163.魔女様、デスマウンテンの主と対峙するも全体攻撃しかできず攻めあぐねる
「それにしても、ここはデスマウンテンじゃぞ? わしは結界を持っておるからともかく、おぬしらはどうやってここまで来たんじゃ?」
はむはむとサンドイッチを食べ終わると、エリクサーはそんなことを言う。
なるほど、貴族の子弟だと思ったのは間違いないらしい。
モンスターを防ぐための携帯型の魔法結界は庶民じゃ手が出ないほど高価なものだ。
村人がアイラに持たせているお守りとは天と地ほどの差がある。
アイラが無事でいられたのも、きっとエリクサーと一緒にいたからなんだろう。
「ふふふ、このハンナさんがばっさばっさ斬ってくれたからね」
確かにデスマウンテンと言われるこの山には奇々怪々なモンスターが多い。
しかし、こちらにもモンスターがいる。
それこそが剣聖の孫であるハンナちゃん。
彼女は鋭い剣裁きで現れるモンスターをすべて片付けてしまったのだ。
「……ふぅむ、なるほど。あやつに出会わなかったのは幸運じゃったな」
エリクサーはふむふむなどと何やら訳知り顔でうなずく。
いつまでそのキャラを続けるのかなと思ってみているが、ずっと続けるつもりらしい。
親御さんに会ったら泣きじゃくるんだろうけど、今は強がっているのかな。
……ゴゴゴゴゴゴゴ
休憩も終わり、いざ出立となった矢先、山の上の方から地響きが聞こえてくる。
明らかに嫌な奴が出てきそうな音であり、聞きたくない方面の音だ。
何で出てくるわけ!?
そろそろ、おいとましようかなって思ってたのにぃ。
「みぃいつけたぁあああああ!」
私たちの眼前に現れたのは青白く光る大きな女のモンスターだった。
おそらくはゴーストとかに分類される奴なんだろうけど、かなり怖い。
「おぉっ、現れおったぞ! デスマウンテンの主、氷霊女帝じゃ! 透明じゃのぉ」
エリクサーはちょっとのんきな口調でそんな解説をしてくれる。
しかし、今は彼女の茶番に付き合っているわけにはいかない。
こうなったら私たちであいつをやっつけるか、うまい具合に出し抜いて逃げるしかない。
「火炎弾!」
ララが炎魔法でモンスターに攻撃を仕掛ける。
彼女の魔法もかなりの腕前になっているのだ、きっと、通じてくれるだろう。
「生ぬるいわ、生半可な炎など効かぬ!」
しかし、相手はララの放った炎の塊をはねのける。
さらには口から吹雪を吐き出して辺りの木々を凍り付かせる。
うぅう、結構、寒い。
「私の寒さを思い知れ! この山に入るものはすべて凍らせてやる!」
どうやら敵は氷属性の幽霊だったらしい。
氷魔法を得意とするララとの相性は悪いに決まっている。
「えいっ……、あらら」
しかも、私が熱視線を放っても、分断されるだけですぐにくっつく。
私の熱視線のスキルが効かないなんて初めてだよね。
なるほどゴースト系のアンデッドだと熱視線は効かないのか。
この様子だと熱平面や熱空間も効くかわからないな。
「みんな、こっちに来て!」
私は半径10メートル程度に熱を放ち、敵の低温攻撃を無効化する。
外は吹雪でも、熱のドームの中はぽっかぽか。
これならこっちが削られることはないはず。
「おぉっ!? どういうことじゃ!?」
いきなり温かくなったことにエリクサーは驚きの声をあげるけれど、今は説明している場合じゃない。
この迷惑な氷幽霊を一刻も早くどうにかしないと。
「いっきますよぉおお!」
ハンナはぎらりと剣を取り出し、二刀流でモンスターに斬りこんでいく。
その切っ先は鋭く、敵の胴体を両断!
