154.魔女様、シルビアさんを温泉に沈めると、とんでもない事実が発覚。そして、天然物がやはり暴れる
「ひにゃあぁああああ!?」
なんなのこれ!?
あのシルビアさんが。
クール&セクシーのシルビアさんが……!
とにかく胸の大きなシルビアさんが……!!
縮んだ。
縮んだのだ。
何が起きているのかわかんないけど、縮んだのだ。
「ななななな、何これ!? どうして私の魔力操作がうまくいかない!?」
シルビアさんを私の屋敷の方の温泉へと連れ出すことに成功した。
彼女は服を脱ぐのにちょっと戸惑っていた。
だけど、タオルを巻いていいことを伝えるとなんとか了承。
シルビアさんは恐る恐る入って、「ふぃいい」と声を上げた。
ここまではよかった。
しかし、そこから待っていたのは、シルビアさんの小型化だったのだ。
お湯に入ってしばらくすると、事件は起きた。
なんていうか、しゅいいぃいんっと小さくなったのだ。しゅいいぃいんっと。
「ひえぇえええ!? うそ、うそ、うそぉおおお!?」
絶叫するシルビアさん。
身長さえも10センチぐらい縮んで、私より小さくなっている。
そして、あれだけ強調していたお胸の方も、ががんっと減っている。
タオルも完全に外れている。
私と同じか、少し小さいか、いや、同じぐらいか。
「……ほぅ、珍しいですね、魔力操作で体型形成ですか」
慌てふためく私なのであるが、ひょっこりとララが現れて解説を始める。
簡単に言えば、シルビアさんは得意の偽装魔法でもって、あの体型を維持していたとのことだ。
ちなみにララはダンジョン査察の仕事を滞りなく終えたそうだ。えらい。
「見たわね、私の真の姿をぉおおおおお!?」
せっかく仲良くなったっていうのに、シルビアさんはめちゃくちゃ怒っている。
怒り方がなんだか悪役みたいで怖い。
別に見たくて見たわけじゃないし、不可抗力だし、不遇な事故だし!
そもそも、うちの温泉に偽装魔法の打ち消し効果があるなんて知らないし!
「このことを話したら、あんた、ただじゃおかないわよ!」
シルビアさんは目を三角にして怒ってくる。
もっとも誰かに話そうとも思わないわけで、私達は首を横にぶんぶん振る。
だけど、私はあることを覚えていた。
「……あっれぇ、シルビアさん、私のことを貧相な小娘って呼んでくれませんでしたっけぇ〜?」
「ぐ!?」
「ひ・ん・そ・う・な小娘ですかぁ? ふーん、でも私と同じぐらいに見えるんですけどぉ? 皆にばらしちゃおうかなぁ〜?」
私はあえて挑発してみた。
性格の悪い振る舞いなのは重々承知だよ。
だけど、だけどである。
この人だって私とそこまで変わらないじゃん!
それなのに、言いたい放題いってくれたわけでしょ?
ちょっとぐらい言い返してもいいはずよね。
「ご、ごめんなさぁい! だって、私と同じようなのが来たって思ったんだものぉおお。ごめんなさぁい!!! 何でもしますぅううううう!」
シルビアさんはざばぁっとお湯から抜けると、猛烈な勢いで頭を石の床にこすりつける。
怒り返してくると思いきや、まさかの全裸で謝罪。
痛そうだし、寒そうだし、みっともないし。
ええぇ、これじゃ私の性格がもろに悪い人みたいじゃん!?
私は慌てて彼女を立たせると、謝罪を受け入れることにした。
「ほ、本当に言わない? 絶対の絶対に言わない? 肩、揉む?」
バラされるのが不安でしょうがないのか、彼女はキャラを崩壊させてまで尋ねてくる。
あぁ、さっきまでのクールビューティなのはどこへ行ったのだろうか。
とはいえ、私にはひっかかることがある。
別に今のシルビアさんだって素敵だってことだ。
もともと小顔の美人なんだし、ウエストは細いし、脚も細いし。
口元のほくろはちょっとセクシーだし。
「私は今のシルビアさんもかわいくて、素敵だと思いますよ? それに温泉に入るときぐらい、羽目をはずしてもいいんじゃないですか?」
私はシルビアさんの行いを否定するつもりはない。
靴のかかとを高くしてみたり、胸にパッドをいれてみたり、それが気に入るならアリだと思う。
だけど、今の自分を全否定するのも違うと思う。
それに、ずーっと自分の姿を偽っているのも疲れるんじゃないだろうか。
「ぐっ、あんたに何がわかるのよ! 騎士団でクレイモアと一緒に整列するときの虚しさったらないのよ! なんなのよ、あれは! 前に突き出してるのよ! 歩くと揺れるのよ!? ごく自然に肩にあたるのよ!?」
シルビアさんはとうとうわぁわぁ泣きだしてしまう。
そして、えぐえぐ言いながら、彼女は事の経緯を教えてくれる。
いわく、クレイモアと自分を比べると、すごく自己嫌悪に陥るとのこと。
自分もあぁいう体型になりたいけど、足りない。
身長もお胸もお尻も、手足の長さも、ぜんぶ足りない。
足りないなら、魔力で補っちゃえばいいじゃない?
とまぁ、そんなこんなで体型を少しずつ変えて今日に至ったのだと言う。
寝ている間も発動する魔法というのは、血のにじむような努力を要するらしい。
この人、その能力をもっと魔法に振り分けるべきなんじゃないのかな?
