174.魔女様、世界樹にとりついている悪いモンスターをやっつけると、さらに変な奴がでてきてスレスレの攻撃をしかけてくる
「なぁっ!? 何が起きてるんじゃ!?」
世界樹のもとに急行したエリクサーは大きな声をあげる。
私の目の前にあるのは途方もなく大きな木。
まるで山みたいに大きな木がそびえたっていた。
しかし、エリクサーはいったい何に驚いているのだろうか。
「世界樹の魔力が落ちておる! ほら、魔力を失って葉が落ちてきておるではないか!」
彼女の言うとおり、私たちの足元には沢山の葉っぱが落ちていた。
ちょっと病気の植物みたいにまだら模様の葉っぱ。
うーむ、世界樹の調子が悪いのだろうか。
「ユオ様、何か来るぜ! な、なんだ、ありゃあ!?」
葉っぱを観察していると、ドレスが警戒の声をあげる。
彼女が指さす方向を見ると、巨大な赤いゼリーみたいなのが世界樹の枝に絡まっていた。
世界樹の大きさからするとかなり大きいよ、あれ。
「ひぃいいい、出ました! あいつが世界樹にいるので近づけないのです!」
「あれはドラゴンスライム、アースドラゴンさえ飲み込むスライムです!」
「村を襲った魔族が置いていったのです」
赤いゼリーを指さして、村人たちはこの世の終わりみたいな顔をする。
なるほど、あいつが世界樹にとりついて樹液を吸い取っているのだろうか。
しかし、私はあいつを見たことがある。
誰かさんがあれに追いかけられて私の村にやってきたのだった。
触手部分がトカゲっぽくギザギザだから、ご大層にドラゴンなんて言われてるんだろうか。
「ひぃいい、どうするのじゃ!? わしらの魔法程度じゃ、あやつは倒せんぞ。このままじゃ世界樹が枯れてしまうぞ!? 世界樹が枯れたら、わしの村はお終いじゃああ!」
エリクサーは半べそ状態になって取り乱す。
彼女にとって世界樹の木はとっても大事なものなのだろう。
それを勝手に枯らすなんて許されるものじゃないよね。
しかも、敵の親玉が置いていった外来種みたいだし。
「じゃ、行ってくるわ。ちゃちゃっといくよ」
私は赤い粘液をしたたらせている、スライムのもとに近づく。
もちろん、熱鎧を発生させてるから防御はOK。
「あ、危ないぞ!? 不用意に近づくと飲み込まれるんじゃぞ! それと、世界樹ごと爆発させるのはなしじゃぞ!」
エリクサーの叫び声が聞こえるけれど、ここではちょっと無視。
大丈夫、爆発はさせないし、なるようになるから。
うにょおおおおんって具合に、スライムはギザギザの触手を私に伸ばしてくる。
おそらく内側に取り込まれれば消化されてしまうのだろう。
しかし、「捕まえた」っていうのはこっちのセリフなんだよね。
スライムが私の体を包み始めると、ひんやりと気持ちの良い感覚。
だけど、それに溺れていられるほど暇じゃない。
「えいっ」
私はスライムがしっかりと蒸発するように、一気に熱を通す。
いくら大きくてもスライムなんて99%が水分なのだ。
所詮、液体は熱に弱い。これ、常識だよね。
ぴぃいいいいいいいい!
まるでやかんが沸騰するときみたいな音を立てながら、巨大な粘液のモンスターはぶくぶくと泡を上げ始める。
うむ、こいつの方が大きくて赤いけど、反応はこの間と全く同じ。
ちょっとつまんないぐらいに同じ。
そして、ものの数秒後には木の上からいなくなってしまうのだった。
さようなら、スライムさん。
「おぉおおおお、さすがはユオ様だぜ!」
「ひぃいいいい、どういうことじゃあああ!? 消えてしもうたぞ!」
たかが液体を蒸発させただけだっていうのに、嬉しそうに騒いでくれるドレスにエリクサー。
村人の魔族の人たちは口をあんぐり開けて呆然とした様子。
あっちゃあ、こっそり陰から蒸発させればよかったかなぁ。
「よぉし、これで世界樹も元気になるのじゃ! よかった、よか」
エリクサーがそう言った瞬間だった。
何かが上から猛烈なスピードで私たちの方に飛んでくる。
「危ない!」
どがぁっと飛んできたのはまさかの樽。
よっぽど頑丈な樽なのか、ばうんと跳ねてどこかへ転がっていってしまった。
樽がどうして上から飛んでくるわけ!?
