14.魔女様、スライム(城喰い)を蒸発させるも、しょせんは液体だし熱に弱いよねと一人で納得する
「ララ、私たちの目標、覚えてるわよね?」
「この土地を世界で一番豊かにして、独立国家を作って世界征服することですね!」
「……前半は正しいけど、後半は間違ってるわ。それも盛大に」
「ふふ、もちろんです。まずは豊かになってから周辺各国を出し抜くべきですよね」
「いや、だから独立国家はつくらないし、世界征服にも関心はないからね?」
「わかっております、表向きは人畜無害のお気楽領主であることを装いましょう!」
「お気楽領主って、あんた」
ララの返事は明らかに私の意図を曲解しているのだが、面倒くさくなったので溜息で流す。
ララは昔から変な冗談を言う癖があるから気にもならないけど。
なんせ出会ったときの開口一番が「私と一緒に王国をつくりましょう」だったんだから。
とにもかくにも。
なんでこんな風に仰々しい物言いをしたのかというと、とある計画を考えたからなのだ。
その計画は自分でいうのもなんだが、かなりいい線いっていると思う。
「この辺境を豊かにするプランを考えたから、意見を聞かせてほしいんだけど、どうかな?」
私はさっそくララに計画を描いたノートを渡す。
そこには現状を打開するためのアイデアがこれでもかと書き連ねられているのだ。
「……つまり、あの温泉で人を呼ぶってことですか? あわよくば住んでもらうと?」
さすがはララだ。私の計画書の意図を一発で理解してくれたらしい。
「その通りよ! うちの温泉を使ってこの土地に人を呼び込むわけ。それで短期でも、長期でもいいから定住者を増やそうって計画。人がいないと村の防衛すらままならないじゃん」
「なるほど、現在の人口では見張り役だけでも限界がありますからね。人口増加は絶対に欠かせませんよね」
土地を豊かにするにはどうしたらいいのだろう?
ラインハルト家にいるときに、教育役の執事に何度も質問された。
その答えは農業・工業・商業といった産業を盛んにすること。
あるいはダンジョンを開拓して冒険者を呼び込むなんてのもありかもしれない。
しかし、それはあくまでもある程度発展した後の領地経営の話だ。
村人がわずか100人足らずの村には当てはまらない。
いくら農業がさかんになっても、いくらモンスターの素材が採れても、いくら塩が採れても、人口100人程度ではできることに限度があるからだ。
私たちが目指すのは父親の治める領地よりも、はるかに豊かな土地をこの辺境に作ること!
いつの日か、父親たちがこの土地に来たときに腰を抜かさせてやろう。
「ひぃいい、参りましたぁああ!」
なんて言わせてみせるのだ。
そのためには人がしっかり生活できる枠組みが必要だ。
「そこでこの温泉リゾート計画というわけですか……。ふぅむ、なるほど。このご主人様の絵はあの摩訶不思議な本の絵とよく似てますね」
「ふふふ、そうなのよ。完全にあの本を丸パクリしてやったわ!」
私はおじいさまが発掘したボロボロの古文書を取り出して、該当のページを指さす。
そこには温泉を中心として人々が集まっている様子が描かれていて、人々は心底楽しそうにしている。
「最高ですよ、ご主人様! めちゃくちゃ、たのしそうです!」
「でしょでしょ。 でも、いくら計画が素晴らしくてもこのままじゃ絵に描いた餅よ。はっきり言って、最低でも1000万ゼニーは必要になると思うわ。ララ、頑張って貯めるわよ!」
「おおせのままに! 現状の貯金は10万ですが頑張りましょう!」
ララはすかさず帳簿を取り出して現在の資産状況を教えてくれる。
正直言って、現状は厳しい。
しかし、それでも貯めるのだ。
わが領地の発展と栄光と優雅な温泉リゾートのために!
◇
「魔女様、大変です! 商人とおもわしき人物がモンスターに追われています!」
その後、のんびりとお風呂に入っていると、その扉がどんどんどんっと叩かれる。
ララは何やら血相を変えて飛び込んできた村人に話を聞く。
いつもなら村の警護を担当する村長さんとハンナがやっつけてしまうのだけれど、今日は非番だったのかしら。
「それが、村長とハンナも救援に向かいましたが苦戦しているとのこと!」
「へ? あの二人が苦戦ですって!?」
アークワイバーンすら倒してしまう二人が苦戦しているですって!?
いったい、どんな化け物が出てきたって言うのよ!?
「ララ、行くわよ! とにかく助けなきゃ!」
私はララと顔を見合わせると、すぐさま着替える。
ダッシュで村の入り口まで向かう。
せっかくこの辺境にまで来てくれた商人だもの、絶対に助けなきゃだよね!
