168.魔女様、伝説のアーティファクトを手に入れるも、頭の中はあれをすることしか考えられない
「ご主人様、彼女はいかがいたしましょうか?」
デスマウンテンから村に戻る頃には、エリクサーはもう眠ってしまっていた。
村の皆さんに聞いてみるも、皆、こんな子供は見たことがないとのこと。
「疲れてるみたいだし、とりあえず寝かしておくしかないよね」
彼女も保護者とはぐれてデスマウンテンに迷い込んでしまったのだろうか。
宝石を散りばめた服装から考えるに、どこか高貴な身分の子女なのだと思う。
しかし、いくら魔物除けを持っているからと言って一人で楽しくピクニックできる場所じゃないはず。
彼女は何者なんだろうか?
寝顔は完全に子供そのもの。
とりあえず私の家の客室に寝かせてあげるとして、目が覚めたら彼女のご両親の元へ送り届けてあげよう。
それにしても寝顔がものすごく可愛い女の子だなぁ。
将来は絶世の美女になりそうな顔立ち。
私と同じように黒髪なのかと思っていたけど、濃い紫色の髪でキラキラ光っている。
しかも所々に薄緑色の髪の毛も混じっている。
ふぅむ、髪の毛が二種類生えてるのだろうか、非常に興味深い。
沢山の人種が入り乱れる都会でも、こんな髪をしている人は見たことがない。
もしかしたら私の知らない地域の出身なのかもしれない。
とはいえ、彼女が寝ている間に私にはやるべきことがあるのだ。
温泉、である。
温泉に入るのだ。
雪山の中に入っていたのだし、いかに冷え知らずの私でもちょっとは冷えた(心が)。
そりゃあもう絶対に温泉に入ったら気持ちいいはず。
「ご主人様、温泉のご用意、完了いたしました」
「魔女様、お風呂に入るのだ!」
そして、私の意識を読み取っているのか、扉の向こうから声が聞こえてくる。
やっぱりみんな、わかってるじゃん。
疲れているときは温泉だよね!
◇
「うひぃいい、さいこぉおおお」
温泉に入ると、案の定、へんな声が出てしまう私である。
だって、しょうがないじゃん。
肌を包み込んでくれる、このお湯の感覚って最高なんだもの。
特に今日は体がじっくり温まる気がする。
「最高ですね」
「生き返りますぅううう」
「いいいのだぁああ」
うちの屋敷の温泉に入ったのは、ララとリリとクレイモアだった。
ハンナは温泉リゾートのシフトがあるらしい。
いや、いくらなんでも真面目すぎでしょ。
化け物と戦った後ぐらい休んでほしいんだけどなぁ。
「それにしても、ご主人さま、今回も素晴らしかったです! あの骸骨の化け物を瞬殺でしたもんね」
「それどころか、山に穴を開けるなんて想像しなかったのだ! アースイーター黒髪魔女なのだ! 伝説の大ミミズ黒髪魔女!」
お風呂に入りながら、ララとクレイモアが褒めてくれる。
いや、クレイモアのそれは褒めてるのかな?
「ってことは、サジタリアスまでの街道ができるってことですか!? ユオ様、すごすぎます!」
失神していたリリは今頃になって事情を理解したらしく、興奮気味に声を上げる。
いやいや、偶然、たまたまだよ。
別に意識して山に穴を開けたわけじゃないし。
とはいえ、街道に一歩近づいたのなら、それは結果オーライとして受け入れるべきだろうか。
ふぅむ、デスマウンテンに子供を助けに行ったら、思わぬ収穫をしてしまった。
収穫と言えば……。
私はデスマウンテンで拾った、あるものを思い出す。
「あ、そうだった! 実はこんなものを拾ったんだよね」
十分に温まった私は、いったんお湯から上がってタオルで身を包む。
そして、皆の衆に先程のデスマウンテンで見つけたモノを高々と掲げるのだ。
「そ、それは随分ぼろいですね……!?」
「薄汚いボロダサバッグなのだ!?」
「こら、クレイモア、失礼ですよ! いくら薄汚く貧相でも言い方ってものがあります。年季の入ったアンティークバッグというのです」
三者三様に散々な言われ方である。
って、誰一人、これが何なのか気づくはずもないか。
あの夢をみたのは私一人だけだったぽいから。
私はデスマウンテンで見た精神干渉について説明する。
あの精神干渉のビジョンの中で、あの幽霊の女の人が確かにこのバッグを持っていたのだ。
あの女の人はサジタリアスからこのバッグを盗んだために追いかけられていた気がする。
サジタリアス。
盗まれたバッグ。
……ってことは、このバッグは辺境伯たちが話していた、空間袋かもしれない!?
