169.魔女様、エリクサーが目覚めたので朝っぱらから最高のおもてなしをしてみる
「ぬぉおおおお!? ここはどこなのじゃ!?」
デスマウンテンに行った次の日の朝、屋敷にひときわ甲高い声が響き渡る。
そう、あのエリクサーっていう子が目を覚ましたのだ。
彼女は村に戻る途中で疲れて眠ってしまっていた。
ひょっとしたら、 あの骸骨が怖くて前後の記憶を失っているなんてこともあるだろう。
私は彼女の部屋に入ると、村について教えてあげることにした。
「な、なんと、ここがあの暴虐の村じゃと!??」
「ぼ、暴虐の村って何?」
私たちのハッピーラブリーな村が暴虐なんて言われるのは穏やかじゃない。
こう見えて私たちは荒っぽいことは全然していないのだから。
「知っておるぞ! あの忌々しいボボギリを鎮圧した化け物の住む村じゃろう!?」
彼女はそう言って、私が爆発させた、あの大きな木の化け物のことを話し始める。
・ボボギリは彼女の住んでいた村も襲うなど、迷惑なやつだった
・しかし、禁断の大地の奥におびき寄せられて化け物によって解体させられた
要点をまとめると、こんな感じである。
ボボギリがやられたことについては噂として彼女の村にも届いたらしい。
私が手違いで爆発させたとか言うと、こっちが化け物扱いされてしまう。
ここは一つ勝手に爆死したとか、適当なことを言っておこう。
「ふぅむ、なるほど。寿命じゃったんかのぉ。トレントの寿命は千年はあるというのだが……」
エリクサーは子供のくせに腕組みをして、うむうむ唸っている。
この子の演技力は大したもので、見かけは子供なのにまるで年上を相手しているような気分だ。
「それで、あなたは一体、どこから来たのかな? デスマウンテンに保護者の人もいなかったし、あなたの村に連れていってあげたいんだけど」
彼女の素性はいまだによくわからない。
だけど、私がするべきことと言えばこれだ。
エリクサーを保護者のもとに送り届けること。
口ぶりは大人っぽいけど、本当は不安で押しつぶされそうなのかもしれないし。
「……わ、わしは、その……」
お家に帰れると聞いて喜ぶのかと思ったら、エリクサーはそのまま複雑な表情になってしまう。
ふぅむ、何か訳ありらしいな。
ひょっとしたら、彼女はお家で粗相をして叱られて、家出してきたのかもしれない。
本心では帰りたいけれど、なかなかそうも言い出せない、とかなのかも。
子供心は複雑だ。
こういう時に無理に聞きだそうとしてもダメだよね。
まずは心の距離が縮まらないと。
「いいよ。話さなくても大丈夫。それじゃ、私といいことをしよっか」
「い、いいことじゃと? 暴虐の村で!?」
「いいから、いいから」
そういうわけで私は彼女の手を取って、屋敷を出る。
うちの村の温かいおもてなしを受けてもらおうというわけなのだ。
◇
「へい、らっしゃいなのだ。今はモーニングサービスがあるのだらっしゃい!」
まず訪れたのはクレイモアのやっている食堂、「でっかいハンバーグ亭」だ。
このお店、午前中の時間帯は朝ごはんを出してくれると評判になっている。
鉢巻をしてて相変わらずクレイモアのキャラがよくわからない。
「ユオ様、おはようございます! こちらがメニューですぅ」
かわいらしい服を着たリリはクレイモアの手伝いをしているらしい。
学校の教師に、癒しどころの主任に、彼女はいろいろな仕事を引き受けすぎてる気もする。
でもまぁ、似合っているからいいかな。
「ふぅむ、なんじゃこれは、ドリンク一杯だけでカツどんがついてくる、とは??」
メニューを渡されたエリクサーは目を見張る。
それもそのはず、クレイモアの作るモーニングサービスのメニュー、「どぉんと朝ごはん」はドリンク一杯の値段で、色んな食べ物がついてくるのだ。
サラダやパンは当然のこと、どういう理由かわからないが、ゆで卵もついてくる。
さらにはカツどんなる料理や、シチューにハンバーグまで。
サービスというか、やりすぎだと思う。
お客さんがたくさん入っているのは頷けることだけど。
「ふくく、大好評だから朝ごはんを夕方までやってやろうかって思っているのだよ」
ものすごい勢いで包丁を振るうクレイモアは不敵に笑う。
だけど、朝ごはんは朝食べるから朝ごはんなのではないだろうか。
便利は便利だけど、頭がおかしくなりそうだ。
「お、美味しぃいいのぉおお、なんちゅうもんを食わせてくれるんじゃぁ」
エリクサーはパンをくわえたまま、そんなことを言う。
目には涙を浮かべていて、感動しちゃったらしい。
お行儀がちょっと悪いけれど、子供っぽくてかわいい。
彼女はすごい勢いで食べ終わると、クレイモアの焼き立てパンをお代わりした。
ひょっとしたら、お腹が減っていたのかもしれないな。
もちろん、お腹が減ってなくてもお代わりできるぐらい、クレイモアのパンは絶品だったけど。
◇
「よぉし、お腹がいっぱいになったら、次はこれしかないでしょ!」
「ひ、ひえぇええ、なんじゃ、ここは!?」
そして、次なるおもてなしは朝の温泉なのである。
私はエリクサーを屋敷の温泉へと案内する。
