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17.魔女様、猫耳商人をお湯に沈めてみる。女の子二人でわちゃわちゃするも、果たしてその反応は

「な、なんやこれ!? 地獄みたいなえげつないにおいがするやん!」


 メテオは開口一番に驚きの声をあげる。

 領主の館の近くにある半屋外の建物には半径10メートルほどの大きな池があって、そこからもうもうと湯気を立てている。

 メテオじゃなくても驚くだろう。


「ふふふ、これが温泉よ! 嘘じゃなかったでしょ」


「それは認めるけども……」


 メテオは温泉を眺めてブルブルっと尻尾の先まで震える。


「なによ、なにか文句ある?」


「文句あるわ!」


 温泉を目の前にしたメテオは呆然とした表情。

 ふふふ、自分の過ちを認めるってわけかしら。


「こんな妙なもんで人が呼べるわけないやん! この沼の水に触れたら溶けるとか、死ぬとか、呪われるとか、そっち方向なんちゃう?」


 メテオはそう言って、私の温泉リゾート計画に難色を示す。

 ふぅむ、最初の反応は村人のみんなと似たり寄ったりか。

 

 やっぱり温泉は入らなきゃわからないよね。


「よっしゃ、メテオ。勝負よ! もし、このお風呂に入ってみて気持ちよかったら私の勝ち。全然、ダメだったらあんたの勝ち。あんたが勝ったら10万ゼニー渡すわ」


 とはいえ、ここで押し問答をしていてもしょうがない。

 手っ取り早く彼女に温泉の魅力をわかってもらう必要がある。

 絶対に勝つ自信のある私はかなりの金額を賭けることにした。


「10万ゼニーやて!? ほほぉ、大きく出たな。ええやろ、儲からせてもらうわ」


 メテオは案の定、私の提案に乗ってくる。

 たぶん彼女はお金が絡むとがぜんやる気を出すタイプだ。

 この子の性格がだんだん、わかってきた私なのである。



「よぉし、それじゃ入るわよ! 服、脱いで」


「へ? この中に入るって、裸になって入るもんなん? 新手の露出狂?」


「んなわけあるか! そもそも、露出狂に新手も古手もあるか。さぁ、あんたも脱ぐの。女同士だから恥ずかしくないでしょ!」


「ひぃいいい! 辺境の貧乏領主によって新たな世界が開かれる!?」


「開かれるか!」


 服をぽいぽいと脱がすと絶叫をあげるメテオ。

 辺境の貧乏領主だなんて失礼なことを言ってくれるじゃないの、事実だけどさ。



「ほらほら、入ってきなさいよ。気持ちいいってば!」


「えぇええ、やっぱり、うちは遠慮しとくわ……。においだけで十分お腹いっぱいやさかい」


「サイコーだってば、本当に体がとろけちゃうって!」


「ほんまにこの中に入るんか? 死んだりせぇへん? 溶けるん?」


 一足早くお湯に先に入った私は安全性をアピールするのだが、メテオは一向に信じない。

 そう言えば、キャットピープルだし、水が苦手とかあるんだろうか。

 耳と尻尾ぐらいしか獣人っぽいところなんてないけど。


 でも、このままじゃ勝負にならないわけで。


「メテオ、さらに5万追加するわ」


「……ええい、しょうがないわ!」


 こうなったら論より証拠。私はメテオをお金で釣ることにした。

 するとメテオの目にはお金のマークが浮かび、どぼん、と音を立ててお湯の中に突っ込む。

 ふふふ、この子のお金に目がないところを利用してやったってわけ。


「こ、こ、こ、これは……!」


 温泉に浸かった彼女は何かを言いたげだけど、言葉が続いて出てこないようだ。

 それでも体をふるふると震わせる様はかわいい。


「ええやん! めっちゃ、ええやん、これ! なんかこう、じわじわーっと来るで! 体の内側からぽかぽかやんか! にゃはは、これが温泉いうもんなんか! ほんまにびっくりや」