しかし、やはり敵はゴーストの類。
なにごともなかったかのようにくっついてしまう。
「ふふむ、切れませんね! しかし、これはどうでしょうか!」
ハンナはそう言うと、剣を鞘に戻して目を閉じて構える。
かっこいいけれど、明らかに無防備なんだけど。
「聖なる神よ、邪悪な敵を打ち倒す力を与えよ! 聖気斬撃!」
ハンナの叫び声とともに、彼女は青白く光る刀身をモンスターへと向ける。
「な、なるほど! あれなら行けるかもしれません」
「し、知ってるのね、ララ!?」
「ハンナさんは聖なる力を剣に乗せて攻撃しようとしてるんです! あれは聖騎士のスキルですよ!」
ララはハンナの攻撃の意図を読み取ったらしい。
さすがはララと褒めてあげたいところだが、一つだけ気になることがある。
……果たしてハンナは聖なる力とやらを持っているのだろうか。
「ひぃいい……っ!? ……き、効かぬわぁっ!」
「あべしっ!?」
ハンナの持つ聖なる力はゴーストを倒すには及ばなかったらしい。
というか、おそらく聖なる力なんて持っていない。
どっちかというと、混沌とか、破壊とか、そっちの力だと思う。
敵のゴーストは一瞬、ひるんだものの、無傷らしくぴんぴんしている。
ハンナは敵の吹雪に吹っ飛ばされて、あたりをごろごろ転がる。
「くっ、なんてことでしょう。私に聖なる神の加護がなかったなんて……!? 魔女様、万事休すみたいですよ!?」
ハンナはそういって混乱の極みみたいな顔をする。
しかし、ハンナに聖なる神様の加護がないことなんて百も承知だったし、今さら焦るわけもない。
っていうか、この子、今まで自分を何だと思って生きてきたんだろう。
どう考えても、邪神とかそういう加護をもらってそうだよね。
「ご主人様、私とハンナさんがひきつけますので、先に山を降りてください!」
ララはいつになく真剣な表情だ。
とはいえ、彼女に任せて逃げるという選択肢はありえない。
本当の聖なる力を持っているリリがいれば、浄化してもらえるかもしれないけど。
だけど、二手に分かれたおかげでどこに行っちゃったのか見当もつかない。
「一人であろうと逃がさぬぅぅううう! わが恨みを思いしれぇ!」
モンスターは叫びながら猛吹雪を起こす。
めちゃくちゃな暴風と雪で視界が真っ白になる。
これは私が防げるとして、問題は防戦一方ってことだ。
このままここでぼんやりしているわけにはいかないわけで。
最後の手段として、この山全体を加熱してみるのはどうだろうか?
雪が解ければ、このモンスターもいなくなるかもしれないし。
しかし、リリやクレイモア、シュガーショック、それに村の人だって山に入っている。
やたらめったら熱攻撃をしたら、巻き添えにしちゃう可能性もかなり高い。
仲間も一緒に蒸発させちゃったとか、絶対に嫌だ。
「ふぅむ、なるほど。おぬしのはぐれた仲間がおればどうにかなるのじゃな?」
「そ、そうだけど」
「飯を馳走してもらったお礼じゃ、わしが呼んでやろう」
エリクサーはごうごうと響く轟音の中、すくっと立ち上がる。
彼女はまだ何らかの役をやっているつもりなんだろうか。
「ちょっと、危ないよ!?」
私が叫ぶものの、彼女の態度は平然としたものだ。
泣き叫ぶどころか、その顔には恐怖の感情さえ見えない。
あれ、この子、普通の女の子じゃないのかな?
「我がしもべたちよ! 迷い人を連れてこい!」
彼女は立ち上がると、手を広げて目を閉じる。
まるで何かに祈っているようなポーズ。
「ご、ご主人様、森の木々が動いています!」
するとどうだろうか!
私たちを取り囲んでいる森の木々がぐにゃぐにゃと動き出すではないか。
もしかして、エリクサーの行動に反応したっていうわけ?
私は現実とは思えない光景に目を見張るのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「どう考えても、最強最悪の魔女様の加護では…?」
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