150.魔女様、冒険者ギルドからの請求書に震え上がるもポジティブに乗り切る
「なぁっ!? なんなのこの金額!?」
ザスーラの冒険者ギルドから送られてきた書面を見て、びっくり仰天する私なのである。
桁数をいくつか間違ってるんじゃないかってぐらいの金額が請求されているのだ。
「そ、そのぉ、ダンジョン整備のためには、それぐらいはかかるものでして……」
アリシアさんの解説によると、ダンジョンが見つかった場合には膨大な初期投資がかかるとのこと。
請求金額の例を挙げれば以下の通り:
・ダンジョン封印魔法:モンスターが出てこないようにする特殊な魔法をかけてもらう費用。
・ダンジョン調査:冒険者にチームを組んでもらって調査してもらう
・ダンジョン安全処理:入口や崩れやすい場所への補強作業
平たく言えば、ダンジョンを使えるようにするための処置なのだ。
しかし、これにかかるお金がびっくり。
億だよ。
しかも、数億いってるよ。
見たことないよ、こんな額。
特に封印魔法にかかる金額がものすごい。
魔法使いのチームにお願いし、ものすごく特殊でものすごく高価な魔法をかけてもらうらしい。
しかも、1年契約で毎年費用が発生する。
……こんなにかかるぐらいなら、爆破したほうがいいんじゃないだろうか。
「魔石や特効薬で得られた資金も、かなり減りそうですね……」
「まぁ、なんとかなるやろ。将来的な投資と思って受け入れるしかないわな。値切るけど」
数字の管理をしているララとメテオは腕組みをしたままそういう。
うぅむ、資金が減っちゃうのは残念だけど、ここは割り切るしかないのかな。
冒険者ギルドからの調査団は来週という話で、けっこう急な話だ。
まったくもって慌ただしい。
「とはいえ、何の用事もないよりはええやろ?」
不敵に笑うメテオ。
もちろん、私の返事は決まっている。
「よぉし、冒険者ギルドの人たちをおもてなししてあげようじゃないの!」
そういうわけで、私たちはおもてなしの準備を整えるのだった。
◇
「とうとう来たわね、この時が!」
私たちは村の門のところで集まって、冒険者ギルドのご一行をお出迎えすることにした。
アリシアさんの話では、今回のお客様は10人を超えるとの話だ。
ダンジョンの封印をするための魔法使いの人たちがたくさん来るらしい。
ふふふ、みんなに温泉の素晴らしさを味わってほしいなぁ。
「あれ? なんだか、多くない?」
しかし、こっちに近づいてくる人たちの数が明らかに多いのだ。
10人をはるかに超えて、数十人規模。
それも騎兵の人が何人もいて、ちょっとものものしい雰囲気さえ感じる。
「おぉっ、ユオさん! お出迎え、ご苦労!」
冒険者ギルドの一団から、現れたのが、ボールのようにふとったお爺さんだ。
しかも、この人、ただのお爺さんではない。
「……トトキア首相? な、なんでこんなところに!?」
そう、このボールみたいなおじいさんこそが、ザスーラ連合国の首相なのだ。
以前、特効薬の件でお話しする機会をいただいたのだけど、な、なんでここに!?
「ふくく、さぷらぁいず!」
「サプライズ!?」
ポカンとする私。
なんでうちの村なんかにサプライズをしかけるんだ、この重要人物が!