そんな風に私はぴぃんと来たのである。
「こ、これが空間袋!? ご主人さま、それはさすがに冗談キツすぎですよ! どうみて5ゼニーぐらいの革袋です」
「そうなのだ! そんなぼろっぼろのバッグがお宝とかありえないのだ!」
「クレイモア、魔女様は本気で言ってるんですから、信じてあげなきゃダメです!」
しかし、3人とも全然信じてくれない。
ララやクレイモアはさっきからボロいとか好き勝手言ってくれるけど、リリのナチュラルな優しさのほうが心に痛い。
この子、かわいい顔して、まさか毒舌キャラとして開花し始めてるんじゃないでしょうね。
うーむ、どうしたものか。
第一、私だってこれが本物なのかわからないんだよね。
あくまで幽霊が落としていったってだけであって。
辺境伯が言うには何でもかんでもいれることができるっていうことだけど……。
……なんでも?
……お湯でも?
「そうだ!」
私は温泉のお湯にバッグをつけてみることにした。
もし、これが本当のバッグであれば、きっとお湯をいくらか吸い込んでくれるだろう。
「ご、ご主人さま、バッグが台無しになりますよ!?」
私の行動にララはびっくりした顔をする。
もし、これが魔法の空間袋じゃなかったらダメになるかもしれない。
とはいえ、古いバッグの一つぐらい構わないよね。
「おぉおおおお!? な、なんなのだ!?」
「お湯がっ、お湯がなくなってきました!」
しかし、10秒もしないうちに結果が出てしまう。
温泉のお湯がみるみるうちに減ってしまったのだ。
私の屋敷の温泉はプライベートなものとはいえ、大人が10人以上は軽く入れる大きさである。
その量のお湯がいきなり半分以下になるなんて、普通じゃ考えられない。
「え、えええええ、やっぱりこれ、本物じゃん……!!」
すなわち、私がデスマウンテンで拾ったのは伝説の魔法具、空間袋なのであった。
へへーん、どうだ。
ボロボロのバッグとか言いたい放題言ってくれっちゃってさぁ。
「「「ひぇえええええええ!!!??」」」
その場にいた3人は同じような悲鳴を上げる。
まさに開いた口が塞がらない状態。
「これがアーティファクト!? すごすぎです! 魔女様伝説の幕開けですよ!」
「これがあれば美味しい食材を無限に入れられるのだ!」
お湯が少なくなった温泉でララとクレイモアは飛び跳ねて喜ぶ。
いや、素っ裸でよろこびすぎ。
あんたら、ばいんばいん揺らしすぎ。
「あ、そう言えば、この空間袋はサジタリウスから盗まれたものだったっけ。ってことは、リリに返せばいいのかな? 今度、クエイクと一緒に持って帰ってよ」
とはいえ。
このバッグはもともとはサジタリウスから盗まれたものだったことを思い出す。
ってことは、偶然拾っただけの私に所有権はないだろう。
ここはやはりサジタリアス辺境伯のご息女であるリリに返却すべきだよね。
「いいえ! 盗まれたのは100年も前の話ですので時効です! それに魔女様に託されたのですから、私が受け取る権利はありません!」
しかし、私の提案をリリは拒否する。
リリは頑固なところがあるので、一度、決めたらなかなか首を縦に振ってくれない。
せっかく辺境伯に恩を売る機会なんだけどなぁ。
しょうがないので、とりあえず一時預かりという形になった。
然るべきときに辺境伯に直接返しちゃおう。うん。
それと、この袋のことはあの子たちには内緒にしておこう。
メテオとか、ドレスに知られると面倒だろうから。
ふくく、それにしてもいいものを手に入れたなぁ。
これがあれば、あれができる。
そう、外出先でも温泉に入れるってことなのだ!
ひゃあっほぉおおお!
【魔女様の手に入れたもの】
空間袋:見かけの容量以上にものを収納できる魔法道具。数百年前に伝説の魔道具士が制作しサジタリアスに伝わっていたものだが、ずっと失われたままになっていた。入れたものは魔法空間に格納され、互いに干渉しないため保存に優れている。原理は不明だが、生体は入れることはできない。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「空間袋だと、奴になんていうものを持たせやがったんだ……!?」
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