152.魔女様、辺境伯をお湯に沈め、光る手のマッサージで悶絶させる
「温泉はよかったですぞぉ! 大変、よかった。感動した」
温泉に案内してから1時間後、辺境伯はほくほくした顔で現れる。
その後ろにはレーヴェさんと騎士団の面々。
皆の顔からこわばりがとれているのがわかる。
「この服もなかなか、おつですな!」
辺境伯たちは私たちが古文書を参考にして開発した衣服を身に着けている。
もはや貴族の威厳とか騎士団の厳格さを信じる方が難しいレベルのリラックス感だ。
「魔女様、この温泉というのはすごいですね!」
「旅の疲れも一気にふっとびました」
男湯なのでお風呂に入った時の様子はうかがい知れないけれど、好評なのは間違いない。
やった、辺境伯に認められたよ!
これでうちの広告に「あの辺境伯も認めた!」なんてお墨付きの許可をいただけるかも。うひひ。
「リリアナのこともありますし、ぜひ、また滞在させてもらいます」
辺境伯はそう言って、がははと笑う。
時たま挙動不審になるけど、本当は気のいいおじさんなんだろう。
うふふ、これでサジタリアスからの旅行客がどっと増えたりなんかして。
世界で一番豊かな領地を目指す私としては非常に嬉しい。
「そう言えば、レーヴェさん、私達の塩はいかがですか?」
レーヴェさんに塩の反応についても聞き出しておこう。
今はとてもリラックスしてる様子だし、本音で話してくれそうだから。
「素晴らしい品質で、民からの支持は上々です! 空間袋があれば、今すぐに大量に持って帰りたいぐらいですよ」
「まったくです。この辺境伯、感謝してもしきれません!」
レーヴェさんは私達の塩に太鼓判を押してくれる。
辺境伯に至っては、ちょっと涙を浮かべて感謝してくれる。
確かに、リリの望まない政略結婚を阻止できたことは、プラスだったのかもしれない。
しかし、空間袋とは一体どんなものなのだろう。
「ふむ、空間袋っちゅうのは古代のアーティファクトや。そらもう、何でも入るらしいわ」
旅館の支配人であるメテオがフォローしてくれる。
しかし、古代のアーティファクトと言われても、それ自体がわからない。
「アーティファクト? それって貴重なものってこと?」
「せやで。大昔の天才職人が作ったもので、何百倍の体積のものを入れられる魔道具の一つなんや。それがあれば交易とかめっちゃ楽になるんやろうなぁ」
メテオはそう言って目をらんらんとさせる。
なるほど、アイテムをたくさん収納できる袋なのか。
確かに商人にとっては運べるものが多いほど儲けられるし、羨望の品だろう。
私だったら、温泉を大量に入れて、好きな場所で湯浴みをしたいけどなぁ。
「空間袋は大昔、サジタリアスから盗まれて行方知れずになったて聞くけど…」
メテオは空間袋がなくなったことについても知っていた。
辺境伯もレーヴェさんも、渋い顔をしてメテオに無言で頷く。
ふぅむ、サジタリアスにはもうそのお宝は残っていないらしい。
携帯温泉とか最高なんだろうけど、ちょっと残念。
「辺境伯様、レーヴェさん、そろそろ、次のお楽しみの準備ができましたよ」
しかし、温泉のお楽しみはこれだけではない。
私は一同を施設の片隅にある部屋に案内する。
その部屋には簡単なベッドとついたてが置いてあり、男女が黙々と働いている。
「魔女様、この部屋は……病院でしょうか?」
レーヴェさんはベッドが並んでいる様子から病院なのかと思ったらしい。
もちろん、ここは病院ではない。
「ここは体を癒す楽園ですよ。じゃ、リリ、後はよろしくね!」
「はぁい! 頑張ります!」
「ぬぬ、リリアナがなぜこんなところに!?」
予想外の出来事だったらしく、辺境伯は驚きの声をだす。
私はリリに学校での授業が終わったら、温泉の治療院に向かうように伝えていたのだった。
学校の先生として働くリリは素敵だ。
でも、この治療院でヒーラーをまとめ上げるリリもまたすごいのだ。
実をいうと、そっちのテキパキした姿こそ見てもらいたいぐらい。
なんせ彼女はこの治療院のスタッフのトレーニングから、治療院の運営までをすべて請け負っているのだから。
働く姿はまるで天使であり、たくさんの冒険者が彼女のファンだ。
おかげさまで、がっぽがっぽだよ、リリアナさん!
「治療院の運営をリリアナが!? しかし、お前は貴族だぞ……!?」
辺境伯は慌てたような声を出すが、ゆるい服装のままではもはや何の威厳もない。
もはや貴族でもなんでもない、ただのおじさんなのだ。
「まずはベッドに横たわってくださいよ。ほらほら」
「ちょっと、待ってくれ、私は娘と大事な話が……」
辺境伯が騒ぐと他のお客様の迷惑になるので、私が自らベッドに案内する。
さぁて、たくさんの冒険者が虜になっているマッサージを堪能してもらおうじゃないの。
「ふふふ、お父さま、たっぷり癒されてくださいね?」
準備を終えたリリは辺境伯を施術するようで、ベッドのそばでスタンバイしている。
相変わらずの天使の笑顔。
もうすでに回復魔法を発動させており、その両手は聖なる光に包まれている。
「ひぃいいい、なんだその両手の光は!? ひ、ひぃっ!? やめろ、私は実の父」
ほぼ無理やりうつぶせにされ、無理やり施術がスタート。
その後、施術室からは、「あひぃいい」だの、「背骨、やめぇぇえ」だの、「足裏ぁああ」だの、いい意味での絶叫が聞こえたという。
あくまでいい意味での絶叫、だよね?
◇
「……魔女様、お話があります」
小一時間後、妙にすっきりした面持ちになった辺境伯が現れる。
邪悪なものを抜かれたような表情で顔の輪郭もすっきりしているようだ。
「私はリリアナを見くびっておりました。彼女も今年で16、もう大人になっていたんですな。塩の問題もなくなりましたので、彼女の意思を尊重したいと思います」
どこか遠くを見るような目でとつとつと話しだす辺境伯。
今回のリリの活躍を見て、考えを改めてくれたらしい。
それこそが今回の接待の目的だし、リリの成長を感じてもらえたのならこちらも嬉しい。
「お父様! ありがとうございます!」
リリは泣いて喜んでいる。
心のどこかで引っかかっている部分があったんだろう。
お父さんに認めてもらえたのなら、やっぱり嬉しいよね。
「父親として、辺境伯として、リリアナをよろしくお願いする」
「わかりました。娘さんをお預かりしますね!」
私は辺境伯とがっちり握手を結ぶのだった。
よぉし、これで辺境伯の接待は完了!
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「リリさんのマッサージ、おいくらゼニーなんすか……!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