 そういうとメテオはにへにへ笑いながら温泉の中にぷかぷかと浮かぶ。

 メテオの表情は完全にリラックスしきっている。


「気持ちええやん」


「最高やん」


「素敵やん」


 そんな言葉を連発するのだった。

 ほらね、温泉に一度でも触れてみたら、こうなるわけよ。



「あれ、メテオ、顔の傷跡みたいなのがなくなってない?」


 リラックスしている彼女を見ていると私はあることに気づく。

 さっきまで確かにあったはずの右頬の傷跡がなくなっているのだ。

 赤紫になっていた傷だし、見落とすなんてありえないはずなんだけど。


「……はぁ? な、何言うてんねん、これはただの傷とちゃうんやで……? 冗談も休み休み言わな」


 メテオはそう言うと自分のほっぺたを触って、ちょっと怒ったような声を出す。


「いや、消えてるけど?」


 しかし、念押しをする私なのである。

 人の外見のことを言うべきじゃないってわかってるけど、明らかに傷跡が消えているのだ。

 指摘しない方がおかしい。


「メテオ様、こちらをお使いください」


 温泉に入らずにそばに待機していたララが、状況をすぐに理解して鏡を持ってきてくれる。

 さすが、できるメイド!


「うちの顔のはそんじょそこらの傷とちゃうんやで。そんな簡単に消えるはずが。……ほ、ほ、ほ、ほんまや、どういうことやねん!! 何が起こってんねん」


 手鏡を渡されたメテオは驚きのあまり声を震わせる。


「うちの顔が治ってもうてるやん!! うちのパーフェクトにかわいい顔をひっさびさに見た!!!」


 メテオはわーとか、きゃーとか、傷跡の閉店セールやぁ、などと高い声をあげる。

 猫耳がぴぃんと張って、目には涙まで浮かばせて喜んでいるようだ。



「ユオ様、領主様、魔女様、ありがとう! めっちゃ、おおきに! 何から何まで、あんたは恩人やで!」


 両方の瞳から雫を溢れださせ、感謝の言葉を伝えるメテオ。

 感極まってしまったのだろうか、言葉の最後のほうは涙でぼろぼろになっていて、抱き付かれてしまう。


 自分の温泉が役に立ったのならすごくうれしい。


「ほら、言ったとおりでしょ! 温泉ってすごいんだから!」


「ほんまやな! この温泉があったら天下取れるかもわからんで!」


 私とメテオは二人で歓喜するのだった。

 うーむ、こういうノリで温泉でわいわいやるのも案外楽しい。


 それにしても、素肌同士で抱き付かれるのは相当な密着。

 ふんにゅうと柔らかいものが当たるわけである。

 メテオは小さい体つきながら、かなりいいものをもってることがわかる。

 ちょっとジェラシー……。



「よぉし、うちもユオ様の野望に乗らせてもらうで! 商人の仕事ならなんでも任せてや!」


 そう言って右手を差し出してくるメテオ。

 つまりはメテオが私の領地計画に参加するということだ。

 これまで素材の売買など自分たちだけで手が回らなかった仕事も多いため、非常にありがたい。



「ふふ、一緒に世界最高の温泉リゾートつくっていくわよ! 目指せ、世界で一番豊かな村!」


 そういって笑顔でがっちりと固い握手をかわす私たちなのであった。

 夕日が沈みかけていて、ちょっといい感じの絵になってると思う。


 まさに『あの時、マジ天国の湯の歴史が動いた!』みたいな感じ。


「…ご主人様? 全裸で何をなさってるんですか?」


 感動的なシーンだったはずなのだが、ララには戸惑いの声をあげられる。

 ちょっと熱くなり過ぎた……。

 私とメテオはちょっと赤面しながら、いそいそとお湯につかりなおすのだった。



【魔女様の人材】

・メテオ:猫人族の商人。冒険しながら各地をめぐる肝っ玉の太い女の子。鑑定スキル持ち。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「素敵やん……!」


と思ったら


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