これが一体、どうして世界樹が枯れることに関係するのかしら?
「この装置は世界樹のもつ魔力を別の場所に転移させるものなんじゃ。ほら、この中央の魔法回路を見るのじゃ、かなり遠くに魔力を飛ばしとるじゃろ?」
「そ、そうなの?」
「しかも、めっちゃ変換効率がええ感じや。ここの素材の使い方もうまいでぇ。回路も芸術品みたいやな。ええ仕事しとるで、ほんまに」
メテオは真剣な顔でその装置を見ている。
いつものへにゃるんとした顔とは大違い。
そういえば、彼女は魔道具を鑑定する能力もあるのだった。
色んな素材を見分けることができるし、知識も一通りあるようだ。
「あっしの見立てでは、こいつは世界樹の根幹部分とつながっていて、なっかなか解除できないぜ。ユオ様に任せたら内側まで爆発させちまうだろうし」
「ひいい、木の幹まで爆発させられたらかなわんぞ!?」
そういえば私は魔法鍵を無理やりこじ開けて爆発させちゃったんだった。
魔法陣と私のスキルの相性は抜群に悪いらしい。
「しかし、このままでは魔力を吸いつくされて、枯れてしまうのじゃ。あぁああ、ご先祖様の苦労が水の泡なのじゃ。世界が終わってしまう……」
エリクサーは木の幹にしがみついて泣き出す。
ふぅむ、彼女たちにとってこの木は先祖代々守り続けてきた木なのかな。
しかし、世界が終わるとは物騒な話だよ。
確かにエリクサーにとってはすごく大事なものなんだろうけれど。
「いや、あの、なんというか、その、世界樹は一つの結界なんじゃ。ご先祖様がこの下に災厄の化け物を封印しとるんじゃよ」
「さ、災厄の化け物?」
エリクサーがさらにおっそろしげなことを言い出す。
彼女の話では大昔、彼女の先祖が自分の身を挺して世界を滅ぼしかけた化け物をここに封印したそうなのだ。
じゃ、この世界樹が枯れちゃったら災厄の化け物とやらが出てくるってこと!?
エリクサーは「そうなのじゃ」などと静かに頷く。
ドレスと私は顔を見合わせて絶句する。
「それもやばいけど、世界樹の魔力ってめちゃくちゃ大きいから、これを吸い出す言うたら尋常じゃないで。その魔族は何かものすごいことをしようと思ってるんとちゃう?」
確かにメテオの言うとおりだ。
世界樹を枯らしてまで魔力を取り出すんじゃ、その魔族がとんでもないことをしでかそうとしているのは明らかだよね。
そいつの意図は読めないけど、絶対にいいことじゃないのは確か。
しかも、世界樹が枯れたら化け物が復活するわけで。
……あれれ、これってかなりやばい状況なんじゃないの?
それにしても、同族である魔族にもこんな仕打ちをするなんて。
そいつ、かなり性格が悪いみたいね。
お説教じゃすまないかも。
うきゃきぃいいいい!
どうしたものかと腕組みしていると、あの聖獣がやってくる。
彼 (?)は身振り手振りで怒りを表現。
世界樹を守っている彼はおそらく、これをとりつけた連中に相当の怒りを感じているのだろう。
だからって私たちに樽を投げるのはお門違いだったけど。
「わかる、わかるぞ、聖獣様。しかし、これはわしでは解除できないのじゃああぁ」
エリクサーはさらに悲嘆にくれる。
うきうき言っている聖獣の言葉が分かるのだろうか、すごい。
「……いや、なんとなく、それっぽく分かるだけじゃぞ? わしにも、うきき、としか聞こえておらぬ」
「それっぽく……」
前言撤回、ぜんぜんすごくなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔力転移装置って、高いビデオカードみたいやな……」
「ここにも一人、災厄の人が復活してるんですが……」
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