151.魔女様、辺境伯にリリの職場を案内し、温泉リゾートの入り口で腰を抜かさせる
「さぁ、村の中を案内させていただきます!」
サジタリアス辺境伯一行に、村の中を案内する私達なのである。
リリの様子を見に来たわけだし、まずはリリの働く学校は見せてあげなきゃいけないわよね。
それに温泉リゾートにある治療院だって見せてあげたい。
リリには事前に学校でスタンバイするように伝えてあるから、いつも通りにしていればOKなはず。
「す、すごいな、こんな辺境でレンガ造りとは……」
「地面も石畳になっているぞ」
一同は私たちの村を見て、あれやこれやと感嘆の声をあげる。
この間までは掘っ立て小屋ばかりだったこの村も、今ではきれいな建物にあふれているのだ。
村人たちが頑張った成果だから、褒められると自分のことのように嬉しい。
「……魔女様、これは?」
「……なんでもないです」
村の中央にさしかかると、私の石像が置いてある。
しかし、ここは華麗にスルー。
ご一行が何を聞いてきても、なんだかよくわからない、としらを切りとおす。
あれが動くとか火を吐くとか絶対に言いたくないし。
「ここがリリアナさんの運営する学校です。ちょうどいま、授業中ですので覗いてみてください」
学校は村の中でも特に重要な施設だと考えている。
子供はこの村を担う宝物。
彼らがまっとうに育つことこそが村の将来を明るくるはず。
「素晴らしいな。サジタリアスでもここまでの学校はないぞ」
「いい設備ですよ」
辺境伯とレーヴェさんは二人して教室の内側の様子を覗き込む。
教室の内側ではリリが先生として魔法の歴史や使い方を講義する。
「さぁ、皆さん、今日は魔法の使い方を教えますよ。まずは魔力の感じ方です」
「はぁい! リリアナ先生!」
子供たちはリリのことが大好きで、本当に嬉しそうに授業を受けている。
その声は外まで響いてきて、元気を分けてもらえそうだ。
「リリには教師としての適性があったんですね。私としても誇らしいです。魔女様、ありがとうございます」
レーヴェさんはリリの教える姿を見て、そんな感想を教えてくれる。
いつもは弱気でオドオドしているリリだけど、子どもたちの前ではすごくハツラツとしている。
私もリリが来てくれたことを本当にラッキーだと思っている。
「ふぅむ……」
一方、その様子を見ていた辺境伯は少しだけ険しい顔をしている。
確かに貴族の子女が平民の子供たちの先生をしていることに抵抗を感じるかもしれない。
私の村以外の社会では、貴族と平民が直接触れ合う機会なんて殆どないもの。
それでも、私はわかってほしいのだ。
リリはこの仕事を自分の天職のように思って頑張っているし、子供たちもそれに応えているっていうことに。
「くぅっ、なんで私は授業を受けられないんだ!?」
去り際に辺境伯はそんなことをポツリともらす。
確かに私もリリ先生の授業を受けてみたかったなぁ。
「さぁ、それでは温泉に参りましょう!」
学校の窓から見つめ続けるわけにはいかない。
案の定子どもたちは、「おじちゃん、だれ?」なんて集中力を欠き始めている。
辺境伯はまだまだ見ていたいというが、私たちは次の目的地へと向かう。
次はこの村の最高の名物にして、最大の産業である温泉なのである。
開業してから半年程度たち、今ではたくさんの冒険者に愛用されている。
ララとメテオの運営が素晴らしく、建物内はいつもピカピカ。
さらにはサービス精神にあふれたスタッフたちが満点の笑顔でお出迎えしてくれる。
それに温泉の気持ちよさったら半端ないからね、きっと腰を抜かすに違いないわ。
「ひぃいいいい!? ば、化け物!?」
「あ、あれは、まさか!?」
スロープを上って、いざ温泉へとむかおうとすると、一同の足がぴたりと止まる。
屈強な騎士の何人かが悲鳴を上げて、腰をぬかしている。
そう、彼らの視線の先には、例のアレがあったのだ。
「あ、やばい、忘れてた」
そう、目の前には巨大な木の化け物、トレントの顔が鎮座しているのだった。
これはメテオやドレスの発案で、温泉リゾートの門として設けられている代物。
いつかどかそうと思っていたのだが、他のことに忙殺されて忘れていた。
うわっちゃぁああ、リゾートの入り口がモンスターの口ってありえないよね。
でもでも、このセンスは私じゃないからね。
めちゃくちゃ恥ずかしいし、こっちが叫びたい気分だよ。
「ま、魔女さま、こ、これは!?」
レーヴェさんが魚みたいに口をパクパクさせながら、こちらの方を見る。
まるでありえないものを見たみたいな表情。
「えーと、なんていうか、村を襲いに来たから、ついうっかり」
「……うっかりって、あなた」
「いや、ここに置いたのは出来心というか、遊び心というか、悪ふざけというか」
「遊び心? 悪ふざけ?」
辺境伯含め、一同はあ然としか言いようのない表情。
はぁああっと深く溜息を吐いた私は経緯をかいつまんで話す。
このモンスターはドレスたちを追って村を襲いに来たので返り討ちにしたことを。
確か、ボボリンとかそういう名前だったはず。
「ネームドのボ、ボ、ボボギリよ! ひぇえええ、私が倒すはずだったのにぃ!」
さっきまで無言でしかめっ面をしていたシルビアさんが絶叫する。
レーヴェさんがいうにはこの巨大なトレントを仕留めるために、シルビアさんは魔法を強化していたとのこと。
ふむ、なるほど、あのトレントと並々ならぬ因縁があるってわけね。
だったらせめて、この不気味な顔だけでも持ってってくれないかなぁ。
「シルビアさん、もしよければこの顔もってってもいいよ?」
「い、いらないっ! そんな問題じゃない!」
私の提案をシルビアさんは高い声で真っ向から拒否する。
だよねぇ、こんなの欲しい人いないよね。
「レーヴェよ、わしは魔女様を初対面でお前呼ばわりしたけど、…大丈夫だろうか?」
「……今さら言われても困りますよ。私は何度もいいましたよね、彼女を刺激するのは危険だと」
「だって、ここまで化け物だとは思わんだろうが!」
「だってじゃないですよ!」
レーヴェさんと辺境伯は二人で何やら言い争いをしている。
二人とも目に涙を浮かべて、まるで子供のケンカだ。
私は二人を微笑ましく思うのだった。
とはいえ、あのモンスターの顔だけはさっさと爆破しなきゃ。
よぉし、次!
温泉に行くよ!!
シルビアさんも、もちろん、案内するよ。
◇ シルビア、こっそり抜け出す
あの化け物小娘が「おんせん」とやらに私達を案内するという。
絶対に罠だ。
私はあいつと相対したから分かる。
あの小娘は何か企んでいるに違いないのだ。
辺境伯たちには申し訳ないけれど、私はこっそりいなくなることにした。
できることなら禁断の大地になんて来たくなかった。
サジタリアスに新しくできた犬や猫のいる食堂でまったりしていたかった。
「あ、あれは……!?」
おんせんリゾートとやらの建物に入らずにいると、とんでもないものを発見する。
真っ白い雲のような犬がそこにいた。
ふわふわで羊のように丸い。
つぶらな瞳にまるで絹のような毛並み。
舌がだらりと出ていて、ちょっと間抜け面なのもまたいい。
うわぁあああああああ、触りたいぃいいいい。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「辺境伯、気持ちはわからんでもないぞ……!!」
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