161.魔女様、行方不明の村人を助けるためにデスマウンテンに出動します!
「それではユオさん、また会おうぞ!」
宴会の次の日、サジタリアス辺境伯やトトキア首相たちは大急ぎでザスーラへと戻っていった。
せっかく温泉に来たのだから、朝風呂に入ったり楽しんでほしかったなぁ。
小鳥たちがさえずる中で朝っぱらから温泉に入るっていうのは、素晴らしい気持ちになれるのだ。
なんていうか、朝から休みを満喫してるんだなぁって実感できるというか。
とはいえ、帰っちゃったものはしょうがない。
それに、この村だって課題は山積みなのだ。
「一番の課題は街道の整備、これだよね」
「せやなぁ」
「そうですね、ご主人さま」
これまでの交渉で、私達の村はザスーラと正式に交易ができるようになった。
交易許可が出たということはヒトとモノがたくさん行き来できるチャンスだと言える。
しかし、大きな問題が横たわっているのである。
それは街道がないこと。
現状では道なき道を進まなければならないわけで、体力に自信のある冒険者ぐらいしか集まってくれない。
うちのミラージュ兄の領地から人がだいぶ流入してきたとはいえ、まだまだ、うちの村の人口は少ない。
人を増やすためにも街道は必須の条件になる。
じゃあ、街道を造ればいいわけだけど、ここでも一つ大きな問題があるのだ。
「デスマウンテンが邪魔なんだよねぇ」
デスマウンテンという言葉を聞くと、ララもメテオも押し黙ってしまう。
サジタリアスとの中間地点にあるその山には凶悪な死霊が住み、魔王領並みに危険だと言われている。
荒くれ者の冒険者だってわざわざデスマウンテンに足を踏み入れることはないそうだ。
「街道を作るにしても、デスマウンテンは絶対に避けなあかんもんなぁ。しかし、そうなるとめっちゃお金と時間がかかってまうで。ぐるーって周り道やもんなぁ」
メテオは大きくため息をつく。
彼女の言う通り、迂回させるとなると途方も無いコストがかかることになる。
どこかの親切な人がデスマウンテンごとふっとばしてくれないかなぁ。
そういえば、サジタリアスのレーヴェさんの言葉を思い出す。
「デスマウンテンが安全になればサジタリアスからの交易をもっと進められると思います。もし、本気で街道を整備される場合には私たちも協力を惜しみませんよ」
彼は去り際にそんなことを言っていた。
同時に彼はデスマウンテンだけは止めた方がいいと釘を刺すのも忘れなかったけれど。
「本格的に乗り出すタイミングかもね」
そもそも、この辺境が「禁断の大地」なんて言われて、取り残されているのはこういった危険地帯に取り囲まれているからなのだ。
別の方角には黒死魔の森なんて場所もある。
なんていうネーミングセンス。
こくしま、なんて響きを聞くだけで憂うつになる。
とはいえ。
領地の一つ一つの危険地帯を鎮圧していくのも領主の仕事だよね。
ひょっとしたらデスマウンテンから悪い奴らが襲ってくるかもしれないんだし。
「にゃはは! 剣聖だけど村人Aとして、あたしも頑張るのだ!」
「私だってやりますよ! 剣聖の孫の村人Bとして斬りまくります!」
村長さんがいなくなり、今やうちの戦闘要員のツートップになったクレイモアとハンナは意気込んで返事をする。
二人とも目がだいぶキラキラしているけど、これから行く場所のことがわかっているんだろうか。
「いや、それは止めといた方がええで? いうけど、死霊の女王がすんどるっていうし、そいつは物理攻撃無効っちゅう話やからね? ハンナもクレイモアもユオ様も攻撃しかできひんやろ? まぁ、ユオ様は範囲攻撃で即死攻撃かもしれんけど、相手も死んどる奴やから。どう転ぶかわからへんって」
意外なことにメテオが慎重な意見を言ってくる。
無謀な挑戦にはまっさきに賛同するのが彼女の性分なのだと思っていたが、今回は違うらしい。
「ふーむ、物理攻撃無効かぁ……」
それにしても、私をそこの脳筋二人組と一緒にしないでほしいわね。
私は自分のことを頭脳派ファイターだと思っているのだ。
今までだって、この明晰な頭脳で数々の死闘を乗り切ってきた……よね?
