137.魔女様、アクト商会を特効薬の力で壊滅寸前にまで追い込みます
「ユオ様、シュガーショックが戻りました!」
その次の日のこと、村から大量の丸薬が届く。
シュガーショックに手紙を持っていってもらい、ドレスたちに量産してもらったのだ。
村に燃えキチがいてくれたおかげで、薬の調合がはかどっていると手紙に書いている。
あの子をうちの村にスカウトして、本当によかったぁ。
「魔女様、私もお手伝いします! 村の外に出たの、生まれてはじめてです!」
シュガーショックに乗ってきたのはハンナだった。
彼女は興奮した面持ちで、私の手をぶんぶん振る。
この子は全速力のシュガーショックに乗っても気絶しないらしい。すごい。
薬の価格については、ちょっと高めの1万ゼニーということで落ち着いた。
フレアさんが言うには、『安すぎても売れないし、あることを予防するため』だとのこと。
お金がない人や孤児のためには教会経由で救護室を用意して、そこで無償で治療に当たることにした。
「それじゃあ、薬を売るときにしっかり口上を伝えるんやで」
フレアさんは営業の人達を前にすると、4枚の巨大なパネルを前に解説を始める。
パネルその1:「昔、あるところにかわいらしい猫人の姉妹と病気の美しい母親がいた」
パネルその2:「その姉妹は薬草を探しに森に行き、苦労の末、薬草を見つけた。これがあれば姉妹は美人の母の病気を治せると喜んだ」
パネルその3:「しかし、あくどい商会がそれに目をつけて、姉妹の姉を誘拐してしまう」
パネルその4:「妹はなんとか逃げ出して、寝ずに作ったのがこの薬。許さへんで、あくとく商会!」
「こういう話やで! ええか、アクト商会ちゃうで、あくとく商会や! そこんところよろしく頼むで!」
パネルには一つ一つの場面の絵が描かれていた。
メテオとクエイクそっくりの姉妹が薬草を見つけている場面。
やたらと美化されて、まつ毛がばっちばちのフレアさん似の母親の場面。
そして、メテオが捕まっている場面などなど。
今回、私が考えた作戦はお話とともに特効薬を販売するということだ。
物語があると、人々が薬を買いやすくなるし、口コミも起きやすいと思ったからだ。
フレアさんとクエイクがお話を少々脚色してしまったけれど。
もちろん、これはお話であって、薬草を見つけたのはアリシアさんだし、薬を作ったのはドレスと村のみんななんだけどね。
登場人物の味付けがやたらと濃い気がするけど、まぁ、しょうがない。
許すまじ、あくとく商会っていうのは本当のことだし。
「そんなわけで、売って、売って、売りまくるんや! ええな、売るか、死ぬか、やで!」
「うぉおおおおお!」
沸き立つような熱気とはこのことなのか。
フレアさんが部下の皆さんに激励を飛ばすと、彼らはものすごい勢いで声を上げるのだった。
「こんなん売れるなんて商人冥利に尽きるってやつや! めっちゃ誇らしいわ!」
「なんせこの特効薬はアクト商会のと違ってモノホンやからな! 純度が違うわ!」
「うちのオトンにも飲ませたけど、すぐに治ったで! 飲まさなきゃよかったぐらいやわ!」
「ホンマにフレア様、クエイク様、ユオ様、ばんざいやで!」
彼ら、彼女らはわぁわぁ言いながら、外へとががーっと出ていくのだった。
かくして、私達の特効薬の販売はスタートする。
さぁ、どんな結果になるだろうか。
◇
「奥様、在庫が全部はけましたでぇ!」
「病気が治ったと沢山の人が報告してくれています!」
数時間後、シュガーショックに持ってきてもらった在庫分が売れたとの報告を受ける。
「よっしゃぁああ!」
「やったね!」
手を叩いて喜ぶ私達だ。
しかし、これは序章にしか過ぎなかった。
次の日になると、『オーサの街で特効薬を売っている』という噂はどんどん拡大。
フレアさんの商会の販路はものすごく、各都市でばんばん売れていくのだ。
アクト商会に比べると格安で販売していることも効いたのだろう。
「にゃははははは! 笑いが止まらん! 頬の筋肉が痛いいぃい!」
「にひひひ、うちの村の儲けもすごいことになるでぇええ!」
フレアさんとクエイクの母子は入ってくるお金に大興奮。
いちばん大変なのは村とこのオーサの街を往復しているシュガーショックだと思うんだけど、けろりとした表情だ。
とりあえず、あとでブラッシングして、美味しい肉をあげよう。
◇ 数日後
「うちの特効薬が偽物だと噂が流れています! ザスーラ中部では販売が禁止されました!」
アクト商会が裏から手を回したのだろうか、彼らは地域の権力者と結託して私達の販売を阻止しようとしてきた。
実際にたくさんの人が治っているわけだし、偽物だと言われる筋合いはない。
とはいえ、頭から押さえつけられるのはかなりきつい。
フレアさんの本拠地である、オーサの街だけで販売するだけじゃ国全土にすぐに行き渡ることはないだろう。
ここで打開策となったのが、冒険者ギルドの協力だった。
私達は首都に向かい、今回の顛末についてアリシアさんとコラートさんに報告したのだ。
もちろん、メテオがアクト商会に捕まってしまっていることも。
「メテオが!? そんなこと、許せない! 絶対に、私がなんとかして見せますから!」
アリシアさんたちは私達の販売する薬が本物であることを証言してくれたのだ。
後で伝え聞いたところによると、最初の報告では握りつぶされていたものの、かなりの気迫で上層部を説得してくれたらしい。
ありがとう、アリシア先輩!