……などと突っ込みたい気持ちでいっぱいになる。
この人、ザスーラで話した時もちょっと空気を読まない感じだったものなぁ。
この人が辺境に来るなんて、物々しい警備がついているはずだよ。
「ユオさん、私たちも参りましたぞ!」
「お邪魔させていただきます……」
「ひえぇ!? なんで!?」
鎧を着こんだ騎士の人が、兜をぬいで挨拶をしてくると、私は再び、びっくりする。
「お父様!? お兄様も!?」
リリももちろん、驚きの声を上げる。
そう、我々の目の前にはサジタリアス辺境伯とその長男のレーヴェさんが現れたからだ。
「いやぁ、サプライズと申しますか……」
「父上、やめてくださいよ。魔女様がサプライズ嫌いだったらどうするのですか!?」
「いや、あの、首相の護衛として参りました」
辺境伯たちは相変わらず、ふたりでやいのやいの言いながら、ここに来た経緯について教えてくれる。
冒険者ギルドに首相が同行すると言い出し、さらに辺境伯も護衛ということで同行するということになったらしい。
なんていう迷惑な人たち。
もう少し順を追って行動してほしい。
「おぉ、トトキア。ひっさしぶりじゃのぉ! 相変わらず丸いのぉ」
「おぉおおおお、サンライズさん! トトキアが、参りましたぞ!」
そういえば、お迎え要員の中には村長さんもいたのだった。
村長さんが首相のトトキアさんに声をかけ、なんだかんだと話し合っている。
ふぅむ、トトキアさん、村長さんに会いたくて来ただけだったりして。
とはいえ、困ったことになったぞ。
冒険者ギルドの人たちにダンジョンを案内する仕事と、辺境伯たちに村を案内する仕事、そして、首相の相手をする仕事の三つにチームをわけなきゃいけないみたいだし。
さっそく仕事に取りかかりたいけれど、私はちょっとだけ変な感覚を感じている。
ずっと誰かが見ているというか。
レーヴェさんの後ろに明らかに誰かの気配があるのだ。
それもなんとなくなんてものじゃなくて、確実にそこにいる、という確信に近い感覚。
見た感じ、そこには誰もおらず、背景が見えるだけなのだけど。
「魔女様、どうされました? やはりサプライズはお嫌いでしたか!?」
「ひぃいい、悪気はなかったんですぞ。リリたんを驚かせたい一心の出来心で……」
私があんまりにもじぃっと見入っているので、レーヴェさんたちは怪訝な表情をしている。
「いえいえ、そういうわけでも……あるんですけど」
「ひぃいいいい」
「いや、ないですけどっ!」
あわわ、うわの空で返事をしたからか、本当のことを言ってしまった。
とはいえ、今は辺境伯親子のいつもの茶番につきあってる場合じゃない。
私は今、不思議なものに相対しているのだ。
さらにじぃっと見つめていると、ヒト型のシルエットの熱が浮かび上がってくる。
「……ここに誰かいるの?」
私は空気中に浮かび上がるシルエットを指先でつんっとつついてみる。
「ひえぇええあああ!?」
そこに現れたのはサジタリアスで私とやり合った魔法使いのお姉さん、シルビアさんだった。
あいも変わらずちょっと露出狂みたいな服装をしていて肌色率が高い。
ちょっと寒そう。
確か、露出、いや、露天のシルビア!
彼女は声にならない悲鳴を上げて、「で、出たぁ」などという。
いや、出てきたのはあんたの方でしょ。
こっちの方がびっくりだし、叫びたいよ。
とはいえ、おそらくきっと魔法を使った余興みたいなものなのだろう。
魔法を一切使えない私にはわからないけれど、こういうゲームが魔法使いの間では流行っているのかもしれない。
彼女は「ひっ、ひぃいい、隠ぺい魔法を3重にかけたのにぃ!?」なんて、顔を引きつらせている。
なかなか難易度の高い余興だったらしい。
「……ご主人様、お遊びはこれぐらいにしておきましょう」
辺境伯たちのおちゃめな行動に戸惑う私だったけど、ララの耳打ちで我に返る。
そうだった、村のチームを3つに分けるのだった。
まずは冒険者ギルドの人たちのダンジョンへの案内のチーム。
これはアリシアさんとララ、そしてハンナやクレイモアといったダンジョンにすでに潜っている面々に任せることにした。
次に首相さんの相手だけど、そもそも首相さんは村長さんにべったりで話し込んでいる。
仲がいいみたいだし、このまま二人で話し合ってもらっていればいいかな。
そして、最後の仕事は辺境伯への村の案内。
特効薬関係でいろいろあって忘れかけてたけど、そもそも辺境伯をうちの村に招待したのは私だったのだ。
リリがしっかり働けているかを、辺境伯自身の目で見て判断してほしいとお願いしたのだ。
その意味で、私には彼女がうちの村にどれだけ必要な存在なのかをきちんと伝える義務がある。
そういうわけで、私は辺境伯のおもてなしを買って出ることにした。
よぉし、リリの素晴らしさをびしばし伝えちゃうよ!
【魔女様の発揮したスキル】
熱探知:熱源を通じてそこに何があるかを察知する能力。シルビアの高度な隠ぺい魔法がかけられている場合であっても探知できるまでに成長した。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「村長と首相の関係が気になる……!!」
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