171.魔女様、村の戦力を三つに分ける。サジタリアス救援チーム、村の防衛チーム、そして、魔族の村に遠征チームだ
「困ったことになりましたね……」
緊急事態だ。
これからエリクサーの村に乗りこもうっていう時になって、サジタリアスがモンスターに襲われているという知らせが入ったのだ。
屋敷の会議室で腕組みをする私たちである。
私はアリシアさんやドワーフの皆さん、そして、村のハンターの頭も呼び出すことにした。
これから村の方針を決めるための会議をしなければならないからだ。
「まずはクレイモアは決まりだよね」
サジタリアスの騎士団に所属するクレイモアには行ってもらわなきゃいけない。
いくら村長さんとトレードしたとはいえ、あくまでクレイモアは借り物の戦力だ。
これは決定事項だし、覆らない。
しかし、問題なのはクレイモアだけじゃおそらく足りないっていうことだ。
サジタリアスからの伝令の人の話では、数日前にモンスターが禁断の大地から襲来し、サジタリアスに波状攻撃を仕掛けているとのこと。
村長さんが率いる騎士団が奮闘するも、苦戦しているとのこと。
村長さんは化け物みたいに強い。
この間のダンジョンのスタンピードの時も大活躍してくれた。
それが苦戦するというのだから、モンスターが大量に現れている可能性が高い。
「おじいちゃんが苦戦するだなんて……」
知らせを聞いたハンナは信じられない表情だ。
彼女は物心ついた時から村長さんに育てられたと聞いている。
おそらくは今すぐにでも駆け付けたいはずだろう。
「サジタリアスが攻め込まれるなんて……」
そして、もう一人、心配そうな顔をしているのがリリだ。
彼女はサジタリアス辺境伯の娘であり、サジタリアスは彼女の守るべき故郷でもある。
家族だっているし、気が気でないのは確かなはず。
「数日前からモンスターが襲ってきたということは、デスマウンテンのトンネルは関係ないのかもしれませんね」
「そうだね。穴をあけたのは昨日のことだったし……」
私はララの言葉に頷く。
私がデスマウンテンに穴をあけたせいでサジタリアスにモンスターが流れたのかと思ったけれど、時系列的に見てその線は薄そうだ。
それに伝令さんの話によると、うちの村とは異なる禁断の大地の方向からモンスターが押し寄せているらしい。
「地図で言えば、私たちの村は禁断の大地の端っこの方でしょ。でも、今回はこっちのほうから攻めてきているわけでしょ?」
「ふぅむ、どちらかというと北北西側という感じやなぁ。ほとんど魔族領やんけ、それ」
会議室に掲げられた地図を眺めて、地理関係を把握する。
サジタリアスの北北西というのは私たちは行ったことのない地域だ。
「わしの村がある方向じゃな……。ここら辺がわしの世界樹の村じゃ」
エリクサーは泣き出しそうな顔をして、地図を指さす。
それは禁断の大地の中央にあたる位置。
黒死の森と呼ばれる深い森の中央にあった。
ふぅむ、エリクサーの村の方からモンスターが流れてきたってことか。
そっちは人間の立ち入ることのない危険地帯なわけだし、とんでもないモンスターがうようよいるのは想像に難くない。
ひょっとしたら村の周辺のモンスターとも種類が違っている可能性だってある。
「いいんじゃぞ、わしの村のことなんか構わず行ってくれ。これも定めなのじゃ」
エリクサーはこの状況に観念したのか、涙目になっている。
確かに有事なのだ。
サジタリアスは確かに私たちの村にとって生命線になる都市である。
モンスターなんかに陥落させるわけにはいかない。
とはいえ、エリクサーとの約束をこんな形で違えるのも違うと思う。
「……よっし、決めたわ」
私はふぅと息を吐いて、これからの役割分担を伝えることにした。
皆の視線が私に集まる。
ここでの決断は村の未来を、ひょっとしたら辺境地域の未来を決めるようなもかもしれない。
正直、怖い。
だけど、手をこまねいてみているだけなんて言うのは許されない。
ここで決断をして運命を打開しなきゃいけないのだ。
「まずクレイモア、ハンナ、リリ、クエイクはシュガーショックに乗ってすぐにサジタリアスに向かってちょうだい」
まずはサジタリアスに向かってもらう人たち。
騎士団のクレイモアはもちろんのこと、リリは怪我人の手当てのためにも向かってもらいたい。
事態は一刻を争うわけで、クエイクにシュガーショックを操ってもらおう。
「わ、私もですか!?」
驚きの声をあげたのはハンナだ。
彼女の配置については私も迷った。
「うん。村長さんを助けてあげて。ハンナが行けば百人力だから」
しかし、村長さんが苦戦していると聞いては居ても立っても居られないだろう。
ハンナと村長さんはずっと昔からコンビで戦ってきた。
わざわざその二人を引き離すことはないと判断したのだ。
「村の守備については、ララとドワーフの皆さん、それに燃え吉、ハンターさんたちにお願いするわ」
そして、次の役割分担は村の守備についてだ。
先日、私が留守にしている時に村をモンスターの一群が襲ったとのことだ。
その時は燃え吉たちが奮闘して撃退してくれたと聞いているけれど、今回もおかしな動きがある可能性もある。
私たちがいなくなった隙をついて、こっちにもモンスターが溢れてきたら村は壊滅してしまう。
そんなわけで村の守備隊にもしっかりした人材を配置することにした。
「命に代えても村を守ります、ご主人様」
