157.ミラク・ルー、動きます。しかし、女王様は
「そうだ! お姉さまのヒーターが無力じゃなければ考え直してくれるかも!」
図書館で書物を読んでいたときに、ミラクの脳裏にアイデアが浮かぶ。
それはユオの持つヒーターというスキルについて徹底的に調査するということだった。
もし、彼女のスキルが有用ならば王都に呼び戻してもらえるかもしれない。
スキルとは神の与える恩恵と言われ、その人の素質を反映したものがほとんどだ。
・筋力プラス
・鑑定力
・商才
・剣術
といった非常にわかりやすい名前で示されることが多い。
しかし、ユオの場合は違った。
ヒーターであり、クラスは【灼熱】。
その場にいた人は誰もそのスキルの存在を知らなかった。
「だったら、私が調べるしかない!」
ミラクは図書館中の本棚を探し回り、スキルについての考察書・解説書を読みあさり始めた。
「お姉さまの持っているスキルがすごいってことを証明するんだ!」
ユオが王都に残るべき人材であると示すのだと、ミラクは意気込んでいた。
彼女のいない毎日を繰り返すのはもうまっぴらごめんだったのだ。
「……なに、これ!?」
それはただの偶然だった。
棚の上から落ちてきた古い本が偶然開き、そこに『禁忌のスキル』の項目があったのだ。
そこに書かれていたのは従来のスキルとは大幅に異なるスキルだった。
剣聖や賢者、商人といったものとは根本的に異なり、それ自体が歴史を大きく変えてしまいかねないスキルが列挙されている。
スキル:暗黒蝶。
暗黒の魔女が授けられたスキル。
大地を闇の羽の中に閉ざす能力。
数年に渡ってモウラ半島を闇の中に落とした。
スキル:大悪商
交渉に長け、ダラ商国創始者が所持したと言われているスキル。
スキル:業断
この世界の因果を断ち切るスキル。
魔法を断ち切り、空間を断ち切り、時間を断ち切る。
スキル:魔石喰い
火の精霊が身につけた魔石を燃料に体を拡張させるスキル。
都市一つを焼き尽くすなど災厄を引き起こす。
スキル:灼熱
灼熱の魔女が授けられた熱を自由自在に扱うスキル。
膨大な魔力と合わさって成長し、暴走した力は大陸の大部分を焼き尽くした。
そして、その中に踊る『灼熱』の文字を見て、ミラクは悪い胸騒ぎがした。
ミラクは確かに聞いていたのだ。
ユオのスキルは、ヒーターであり、灼熱のクラスであると。
「お姉さまのスキルって、これのこと!? でも、それじゃ……灼熱の魔女と同じってことに……!??」
ミラクの背筋に嫌な汗が流れる。
ユオのスキルは歴史に悪名を残すぐらいに危険なスキルである可能性が高い。
もし、このことが王国にばれたら?
おそらく、ユオは捕縛され、不自由な生活を強制されるだろう。
いや、それならまだマシな方だ。
場合によっては事情を知らされないまま、殺されてしまう可能性も高い。
ユオの有用性を示そうと思って調査をしたのだが、やぶ蛇な結果になってしまった。
これが明るみになると、彼女の運命は大きく左右される可能性がある。
このスキル解説書の内容は絶対に誰にも知られてはいけない。
王都で殺されてしまうよりは、辺境で過ごしていたほうがいい。
頃合いを見て、自分が彼女のもとに向かえばいい。
ミラクはその本を急いで棚に戻そうとする。
しかし、緊張のあまり手が震えてしまい、なかなか棚に入らない。
「ほう、お主、面白そうな本を読んでおるな」
ぞくり、とした。
誰かがミラクに声をかけたのだ。
その相手は、リース王国の女王、その人だった。
「ひぃいいい、じょ、むががが!!!?? 」
不意をつかれたミラクは驚きのあまり大きな声を上げそうになる。
しかし、女王はすんでのところでミラクの口を封じてしまう。
「今日はお忍びで来てるんだから静かにしてほしいな。スキル禁書……、ふぅん、こんな本があったとは」
女王はミラクの手から本を奪い取ると、パラパラとめくる。
そして、とあるページでピタッと手を止めて、まじまじと見つめる。
「このページでお主の魔力が揺れ動いているようだな。何があったのか、話してくれるか? 賢者のミラク・ルー?」
「ひ、ひぃいいい」
女王の瞳がまるで獲物を見つけた蛇のように冷酷に光る。
ミラク・ルーはもはや嘘を押し通すことさえできない。
彼女はこれまでの経緯をすべからく話すのだった。
◇後日談:女王陛下、ガガン・ラインハルトを呼び出したときの裏話
「行方不明になっただと!? おぬし、何をしたのか、わかっておるのか!?」
「も、申し訳ございませんっ!」
後日、ミラクの話を聞いた女王はユオの父親、ガガン・ラインハルトを宮廷に呼び出す。
しかし、ガガンはユオは禁断の大地で着任して以降、行方不明になっているとの一点張りで話に応じない。
「しかし、ユオの魔力はゼロと鑑定されております。あれが過去に災厄をもたらした灼熱の魔女などと、万に一つもございません!」
また、そもそもユオの魔力はゼロであり、灼熱の魔女になりようがないと主張する。
魔力ゼロというのは、ここリース王国において底辺の才能であることを意味する。
第一に文献には『灼熱のスキルは魔力と合わさって成長する』と書いてあった。
ユオの場合、そもそもの魔力がないため、いくら危険なスキルを持っていても成長しようがない。
「そうか、お前の娘は魔力がゼロか。ふふ、ただの取り越し苦労だったというわけだな」
女王は魔力ゼロの言葉に安堵したのか、即座に興味を失ってしまう。
女王は知らない。
その文献には訂正が入っていなかったことを。
そして、その決定が王国の未来に大きな、いや、大きすぎる影響を与えることを。
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「女王様、諦めが早すぎ!?」
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