「くひひ、姉ちゃんは死霊のお宝盗むって言うて、返り討ちにあってんからなぁ。そりゃ、慎重にもなるわ。そもそも、顔にあったアザも死霊系の呪いやったしなぁ」
クエイクはメテオが反対する種明かしをする。
なるほど、彼女が反対する理由はそういうところにあったのか。
「でもうちも反対です。今まで通り、迂回してサジタリアスに行けばええんと違いますか? 敢えてやぶへびをする必要ないと思います」
しかし、クエイクもやっぱり反対の声を上げる。
これまで何度も村とサジタリアスを往復している彼女の実感として、敢えてデスマウンテンには近づくのは愚の骨頂とのことだ。
現状でも快適に移動できているのに、危険を犯す必要はないとのこと。
「きしし、デスマウンテンに行くだけ行ってどんなのだか見てみればいいのだ」
「そうですよ! やるだけやって斬りまくればいいんです! 死霊の女王なんて、どーせカスです!」
「ふーむ、確かに百聞は一見にしかずっていうよね。死霊の王なんて噂話かもしれないし」
私はお試しで入ってみることを伝えると、クレイモアとハンナだけは賛成してくれる。
こいつらは戦えればそれでいい二人ではあるけど、けっこう頼もしい。
「うちらは反対やで! ユオ様に万が一があったら困るわ!」
「うちも! どこかのバカ姉みたいに囚われたらどうするんですか!」
しかし、それでもメテオとクエイク姉妹は反対を連呼する。
意見が真っ二つすぎて、多数決をとるのもちょっと難しい雰囲気。
ララは腕組みをして、何やら考え込み、リリは相変わらずおどおどしている。
「ご主人様、デスマウンテン攻略には死霊対策が欠かせません。現状では対抗できるのはリリアナ様の浄化魔法ぐらいではないでしょうか」
腕組みをして難しい顔をしていると、ララが的確かつ冷静なアドバイスをしてくれる。
おぉ、いいアイデア!
死霊相手となれば浄化魔法が効果的なのはよく知られていることだ。
そして、うちの村でそれが使えるのは彼女しかいない。
「よっし、決まりね。リリ、頼りにしてるわ! まずは様子見だけだから」
「ひぃいいい、何が決まりなんですかぁ! 私はまだ行くって言ってませんし、様子見だけっていうのも嫌な予感しかしませんよぉ!」
私がリリの肩をぽんと叩くと、彼女は顔を青くして悲鳴を上げる。
彼女は冒険者の真似事をしていたこともあったが、とにかく気が弱くて戦闘には不向ではある。
とはいえ、私は知っているのだ。
ここ最近、リリはとっても魔法の腕をあげてきていることを。
それに、モンスターのスタンピードを誘導した、肝っ玉の太さだって持ち合わせている。
私はなんとかなだめすかそうとするのだが、リリは絶対に嫌だと首を縦に振らない。
……ええい、こうなったらクレイモアに頼んでおんぶしてもらうしかないな。
「ご主人様、大変です! 村の子供がデスマウンテンに迷い込んだそうです!」
そうこうしていると、村人が慌てて屋敷に駆け込んできた。
息が荒く、顔色が悪い。
経緯を聞いてみると、村人10人程度で素材集めに行った際に子供が一人、はぐれてしまったということ。
「でも、なんでそんなところに素材集めに!?」
「それが……」
村人が言うには、デスマウンテン周辺は希少な植物が生えており、珍しい素材がとれるらしいのだ。
行方不明になった少女の名前はアイラといって、村人の子供だということ。
魔物除けをもたせているが、デスマウンテンのモンスター相手ではかなり厳しい状況なのは間違いない。
「急いで救出に向かわなければいけませんね」
ララの一言に私もうなずき、クレイモアとハンナの二人にはさっそく準備をしてもらう。
それにしても、である。
今回は珍しく、温泉でまったりしていない時の事件だった。
なるほど、温泉に入っていなくてもトラブルは起こるらしい。
ってことは、別に温泉に入ることを神様に禁じられてるってわけじゃないよね。
私はこんな時でも冷静に自分を客観視するのだった。
「……ユオ様、とりあえず、温泉入ろか? 背中流したるで?」
「いらんわ! っていうか、私の温泉の時間とトラブルを一緒にするな!」
「えぇ、心の準備が……。温泉シーンが先で事件が後やろ? うち、なにごとも順番を守らないと気持ち悪いタイプやねん」
「知らんわ!」
メテオと茶番をしていると、リリの顔色が悪くなっていることに気づく。
尋ねてみると、アイラという子供はリリの運営する学校の生徒らしい。
「……ユオ様、私も助けに行きます!」
教え子の行方不明事件にリリは意を決したようだ。
こうして、私たちの救出作戦は幕をあけるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「村人Aと村人Bが強すぎでは……!?」
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