「ララ、無理しちゃダメだからね。いざという時でも自分を大切にして戦ってね」
「わ、わかりましたぁ」
ララは先日の戦いの際にとんでもない無茶をしたそうだ。
彼女を失ったら村の運営は立ち消えるわけで、私は念入りに釘を刺しておくことにした。
「ふふふ、燃え吉のボディは修復済みですぜ!」
「俺たちに任せてくれよ、魔女様!」
「仕事を頑張るでやんす!」
頼もしい声をあげるのはドワーフの皆さんと燃え吉だ。
先日はあのヘンテコな石像で大暴れしたらしい。
私の顔をしたあの石像で戦ってくれるのは正直やめてほしい。
とはいえ、村を守ってくれるのなら、私情を捨てるしかないよね。
ドワーフのおじさんの肩に乗った燃え吉は気合が入っているのかメラメラと燃え盛っている。
「エリクサーの村に行くのは、私とドレスとメテオ。このメンバーにするわ」
そして、エリクサーの村に行くメンバーを発表する。
サジタリアスにできるだけの人員を割きたいから、少数精鋭で行くしかない。
私は言いだしっぺだし、エリクサーの村に行くのは最初から決めていた。
ひょっとしたら私が前面に出て戦わなきゃかもだけど、ここにおいてはしょうがない。
不本意だけど頑張るしかないかな。
「よぉし、あっしの腕がなるぜ!」
「よぉっしゃああ、一獲千金やでぇ!」
ドレスとメテオはそもそも行きたがっていたわけでとっても喜んでくれる。
「ど、どうしてじゃ? なぜわしの村なんかに行ってくれるのじゃ……」
エリクサーは再び泣きそうな顔になっている。
こんな緊急事態に自分の村を助けに行くなんて信じられないといった表情だ。
それでも彼女の村に向かう判断をしたのには二つの理由がある。
一つ目は、私は先にとりつけた約束を優先するたちだっていうこと。
そして二つ目は、モンスターはエリクサーの村の方向から来ている可能性が高いということ。
これがただの偶然だとは思えない。
あくまで直感だけど、何だかすごく変な感じがするのだ。
もちろんこの直感は間違っているかもしれない。
だけど、土壇場で頼りになるのは、結局、虫の知らせみたいなものだと思う。
「ユオ様、冒険者達は村の防衛に入らせていただきます。しかし、そのうちの何割かは家族のいるサジタリアスに戻りたいと言っているのですが……」
冒険者ギルドのアリシアさんは複雑な表情だ
ギルドの取り決めでは、有事の際に冒険者は今いる場所を守るのが基本的なルールらしい。
しかし、うちの村の防衛だけに冒険者を配置するのはちょっと大げさかもしれない。
なんせ、うちの村にはたくさんの冒険者がいる。
それにハンターさんたちだっているわけだし、ドレスたちの作った城壁もある。
案外、防衛力は高いんじゃないかな。
「そこらへんは自由にしてもいいよ。どんな人だって家族が心配だろうし」
「あ、ありがとうございます! あ、ハンスさんは残るそうですよ!」
お人好しかもしれないけれど、サジタリアスに行きたい冒険者には許可を与えることにした。
ハンスさんはうちの村の防衛に参加してくれるらしい。
ふぅむ、頼もしいなぁ。
トカゲが苦手だったから、トカゲのモンスターが出てこなきゃいいけど。
◇
「クレイモア、ハンナ、ちょっといいかしら」
役割分担も終わったので、あとは各自準備に入っていく。
みんなと分かれる前に、私はやるべきことがあるのだった。
「あなたたち二人はちゃんと協力するのよ。誰かと力を合わせることほど、大事なことはないからね」
これからサジタリアスに向かう主戦力はハンナとクレイモアだ。
私は二人にきちんと念を押しておくことにした。
それは協力して敵に向かうこと。
先日のデスマウンテンでは連携が取れていなくても勝利できた。
しかし、次の敵はどうなるか分からないのだ。
この二人が他の人と協力して動けるようになると、おそらく個の力以上のものを発揮できると思う。
敵が大群だとしたらなおさらのこと。
自分一人が無事でもサジタリアスが陥落しちゃったら話にならない。
「分かっているのだよ。この金髪小娘があたしに合わせれば万事解決なのだ!」
「大丈夫です、魔女様。この金髪デカ女が私について来ればいいのです!」
……あ、分かってないな、こいつら。
二人はまるっきり反対のことを言う。
しかも自信満々に。
そういう意味では息がぴったり合っているともいえる。
はぁ、と溜息をついて、私はさらに念を押す。
「いい? ちゃんと他の人と協力するの。自分の思いだけで突っ走っちゃダメだからね。村長さんや、むこうの騎士団の人とも協力するのよ。……さもないと、分かってるわよね?」
「ひぃいいいい、分かってるのだ。赤髪びびび魔女には逆らえないのだ」
「わ、わ、分かりましたぁ。いけにえにするのは村に戻ってからにしてくださぁあい」
しょうがないのでちょっと強めに念を押すと、二人はなんとか了解してくれる。
二人が協力すれば、どんな状況でも打開できるはず。
「それじゃ、ドレス、メテオ、エリクサー、私たちも準備するわよ!」
ごたごたしたけれど、ここにおいて私の魔族の村への遠征が始まったのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「サジタリアスのモンスターが魔女様の餌食にならなくてよかった……!」
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