ふーむ、魔力操作って便利だなぁ、すっごい盛れるし。
私も魔力ゼロじゃなかったらチャレンジするだろうなぁ。
「比べちゃダメだとは言いません。私だって比べることなんて茶飯事ですもの」
「だ、だったら、別にいいじゃないの」
「でも、今のシルビアさんだって十分に素敵です! たとえ、シルビアさんが自分のことを嫌いでも、私は素敵だって言い続けますからね」
「……べ、別にそんなの……あんたなんかに」
とはいえ、私は自分に正直でありたい。
彼女が私にとって素敵であることは間違いない。
動物に優しくしてくれるし、根っこはいい人なんだって思うし。
言いたいことを伝えると、シルビアさんは黙りこくってしまう。
温泉で温まってきたのか、彼女の頬は赤く染まっていた。
「ふ、ふん、別に私だって案外、いけてるのかもだけど……」
シルビアさんはそう言うと、そっぽを向いてしまう。
もしかすると、ちょっとだけ照れているのかもしれない。
年は離れていると思うけど、彼女の内側にもまだ幼いというか、繊細な部分があったんだぁ。
もちろん、クレイモアや他の皆には黙っておこう。
私達だけの秘密ってことにすればいいし。
この場にメテオがいなくて本当に良かったよ。
あの子がいたんじゃ、明くる日には大陸中に噂が拡散するだろうから。
「おひょぉおおおお! あたしの貸し切り温泉なのだぁ! 今日はリリ様がいないので、泳げるっ!」
シルビアさんと心の距離が縮まったと思いきや、温泉に乱入してくるものがいる。
もちろん、クレイモアだ。
危ないし、お行儀が悪すぎる!
「えぇえ、クレイモア!?」
突然の宿敵(?)の登場に、もちろん、驚き焦るシルビアさん。
「はわわわ、クレイモア、こっち見ちゃダメ!」
シルビアさんの本当の姿をバレるわけにはいかない。
私はざばぁっと立ち上がり、彼女が見えないようにする。
だが、時既に遅し。
やつはものすごい勢いでスタスタ歩いてやってくる。走らなかったのは偉い。
ひぃいいい、どうかバレませんように。
「あれ? シルビアがいるのだ。ふむむ、今日のシルビアはミニビアなのだな、珍しい」
「え?」
「小さなシルビアって意味なのだ。シルビアはたまに姿が変わるのだ。小さいからミニビアって呼んでるのだ」
「えぇ?」
しかし、とんでもない言葉がクレイモアから飛び出す。
なんと彼女はシルビアさんが姿を変えていることを知っていたのだ。
シルビアさんは「へひっ!?」と変な音をたてて固まってしまう。
「……あ、あのぉ、いつから知ってたの?」
「よく覚えてないけど、昔からなのだ。調子が悪い日とか怒られた日はちょっと縮むのだ。でも、褒められると膨らむのだ」
「……そうなんだ」
「この間、魔女様にぶっ倒されたときも縮んでたのだよ。あ、水に沈んじゃったからわからなかったのだな。にひひ」
クレイモアはあっけらかんと笑う。
シルビアさんの努力など知らない、豊満なボディをひっさげて。
「〜〜〜〜〜〜」
今までバレていないと思っていたシルビアさんは無言のまま下を向いている。
めちゃくちゃ恥ずかしいのか耳が真っ赤。
これはキツいよね。
心中お察しいたします。
「それに、ミニビアのことは、みんな知っているのだよ」
「へ?」
「だって、あたしが大発見したって教えてあげたのだ! みんな、びっくりしてたのだ!」
「ぬありゃぁあああ!?」
クレイモアのこの一言がトドメとなった。
シルビアさん(小型)は悲鳴をあげながらノックダウン。
ぶくぶく温泉に沈む。
すぐに引き上げたものの、これはやばい。恥ずかしい。
ミニビアさん、いや、シルビアさんはもう、立ち直れないんじゃないかと心配になる。
あわわ、せっかく仲良くなったのに、なんていう運命のイタズラ。
それにしても、クレイモア、恐るべし。
天然物には敵わない、そう思わせるには十分な事件だった。
◇ 村長と首相の会話
「これが温泉ですかぁ、こりゃあ、最高ですな、サンライズさん」
「ふふふ、そうじゃろ? ふぁああ、最高じゃわい。眠くなる。で、わざわざ辺境に来た理由は何じゃ? さっさと言わんか」
「相変わらず鋭いですな。先日の疫病騒ぎですが、裏で糸を引いているものがいるようです」
「くかー」
「……サンライズさん? 起きてください!」
「おおっとなんじゃったかのぉ。巨大スライムの話か?」
「いえ、あのぉ、疫病騒ぎの裏で糸をひくものが……」
「ふむ、そういうことか」
「彼女のおかげでどうにかなりましたが、まだまだ予断は許さないのが現状でして」
「それで?」
「昔のようにとは申しませんが、サンライズさんに探ってもらえませんかな?」
「ふぅむ、難儀じゃのぉ。くかー」
「そこをなんとか。……って、寝ないでください!」
二人の老人は真剣な表情で何かを話し合うのだった。
【魔女様の手に入れたもの】
温泉(偽装魔法無効化):魔女様がいつも入っている温泉であるが、偽装魔法を無効にする有効成分を含んでいることが判明。これは魔女様の屋敷の温泉だけであり、他の源泉にはこの効果はない。
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「別に小さくても夢がつまってるよ……!?」
「おじいちゃん、温泉で寝ちゃダメー!」
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