170.魔女様、エリクサーの村の救援に向かうことを決めるも、思わぬ方向からトラブルが飛んでくる
「ふぅむ、そんなことがあったなんて……」
なぜエリクサーはデスマウンテンにいたのか?
温泉からあがると、エリクサーは涙ながらにその理由を語ってくれた。
彼女の話をまとめると、こういうことらしい。
彼女は世界樹の村と呼ばれる魔族の村で平和に生活していた。
ある日、とんでもなく強い魔力を持った人間の女の子と魔族の男が村を襲撃してきた。
エリクサーの村の皆は戦ったけれど、強力すぎる魔法の前に手も足もでない。
彼女の村の仲間は捕まってしまったが、エリクサーだけは命からがら逃げてきた。
そして、黒死の森をさまよい歩き、気づいたら、デスマウンテンに迷い込んでいたとのこと。
「なるほど、魔族同士の領土争いか何かなんでしょうか……。しかし、人間の少女とは何なんでしょうか? ううむ、わかりませんね」
ララは顎に手を当てて、何やら考え込んでいる様子。
博識な彼女でも魔族の情報は手に入らないだろうし、背景で何が起こっているのかはわからない。
「わし一人だけ逃げてきて本当に情けないのぉ。村のみんながひどい目にあっているかと思うとやりきれないのじゃ……」
エリクサーはそういうと「びぇえええ」と泣き出してしまう。
さっきまでの落ち着き払った態度とは大違いの子供然とした反応だ。
彼女が素直になったのは温泉によって心までほぐれてしまったからだろう。
「それにしても、他人の村をいきなり襲うなんて許せないやつらね。……ララ、私、この子の村に行ってガツンと言ってこようと思うんだけど」
エリクサーの髪をなでてあげながら、私は自分の内側で血がたぎっていくのを感じる。
平和な村を問答無用で襲うなんて許すべきじゃないと思うし。
「な、な、な、何を言っておるのじゃ!? あれはものすごい魔族なのだぞ、100年前のとんでもないやつなのじゃ! だいたい、何の理由があってそんなことを」
私がエリクサーの村まで行くというと、彼女はぶるぶる震えながら止めてくる。
とっても恐ろしい目に遭ったんだなぁって、すぐに分かってしまう。
だけど、私にはちゃんと理由がある。
「あなたはデスマウンテンで私たちを助けてくれたじゃない。その恩返しがまだできてないからね」
そう、エリクサーはデスマウンテンで私たちが窮地に陥ってくれた時に、リリやクレイモアを連れてきてくれたのだ。
あれから骸骨が出てきてわちゃわちゃしたけど、その時の行為についてきちんと感謝できていないと思うし。
「し、しかし、人間のお前がわしら魔族を助けるなどと……」
エリクサーはそう言うとうつむいてしまう。
まだ半信半疑なのかなとも思う。
それぐらい、人間と魔族の間には大きくて深い溝があると、教わってきたのだろう。
「あなたが魔族だからって関係ないよ。困ったときはお互い様だし、私の仲間のみんなも、村のみんなだって、話を聞けばわかってくれる。私はそう信じてるし」
「そ、そんなことあるものか。人間が魔族に手を貸すなど、お前のような物好きだけじゃ、そんなことをいうのは……」
エリクサーはどうしても人間が魔族を助けるってことに抵抗があるらしい。
ふぅむ、村のみんなに事情を話してみようかしら。
多種多様な人がいる冒険者はともかく、村のみんなは大丈夫だと思うけどなぁ。
「話は聞かせてもらったのだ!」
「もらいました!」
「も、もらいましたっ」
「もらいましたぜ!」
「「聞いたでぇ!」」
エリクサーの言葉にどう返事をしようかと思っていた矢先、部屋のドアがばぁんっと開かれる。
そこにいたのはクレイモア、ハンナ、リリ、ドレスにメテオにクエイク、まぁ、早い話がいつものメンバーだった。
あ、あんたたち、いつからそこにいたの!?