うちの村にはちょっとした論争がある。
朝ごはんの前に温泉に入るか、それとも後に入るかについてだ。
これについてはまだ決着がついておらず、二大派閥はいまだにしのぎを削っている。
とはいえ、朝の温泉は夜の温泉とも違って非常に趣があることは確か。
小鳥がちゅんちゅん鳴いているそばで温泉に入ってぼんやりするのは最高の気分なのだ。
朝から働かなくていいぞぉっていう優雅な時間でもあるし。
エリクサーは子供なのでちょっと温めの温度にしてあげよう。
「なっ、ふ、服を脱げじゃと!?」
「そりゃそうでしょ、お湯に入れないじゃん」
「い、嫌じゃ。わしは遠慮しておくぞ。一宿一飯の恩義はあるが、お断りじゃ」
「子供は素直になんなさいってば。ララ、やっちゃいなさい」
「ひぇえええ!?」
おそらくは生まれて初めての温泉にびびり倒しているエリクサー。
彼女は温泉に入るのを渋るのだけど、ララの得意技、瞬間脱衣の前には無力。
すささーっと服を脱がせられ、長い髪の毛はお団子にセットアップ。
すなわち温泉タイムの装いになるのだった。
「ふふ、私が先に入るね。ほらっ、すっごく気持ちいいよ? うわぁあぁああ、朝の温泉さいっこぉおおおお! ぬるめなのがまたいいわぁ」
エリクサーに範を見せるべく、私は率先して温泉に入って、その気持ちよさをアピールする。
昨日の夜とはまた違う格別のお湯。
はぁあああ、ずっと入っていたい。
「リアクションが変過ぎるぞ。こんな妙なにおいのするお湯に入って最高とか、頭のどこぞが呪われてるのじゃないか」
しかし、彼女は私のアピールになかなか屈しない。
子供だから警戒心が強いのだろうか。
うーむ、うちの村の子供たちはみんな温泉が大好きなんだけどなぁ。
「まぁいいから、入りなさいってば。ララ、お願い」
「な、何をするんじゃ、ひぇええ、お湯をわしにかけるじゃと!? ひ、ひぇええ」
いつまでも渋っていたんじゃ埒が明かないので、ララに入浴補助のお手伝いをしてもらうことにした。
まずは温泉のお湯を体にざぱぁんとかけてもらい、それからお湯にいれてもらう。
エリクサーは「うわぎゃあ」などと声をあげていたが、お湯の中に入ったら急に静かになった。
そして。
「こ、これは、すごいのぉ、なんていうか、骨までしみるのじゃ。関節にも効くのぉ」
お湯に浸かったエリクサーはまるでおばあちゃんみたいなリアクション。
生まれて初めて温泉に入ったのはわかるけど、骨とか関節とか年寄りっぽすぎる。
とはいえ、温泉を気に入ってくれて何より。
私はララに、やったねとアイコンタクトをする。
「これはとろけるのぉ。……ん、なんじゃ?」
しかし、ここで思わぬハプニングが発生。
生えたのだ。
何がって、角が。
どこにって、側頭部辺りに。
「はわわわわわ!? 何でじゃ!? 何が起きておる!? せっかく偽装しておったのに」
突然、背中から羊みたいに巻いた角が生えてきたので、驚き焦るエリクサー。
ん?
偽装って言った?
「ひぃいいいい、ば、バレてしまったぁあああ。暴虐の村の女首領にわしが魔族であることがバレてしまったのじゃぁああ」
エリクサーは怯えた表情で固まっている。
しかも、ご丁寧に自分のことを魔族とまで自己紹介する。
にょきっと生えた角はそれほど大きくはないけれど、確かに魔族の特徴だ。
「ララ、今、この子、魔族って言った?」
「おっしゃいましたね」
温泉に女の子を入れたら、偽装魔法が解けて魔族だってことが判明した。
これには呆然と顔を見合わせるしかない私たちである。
「ひぃいいい、お助けぇえええ。わしはこう見えて子どもなんじゃぞぉぉ」
お湯に入ったまま、がくがく震えるエリクサー。
どうやら私たちに正体がばれてしまって怯えているようだ。
ふぅむ、魔族と言えば人間の敵ということになっている。
百年前の大戦争で真っ正面から衝突したからだ。
特にリース王国では魔族と言えば、親の仇のごとく憎まれてれている。
しかし、目の前の少女に対して私は何の恨みもない。
そもそも、彼女はデスマウンテンで私たちを助けてくれた。
それに、温泉のことを気持ちいいって言ってくれた。
私は思うのだ。
温泉を心から楽しめる人に悪い人物はいないのだと。
例えそれが魔族であっても。
「あなたに危害を加えるつもりはないよ、安心して」
「本当にか? わしはこう見えて嘘は嫌いじゃぞ?」
「本当だってば。ほら、大丈夫だから落ち着いて」
私はエリクサーの頭をよしよしとなでてあげる。
彼女からすれば敵である人間に正体がばれてしまったのだ、怯えるのも無理はない。
何はともあれ、こちらに害意はないことを示し、取り乱す彼女の心を落ち着かせることが先決だ。
「うっ、うっ、実はわしの村は…」
そして、彼女は話し始める。
どうして彼女がデスマウンテンをさまよっていたのかについてを。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「クレイモアのモーニング(終日)……!」
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