164.魔女様、リリを奮い立たせて浄化魔法をうってもらう
「ひぃいいいいいい!?」
「あははははは、楽しいのだぁ!」
わんわんわん!
数十秒後、森の木々にからめとられ、よく聞いたことのある声の二人と一匹が現れる。
リリは枝にぐるぐる巻きになったあられもない姿で現れ、クレイモアはどういうわけか木の板に乗って登場。
シュガーショックに至っては普通に走っている。
「ご主人様、これは一体!?」
ララは目を白黒させるけど、もちろん、私だって分からない。
わかるのはエリクサーが祈ったら、リリたちが植物に連れてこられたってこと。
ひょっとして、彼女、植物を操れるとかそういうわけ!?
「何人いようが無駄なこと! いでよ、わが眷族たち!」
女の幽霊モンスターが叫ぶと地中からたくさんの氷の兵士がうじゃうじゃと現れる。
どうやらこの幽霊、ここのアンデッドモンスターを生み出すことができるらしい。
なんて迷惑なやつ。
「よぉし、こいつらはあたしたちに任せるのだ!」
「あはは! たたき切れればそれでいいですぅうう!」
クレイモアとハンナは敵を見るなり突っ込んでいく。
幽霊はともかく体を持っている敵なら攻撃が通る。
「じゃ、リリはあの女幽霊をさくっと浄化しちゃってくれる?」
あとはリリが浄化魔法であの親玉モンスターをやっつければ一丁上がりという寸法だ。
いやぁ、よかった、助かった。
私はここでゆっくり見ていよう。
「ひぃいいい、何を言ってるんですか!? あんなの浄化できるわけないじゃないですか! グレートゴーストとか、リッチとかそういうのです! サジタリアスにはこんなのいません!」
だがしかし。
予想通りというか、期待外れというか、リリは巨大な幽霊の前で取り乱しまくっている。
よくよく考えれば、彼女は戦闘向きな性格ではないのだ。
モンスターが現れた、はい、戦います、なんていう単純かつ好戦的な性格ではない。
そういうのはクレイモアやハンナといった脳みそ筋肉シスターズの特権なのだ。
私だってあれと戦えって言われたらひるむだろう。
「おまえ、サジタリアスのものかぁあああ!? 絶対に生かしてはおかぬぅうう!」
サジタリアスの言葉に引っかかることがあったのか、女の幽霊はものすごい吹雪で私たちを圧倒しようとする。
熱の幕を張っているおかげで無事にはすんでいるけれど、顔が怖い。
怖いものは怖い。
「ご主人様、いっそ、この山ごと爆発させればいかがでしょうか?」
ごうごうと吹き荒れる吹雪の中、ララが私に動くように耳打ちしてくる。
確かに山全体を吹っ飛ばせば、幽霊も消えるかもしれない。
この間、死霊ドラゴンを消し去った攻撃を放てばどうにかなるかもしれないけど。
「ダメじゃ! ここは素晴らしい素材がとれるのだぞ! 自然を大事にするのじゃ!」
しかし、どういうわけか、エリクサーが大きな声で反対する。
さきほどから子供離れした振る舞いで驚かせてくれるけれど、今度は自然を守れの一点張り。
彼女が何者なのかについては後で考えるとして、鬼気迫る表情。
とりあえず山を吹っ飛ばすのはやめることにした。
「リリ、あいつをやっつけるよ!」
こうなったらリリに頑張ってもらうしかない。
私はガタガタと震えているリリを何とか立たせると、彼女の手を握る。
「で、でもぉ。浄化魔法を使うには祈りの時間が必要でして……」
リリは泣きそうな顔で浄化魔法の術式について説明を始める。
リリの浄化の能力には30秒ほどの祈りの時間が必要なのだそうだ。
その間、集中力を維持しなければ、力が発揮されないとのこと。
つまり、ちょっとでもびくっとしたり、驚いたらやり直しってわけだ。
「私が守ってあげる。皆のためにも、リリしかいないの!」
「わ、わかりました。頑張ります!」
皆のためという言葉が効いたのだろうか、リリはやっと意を決してくれる。
彼女はすぅっと息を吐くと、目を閉じて詠唱を始める。
その様子はまさに聖女様みたい。
私はというと、こちらめがけて飛んでくる氷の氷柱や木の枝やらをとにかく溶かしたり、燃やしたりする。
まぁ、熱の壁を発生させているだけだけど、これでも働いているんだよ。
ハンナとクレイモアとシュガーショックは次から次へと現れる氷のアンデッドモンスターをなぎ倒す。
ララは村人の女の子とエリクサーをしっかりとケア。
戦いは次第に総力戦を呈してきたのだった。
「……邪悪な悪霊よ、聖母様の慈悲によって霧散しなさい!」
ぴったり30を数えた瞬間、リリは両手をゴーストにかざす。
明るい光が彼女の手から発せられ、ついで敵を包み込む。
そのオレンジ色の光は心が晴れやかになるような、爽やかな色をしていた。
すっごぉい、これが浄化魔法!
ハンナのやつとは全然違うよ。
「ぐぉおおおおお!? 効かぬわぁあああ!」
しかし、敵の執念はものすごい。
幽霊は叫びながら浄化魔法を霧散させてしまう。
明らかにダメージを与えているとは思うのだけど、完全には消滅しきれていない感じ。
「私の寒さを、無念を思い知らせてやるわぁあ!
親玉の幽霊はさらに吹雪を引き起こし、私たちを凍り付かせようとしてくる。
まるでこれが最後の攻撃だって言わんばかりに。
「ひ、ひぇええ。怒らないでくださぁああい」
浄化魔法が効かなかったからか、リリはぺたりとしりもちをついて泣きべそをかく。
あっちゃあ、メンタルで負けちゃったぞ。
どうすればいいんだろうか?
やっぱりいっそ、ここら一帯を爆発させちゃうか?
ちょっと山の地形が変わっちゃうかもだけど、こればっかりは不可抗力だよね。
それはそれで、この山全体を浄化というか、消毒するってことになるだろうし。
私は猛吹雪を発生させる親玉をにらみつけるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「目に見えるものすべてを消し去る消毒攻撃……」
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