◇
「ひぃいえええぇえ!? うちなんか食べてもおいしくないでぇ!? こんなことなら、魔物の巣をつつくのやめとけばよかったぁあああ! うちの好奇心が今となっては憎らしいぃい」
村の出入り口に立つと、ちょっとした大事件が起きていた。
馬に乗ったフード姿の女の子が大声を張り上げて逃げてくる。
目深にかぶったフードのおかげで顔はよく見えないけど、どうやら彼女が商人らしい。それにしても非常に情けない声で叫んでいる。
「なに、あれ!?」
彼女の後を追いかけるのは半透明の「何か」。
そう、巨大な水の塊みたいなのが追いかけてくる。
まるで洞窟にいるスライムをものすごく巨大にしたみたいなやつ。
「あ、あれはキャッスルイータースライムです! 粘液でなんでも溶かすモンスターですよ! その名の通り、城を飲み込む極悪モンスターです! Aクラスですよ!」
ララは相変わらずの博識さでモンスター情報を教えてくれる。
なるほど、粘液でできたモンスターか、どうりでゼリーみたいなわけだ。
それにしても城を飲み込むって規格外すぎるでしょ!
「魔女様ぁあああ、このモンスター、やばいです! 攻撃が効きません!」
「ぬぉおお、魔女様、近づきすぎると危険ですぞ!」
村長さんとハンナは伸びてくる触手をどんどん切り落とす。
しかし、決定打を与えることができないようだ。
剣で攻撃するタイプだから相性が悪いのだろうか。
とはいえ、見かけは完全にスライム。
うーむ、スライムって言うと、最弱の魔物の一つだよね。
「魔女様、私たちが引き留めますが最悪の場合はお逃げください!」
体中を傷だらけにしたハンナが走ってやってくる。
どうやらスライムの粘液で火傷してしまったらしい。
命に別状はないから一安心だけど、私の領民を傷つけるなんて許せない。
領主としての意地だろうか、私の中でなにかのスイッチが入った。
「スライムのくせに私の領民を傷つけるなんて!!」
私はぎりりと奥歯を噛んで、モンスターと対峙する。
昔住んでいた屋敷ぐらい大きな化け物は四方八方から触手を伸ばす。
「た、助けてぇ! 堪忍や!!」
その触手の先には、商人の女の子がいたのだった。
あっちゃあ、いっけない。
このままじゃ、せっかくのお客様が取り込まれてしまうじゃん!
私はそこに走りこみ、身を挺して、彼女の身代わりとなる。
「ご主人様!?」
「魔女様!?」
そして、気づいた時には私はスライムの中に取り込まれようとしていた。
ぬぷん、と音を立てて、肌の周りに冷たいゼリーのような感覚が広がる。
お風呂上りの私にはけっこう気持ちよかった。
とはいえ。
「私のお客様を飲み込もうなんて、百万年、早いわよ!」
私はスライムの中に手を突っ込んだまま、ヒーターの能力を発動させる。
「液体は蒸発しちゃいなさい!」
敵が液体ならば、思いっきり温度を上げるだけで蒸発してしまうはず。
次の瞬間!
ぴぃいいいいいいいい!
まるでやかんが沸騰するときみたいな音を立てながら、巨大な粘液のモンスターはぶくぶくと泡を上げ始める。
十秒もたたないうちに、かつてスライムだったものは白い煙をあげて消失してしまった。
後に残ったのはキラキラと輝く魔石のみだった。
ふーむ、あっけない。
やっぱり、このモンスターはただ大きいだけだったってわけね。
ララもハンナも大げさすぎるんじゃないだろうか。
「ぬぉおおおお! なんじゃ、今のは!? もしかして、わしはもう死んだのか!?」
村長さんはぜぇぜぇ言いながら這いつくばっている。
どうやらスライムの中に取り込まれそうになっていたらしい。
いやぁ、無事でよかった。
スライムと一緒に蒸発させちゃったかと冷や冷やしてたんだよね。
どっちかというと、そっちの方が怖い気もする。
「ご主人様、おみごとです! お体にお怪我はありませんか!?」
「ぜんぜん、大丈夫。みんな、スライムごときに大げさすぎじゃない?」
私の体を心配してくれるララだけど、私の体は何の問題もない。
むしろ、ちょっと冷たくて気持ちよかったぐらいなのだ。
「なんでも溶かすキャッスルイーターに取り込まれても平気とは!? さすがは灼熱の魔女様じゃ!」
村長さんも目を丸くして驚いているけど、珍しいことなんだろうか。
「城喰いスライムを蒸発させるなんて、さすがは魔女様です! 灼熱の魔女様ばんざい!」
ハンナが私に抱き着いてきて喜びの声をあげる。
いや、その呼び方はやめてくれないかなぁ。
絶対に商人の人にも勘違いされるし。
「……う、嘘やろ!? 灼熱の魔女ってホンマに実在しとったんか!? ひ、ひぃいいい、一難去ってまた一難やぁああ……」
悪い予感というものは、ほとんどの場合、的中するものだ。
商人の女の子は私のことを指さしてがくがくと震え、壮大な勘違いをしそうになっている。
どう説得しようかと大きく溜息を吐く私なのであった。
【魔女様の発揮した能力】
・蒸発散:対象に過大な熱を与えることで文字通り蒸発させる即死攻撃。水分だけではなく、金属にも可能。文字通り、対象が消える。人間を蒸発させることも可能。即死技。
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