このお墨付きは大きく、私達の薬を『本物の特効薬』として人々が認知してくれる決定打となったのだ。
「アクト商会の販売網はもはや壊滅寸前です!」
さらに数日後、ザスーラの中で特効薬を扱うのは私達だけになった。
そもそもの話、アクト商会の販売している『特効薬』はほとんど効果のないまがい物だった。
そんなものは私達の本物と太刀打ちできるはずもなく、販売できなくなるのは当然の話だよね。
「ザスーラ首都での販売も開始しまっせぇええ!」
アクト商会の影響力を排除できたからか、私達は意外にもすんなりザスーラの首都で薬を販売できるようになった。
人の行き来が多い首都での販売は庶民の皆さんはもとより、貴族や、富豪などの権力者の太鼓判を押される結果となる。
とんとん拍子に事が進んでいく。
私は薬の仕分けぐらいしか手伝えることがないけど、それでも頑張るよ!
「さらにアクト商会の商館に対して抗議活動が起きております!」
「偽物の薬を売った罪で訴えてやると商館に民衆が押し寄せているようです!」
しかも、報告には続きがあった。
アクト商会にまがい物を売りつけられた人々が抗議集会を行なっているとのこと。
まぁ確かに気持ちはわかる。
向こうの値段は100万ゼニーだったらしいもの。
ぼったくりすぎるよね。
「さらに、さらに、いくつかの街ではアクト商会の私兵団と民衆が衝突しているとのこと! 特に、アクト商会の本部のある街ではほとんど戦闘状態だそうです!」
報告にはさらに続きがある。
まがい物を高値で売られた人々が怒りのあまり、直接的な行動に出てしまったのだった。
これって大丈夫なんだろうか。
フレアさんたちが、ちょっと焚き付け過ぎちゃったのも理由だと思う。
あの「許すまじ、あくとく商会」っていう口上が、ここで効いてきたのだ。
アクト商会って軍隊を持っているって言うし、嫌な予感がする。
せっかく病気が治ったのに、ケガとかしてほしくないんだけど。
私達の薬を買った人たちが危険な目にあわないかとハラハラする私なのである。
「しかも、しかも、アクト商会の私兵団ですが、素手の庶民にボコボコにされてるようです!! ほぼ半殺しの有様です!」
あれ?
私の思っていたのと違うんだけど。
どうして、アクト商会が一方的にやられているの?
いや、これはいいことなのかも知れないけど、どういうこと?
「あぁ、想定通りやな。うん」
「にひひ。思った通りの副作用やわ。もはや、本作用やな」
フレアさんとクエイクは邪悪な顔をして喜んでいる。
そういば、私の村の丸薬にはちょっとした副作用があるのだった。
肉体がものすごく頑強になって、性格が戦闘的になるのだ。
っていうことは、暴れているのは病人だった人たちなの……!?
「せやから、あんまり安値で売ると危険なんや。将来的には診断なしには売れへんようにせんと闇で乱用されるで。まぁ、それはそれでビジネスチャンスやけど」
フレアさんはこうなることを予想していたのだろうか。
彼女は含み笑いをしながら、恐ろしげなことを言う。
「アクト商会の私兵団は完全に沈黙しています! もはやいつ火をつけられてもおかしくありません!」
怒った庶民の皆さんはアクト商会を壊滅寸前にまで追い込んでしまった。
自業自得とは言え、ちょっと気の毒なことをしたのかもしれない。
「フレア様、アクト商会から使い物が来て、メテオお嬢様を引き渡したいとのこと! その代わり、例の口上を止めてほしいとのことです」
さらに次の報告では、アクト商会は完全に白旗を揚げるとのことだ。
メテオの解放を向こうから提案してきたのだ。
これには全員が全員、歓声を上げる。
なんてったって、これこそが今回の目的だったものね。
もちろん、私達は提案を受け入れ、特効薬の売り口上を停止することにした。
結果、まるで魔法が解けたときのように、人々は落ち着きを取り戻す。
アクト商会は崩壊する寸前のところで、難を免れたのだった。
「メテオの身柄はユオさんが引き受けに行ってくれへん? メテオはユオさんのものやからな」
フレアさんは私にメテオの身柄を引き受けに行ってほしいという。
その言い方にちょっと照れくささを感じるけど、確かにメテオに会いたいのも事実。
私は二つ返事で「もちろん!」と答えるのだった。
そして、私はアクト商会の本拠地へと向かうのだった。
待っててね、メテオ。もうすぐだから。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「とっこうやくの使い方が違う……!?」
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