165.魔女様、デスマウンテンの主を聖なるアレで浄化する
「私の力を、寒さの恨みを思いしれぇ!」
リリがひるんでいるすきに、再び猛烈な吹雪が辺りを覆う。
敵が叫びに叫んでいるところを見るに、あの幽霊は寒さに大きな自信があるらしい。
「ゴーストというのは生前の強い思いによって生まれると言われています。もしかしたら、あのゴーストは寒さに異常な執着を抱いているのかもしれませんね」
ララはリリを介抱しながら、敵を見事に分析する。
ふぅむ、さすがはララだ。
私はその言葉をヒントにあることを思いつく。
つまりは敵の力の源である、「寒さ」を一気に解消してあげればいいのだ。
とはいえ、私がいくら熱視線を放っても倒せなかったのは分かっている。
山ごと加熱・蒸発させるのはエリクサーが反対している。
相手に効くのは浄化魔法だけ。
じゃ、どうするかというと……。
お湯だよね、しかも、聖なるお湯、それしかない。
魂を温めるには、温泉しかないでしょ。
とはいえ、ここに温泉を持ってこれるはずもないわけで。
「リリ、もう一度、あいつに浄化魔法を放つわよ!」
私はリリの手を取ると、もう一度、立たせる。
「で、でも! 私の浄化魔法が効きませんでしたよ! 私はダメなんですぅうう! 本番に弱いし、度胸もないし、腕もないし、へっぽこだし、胸も小さいし!」
リリはそれだけ言うと、せきが切れたように泣き出してしまう。
怖いのは分かる。
相手は口が裂けまくった幽霊だし。
猛吹雪で何もかも凍りつかせる化け物だし。
だけど、胸の大きさは関係ない。
「リリ、大丈夫。今度は私と一緒に祈ろう! リリならできる! 私と一緒なら!」
私はそう言って彼女の肩をぎゅっと抱きしめる。
恐れおののいているリリをどう説得すればいいかなんてわからない。
だけど、私には確信があった。
次の方法なら、きっと上手くいっていく確信が。
「ユオ様……」
リリは私の目を見つめた後、固く目を閉じる。
涙がぽろぽろとこぼれた後、彼女はもう一度、目を開く。
「ユオ様はいつでも温かいんですね。 ……私、やります!」
彼女の目はさきほどまでのか弱い女の子のものではなかった。
その瞳からは、彼女の強い意志が伝わってくる。
「ハンナ、クレイモア、シュガーショック、できるだけ奴の足元に穴を開けるように攻撃して!」
「了解しましたです!」
「ひゃはは! 何か楽しいことをするのだな!?」
わんわんわうわう!
私の声に合わせて二人と一匹から頼もしい返事が返ってくる。
三人は女幽霊の足元に届くような攻撃を開始する。
どがぁん、と鈍くて重い音が響き渡り始める。まるで工事でもしているみたいだ。
「ララ、あいつの頭上に特大の氷を出現させて!」
「わ、わかりました! 氷山弾塊!」
まずはララの氷魔法で、奴の頭の上に氷の塊を出現させる。
案の定、幽霊は「こんなもの効くかぁあ」と怖い顔をしているけど、とりあえず無視。
次はリリとの共同作業に入るよ。
「リリの浄化魔法に合わせて、私も熱を放つわ。タイミングを合わせて一気にやっつけちゃおう」
私はリリと背中合わせになって、目を閉じる。
想像力を研ぎ澄ませて、深く深く呼吸をする。
私の熱が幽霊を包み込み、一気に温めてあげるイメージを。
リリの浄化魔法の聖なる力がその熱をいつまでも持続させるイメージを。
いわばリリの浄化魔法と私の熱スキルの合わせ技だ。
「浄化の光よ!!」
30秒ほどたち、リリは再び浄化魔法を発動させる。
タイミングを見計らっていた私もその魔法に乗せてスキルを発動させる。
背中合わせでいたためか、二人の呼吸はシンクロし、力が増幅する確信があった。
ぶわぁああっとオレンジ色の光が女幽霊に伸びる。
「ひぃいいいいい!?」
さすがの浄化魔法に、女幽霊は悲鳴をあげる。
ひょっとしたら、この技だけでも女幽霊は浄化できたかもしれない。
しかし、私には試してみたいことがあった。
それがララの作り出した、大きな氷の塊を使った、ある作戦だ。
本来はあの魔法は氷山の質量をもって敵を押しつぶすものだ。
しかし、今回の狙いはそれじゃない。
じゃ、何のためかというとだね……。
「えいやっ!」
私はララの生み出した氷山を熱の直方体で囲む。
これはリリの放った聖なる浄化魔法と私の熱が合わさった、浄化魔法と熱の直方体。
「へひ?」
女幽霊は浄化魔法が自分に直撃しなかったので、きょとんとした表情をしている。
しかし、本番はここから。
私たちの浄化と熱の直方体は氷を包み、一気に溶かしてしまうのだ。
結果。
どばっしゃあぁああああああん!
目の前の女幽霊は大量のお湯に飲み込まれてしまう。
浄化魔法のおかげなのか、キラキラと光ってとてもきれいなお湯だった。
ふふふ、湯加減はどうかしら?
「こ、これは……!? 温かい! 温かぁああああい! 今までどんな火炎を受けても、熱など感じなかったのに……!!!!」
女幽霊のモンスターはオレンジ色の光とお湯に包まれながら、恍惚の表情を浮かべる。
ハンナたちが足元に穴を開けていたから、ちょうどいい感じの露天風呂みたいになってる。
「あ、温かい。あたたかぁあああい!」
お湯をどばどばかけられて、幽霊はまるで笑っているような表情に変わる。
さっきまでは眉間にしわを寄せた険しい表情だったから、正直、驚いてしまう。
だけど、これこそがお湯の力。
幽霊でさえも、おもわずニッコリするわけよ。
「……ありがとうございました。こちらをお返しいたします」
幽霊はそれだけ言うと、ふわぁっと空へと舞い上がり、次の瞬間、どこかへと霧散してしまう。
リリの浄化魔法と温かいお湯の力で、魂レベルの寒さを手放してしまったのだろう。
これがうちの村の温泉のお湯だったらもっと簡単に解決できたかもしれないな。
「なにこれ?」
女幽霊がいたところの木の枝に革のバッグが引っ掛けられていた。
ちょっと大きめのバッグではあるけど、なんの変哲もない皮のバッグだ。
表面にどこかの国の文字で何かが書かれているけど、……読めないし。
戦利品ということで、とりあえず預かっておこうかしら。
猛吹雪も止み、幽霊の生み出したモンスターも一気に消えうせてしまった。
いちおう、これで倒したってことでいいのかな?
【魔女様の発揮した能力】
浄化魔法湯:対アンデッド用に編み出した浄化魔法との合わせ技。敵を浄化されたお湯で包み込み、魂まで浄化する。今回はララの氷魔法を活用し、水を発生させた。
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「打たせ湯の起源……?」
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