「ふくく。その小娘が魔族なのじゃあと騒いでいるころからなのだ」
クレイモアは不敵に笑い、その他のメンバーもうんうんと頷く。
あっちゃあ、かなり早い段階から筒抜けだったってわけね。
だったら、早めに部屋に入ってくればいいのに。
「あたしたちもエリクサーを助けるのだ」
「右に同じです」
「あっしもだぜ」
そして、クレイモア、ハンナ、そしてドレスの武闘派の三人は一歩前に出る。
彼女たちはエリクサーが魔族と聞いても、それだけで判断せずに助けたいと言ってくれている。
「わ、私も怪我人の回復ぐらいならできます!」
そして、まさかのまさかリリまでもが志願してくれる。
臆病でいつも泣き叫んでいる彼女だけど、やっぱりエリクサーに恩義を感じているんだろう。
「うちらも荷運びとか、運搬の手伝いならできるで」
メテオにクエイクの二人もまさかの志願。
完全に非戦闘員の二人なので、これには私の方も驚いてしまう。
でも、すごく嬉しい。
みんなが私と同じ気持ちを持っていてくれたってことが。
胸の中がじわじわと熱くなってくる。
「ありがとう、みんな、さいっこうだよ!!」
私はみんなの手を握って、ぶるんぶるんと振る。
みんなは笑って、私にぎゅっと抱き着いてくれる。
仲間っていいものだなって温かい気持ちがこみ上げてくるのだ。
「な、なんなんじゃ、お前らはぁぁああ、人間のくせに、人間のくせにぃいいいいい」
そして、感動しているのはもう一人いる。
エリクサーは完全に涙腺が崩壊して、おいおい泣き出してしまっていた。
ふふ、人間だって捨てたもんじゃないってことを教えてあげようじゃないの。
私は頼もしい気持ちで仲間たちを眺めるのだった。
「ふくく、あたしよりも強いやつに会いに行くのだ!」
「つまりは魔族の強い奴と大戦争ってわけですよね! わっくわくです!」
「「燃えてきたぁああ!!」」
とはいえ、それぞれの思惑がちょっとずつ違っていることは言うまでもない。
まずはクレイモアとハンナだ。
彼女たちはお分かりの通り、戦えれば何でもいい連中だ。
人間とか魔族とかモンスターとか関係ない生粋の戦闘民族。
助けたいって気持ちもちょっとはあるのかもしれないけど、絶対に暴れたいっていう気持ちの方が勝ってそう。
「ぐひひ、世界樹の村って言ってたぜ。めちゃくちゃ貴重な素材があるぜ、ぜったい」
「昔から危険地帯ほどお宝が多いんや。のるしかないで、このビッグウェーブに!」
「お姉ちゃん、ひょっとしたら、【女神の涙】とかあるかもしれへんで!」
「「「ぎひひひひ」」」
ドレスとメテオとクエイクは魔族領でしか取れない貴重な素材が目当てらしい。
メテオに至っては目の色が変わっちゃってるからね、本当に。
「えぇええ、皆さん、そんな思いで参加するんですかぁああ!?」
リリは周りの連中の腹黒さに信じられないという表情。
おそらく彼女だけは真摯な気持ちで志願してくれたんだろう。
まぁ、この子たちのこういう計算高い部分も含めて私は好きなんだけど、なんだかなぁ……。
とはいえ、このメンバーで行けば、失礼な魔族なんて一網打尽よね!
骸骨の時みたいに、クレイモアとハンナがぱぱっとやっつけてくれるだろうし。
それにシュガーショックや燃え吉だっているし!
「それじゃあ、エリクサーの村に行っちゃうぞぉおお!」
えいえいおーと気合を入れた、その瞬間のことだった。
どんどんどんどんっ!
「魔女様、大変ですぅううう!」
屋敷のドアをノックする人がいる。
それもかなり必死に叫んでいる。
あれぇ、モンスターが襲ってくるような頃合いでもないよね。
私は温泉に入ってないし。
「ど、どうしたの?」
ドアを開けると村の女の子が立っていて、こういうのだ。
「魔女様、サジタリアスが大量の魔物に襲われているそうです! 至急、クレイモアさんをはじめとして応援をお願いしたいとのこと!」
「はぁああああああ!?」
エリクサーの村に乗りこもうと思った矢先がこれだよ。
どういうこと!?
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「リリ以外、打算の塊じゃねぇか……!」
「魔族の村、サジタリアス、どっちに向かうのよ!?」
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