「あ、あれは世界樹の聖獣様じゃ!」
エリクサーが世界樹の枝を指さし、愕然とした表情をする。
そこにいたのは赤ら顔の巨大な……サルだった。
毛並みは黄色っぽくて、赤い顔と見事なコントラストを描いている。
顔はまだあどけないけど、かなり大きいようだ。
家一軒分以上はあるだろう。
それにしてもサルって生まれて初めて実物を見た。
「聖獣様は気が立っておられるようです! 怒ると資材置き場のモノを投げてくるのです!」
「今日は満月ですからさらに狂暴化しています!」
「ひぃいいい、せっかくスライムを退治したっていうのにぃいい!?」
どかん、どかんと、こちらに飛んでくる樽。
叫び声をあげる村人。
いったいどうして樽なのか、その理由は私にも分からない。
時折、木の実とかも飛んでくる。
こちらに当たるように投げているわけじゃないらしく、あくまでも威嚇のつもりで投げているらしい。
それにしても、迷惑だし、とっとと落ち着いてほしいんだけど。
「にぎゃあああああ、なんでうちがぁあ!?」
そして、私たちはどこかで聞いたことのある叫び声を耳にする。
あれ、この声って……。
「なんということじゃ、猫耳が捕まっておるぞ! あやつ、どうして聖獣様の怒りを買ったのじゃ!?」
なんだかよくわからないけれど、メテオが巨大なサルに掴まれているではないか。
あっれぇ、あの子、小屋の中に閉じ込められたんじゃないの!?
どうして巨大ザルに捕まってるのよ。
「うちは猫人やけど高いところは苦手なんやぁああ! あきゃああああ!?」
うきぃいいいいいい!
高いところで怒りの雄たけびをあげる巨大なサルと、悲鳴をあげる美少女。
うーむ、この光景、どこかでみたことがある。
鈍器を投げてくるから鈍器コングだったっけ。いや、違うか。
そもそも、あの聖獣は赤ら顔のサルだし、私の読んだ本のものとは種類が違う。
「うぅむ、困ったのぉ。聖獣様の大好きな果物がとれる季節でもないしのぉ」
エリクサーは腕組みをして困り顔だ。
スライムはスライムで迷惑なやつだったけど、あれはあれで迷惑なやつだよね。
ふぅむ、しょうがないからあれも気絶させちゃうか。
「そ、そんなことできるはずがあるか! あぁ見えて世界樹を守ってくれてるのじゃぞ!」
「そうです! 今は怒っておられますが、7秒たてば鎮まります!」
あれを鎮めるというと、エリクサーはじめ村のみなさんは猛反対。
とはいえ、メテオは捕まってしまってるし、解放してあげなきゃかわいそうだし。
7秒たっても怒りは鎮まらず、今度は樽を木の幹に沿って転がしてくるし。
なんでそんなに樽があるのかしら。
「じゃあ、説得してみるわ! お猿さん、こっちに来なさい!」
私は空間袋の中に手を入れると、あるものを取り出す。
それは村でとれた果物詰め合わせセットだった。
ララが『おやつ』として持たせてくれたものである。
私としては果物はおやつに入れない主義なのだが、ララはおやつと言い張るのだった。
……まぁ、そんなことはどうでもいい。
サルと言えば、果物が大好きなのだと本で読んだことがある。
これできっとおびき寄せられるだろう。
村人たちは「そんなもので聖獣様が寄ってくるか!」「聖獣様は村の果物以外食べないぞ」なんて声をあげる。
だけど。
うきゃきゃきぃいいいい!?
もんのすごい勢いで赤ら顔のあいつはやってくるのだった。
ふふふ、シュガーショックもそうだけど、聖獣なんて言っても所詮は動物に毛が生えたようなものよね。
近くに来るとかなり大きい。
メテオはいまだにその手のひらの中だ。
「ひぃいいいい、堪忍してぇなぁ。首ががくんがくんなっとるんやでぇ」
動きの激しいサルのおかげで気分が悪くなったらしい。
自業自得とはいえ、かわいそうすぎる。
「あんた、やっていいことと悪いことがあるでしょ! これをあげるから、その子を離しなさい!」
うきゃきぃ!
私が果物を差し出すと、サルはそれをささっと受け取り、メテオを持ったまま帰ろうとする。
だがしかし、そうは問屋が卸さない。
お猿さん、ギブアンドテイクって言葉をご存じかしらね。
私は「えいっ」とばかりに大量の熱を放出する。
結果。
熱失神は聖獣にも有効。
大ざるはメテオを捕まえたまま、ばたりと倒れこむのだった。
聖獣だか何だか知らないけど、タダっていうのは許されないのよ。
そこんところ、うちのシュガーショックを見習いなさい。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「樽を投げてくる赤ら顔のサル、これはセーフ……!」
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