136.魔女様、アクト商会に商売で勝つと宣言します! 一方、その頃、アクト商会は美味しいお酒を飲んでいた
「えぇと、さっきのはうちの冗談やからな? 娘の大恩人と本気で喧嘩しようとか思ってないから、そこんところは誤解せんようにな? あ、土下座ぐらいするけど、やっとく?」
私の腕試しが終わった後、フレアさんは別室へと案内してくれた。
そこはいかにも執務室って感じの場所で、高そうな家具がしつらえてあった。
部屋に入るなり、フレアさんは早口でまくしたてる。
焦っているのか、ちょっと声が上ずっている感じだ。
「いえいえ、おっしゃることの意味はわかっていますよ! 自分の資産は自分で守れってことですよね。フレアさんにそう言われて、覚悟が決まりました! ありがとうございます!」
「せ、せやで? あんたはよくわかってるみたいやな。ははっ、まぁ、お茶でも飲む? お菓子も豚まんもあるで?」
「ぜひぜひ」
とまぁ、フレアさんは今度は本当に私たちのことを歓待してくれているようだ。
お茶と一緒に出された豚まんなる料理はとても美味しかった。
クエイクは「あるときー」とか言いながら、それにかぶりつく。
「これ美味しい!」
口の中に広がる、ふわふわの食感と肉汁じゅわっのコンビネーション。
ふぅむ、うちの村の肉パンと似てるけどちょっと違う。
お肉の味はうちの村でとれる激殺イノシシに似てると思うし、このレシピ、ぜひ、聞いて帰りたい。
「ほんでざっくり言うと、うちらはユオさんの所で作った特効薬の流通と小売の権利をもらって商いをする。その代わりに港の仕事をアクト商会に渡して、対価としてメテオを返してもらう。こうやな?」
「はい。それでお願いします」
「しかし、わからんなぁ。特効薬やで? はっきり言って、小売りするほうがめちゃくちゃ金になるんやで? 言い方悪いかも知れへんけど、メテオ程度のために手放す? うちらがバックアップするだけでもええんやで?」
フレアさんは私の決断を信じられないといった感じだ。
正直言うと、特効薬の小売りの権利を譲るっていうのは痛いことだとは思う。
しかし、私にとって一番の宝は人材だ。
メテオがいてくれるほうが、何倍もの利益をたたき出してくれると信じているし。
それにフレアさんに無償で協力してもらうのも違和感がある。
「いいえ。お言葉ですが、メテオは私にとって、村にとってかけがえのない存在なんです。ちょっとぐらいの利益なんかじゃ割に合いません」
「ふふっ。そかそか。メテオもえらい人に気に入られたんやなぁ」
私がきっぱりそう伝えると、フレアさんはふふっと笑うのだった。
先ほどまでの含み笑いじゃなくて、なんだかつきものが落ちたようなそんな表情で。
よぉし、これでメテオの救出のメドがつきそうだよ!
アクト商会にいいようにやられるのは悔しいけどね。
「おかん、悪いけど、それだけじゃうちは満足できひんわ」
これでいいかなってところで、クエイクが口をはさむ。
「だって、うちのお姉ちゃん、濡れ衣着せられて牢屋に入れたんやで? ありえへんやろ?」
豚まんを食べ終わったクエイクの瞳は怒りの炎に燃えていた。
それもそのはず、彼女の目の前でメテオは捕まってしまったのだ。
一番悪いのは問答無用で逮捕してきたアクト商会なのだ。
「そんなん簡単やん。ユオさんが突撃すればええやん。牢屋どころか、アクトの屋敷ごと炎上させたらええんや! にゃはは、それがええわ! 対岸の火事とはこのことや!」
フレアさんは真剣な顔でそんなことを言う。
「おかん、それ、うちが言おうと思っとってん……。ナイスアイデアや!」
クエイクは親指を立ててうんうんと頷く。
「ユオさんがアクト商会の上から、すとーんと落ちてきたらええんちゃう? 辺り一面を溶岩の海に変えて、ブルーノのボケごと燃やし尽くす。これや。にひひひ」
「えぇなぁ、それ。他にもどえらいことができまっせ、うちの領主様は。破壊行為の追加オプション費用は今なら5割引や! ふっくっくっ」
二人は邪悪な表情で笑い合う。
クエイクはフレアさん寄りじゃないと思っていたけど、やっぱり遺伝してるんだなぁと感心する。
とはいえ、私はこれがただの寸劇だってわかっている。
実力行使なんてできるわけないじゃん、どう考えても。
そもそも、相手は商会なんだから、こっちも商売で勝負すべきよね。
「えぇええ、商売で勝負? あのアクト商会とやりあうのはきっついでぇ? あいつらいろんな権力者とつながっとんねんから。爆破したほうが早いで?」
フレアさんは渋い顔をする。
アクト商会があんまり柄の宜しくない集団であることは知っている。
コラートさんを裏から操ろうとしたり、印象は最悪だ。
だけど、私の頭の中にはとあるアイデアを思いついていたのだ。
ちょっと荒唐無稽だけど、チャレンジする価値のあるアイデアが。
「それじゃ、よく聞いて」
私はメテオ奪還計画について話し始めるのだった。
言っとくけど、爆破はしないよ。
◇ 一方、そのころ、アクト商会では
「お願いします! 子供が流行病なんです。どうか、薬を分けてください! ここに10万あります」
「バカを言うな、アクト商会の聖域草薬は最低でも100万だ! 出直してこい!」
アクト商会には今日も薬を求める人々が殺到していた。
その理由は流行病の『特効薬』なる商品を彼らが売り出したからだ。
貴族や豪商でなくても購入できるとあってか、人々はなけなしの財産をつかんで店頭に駆けつけた。
「これで娘が救えますぅ!」
「アクト商会様、ありがとうございます!」
薬を購入した人々はアクト商会に感謝をして去っていく。
お金よりも家族のほうが大切だからだ。
一方で購入できなかった人々は、自分の人生を呪い、必死の思いで家族を看病するのだった。
「あははは、馬鹿な奴らだよ、まったく」
人々がごった返すさまを見ながら、アクト商会、会長のブルーノ・アクトは笑い声を上げる。
今日は売上報告の第一回目の会合であり、さならがパーティの様相を呈していた。
「この『特効薬』には聖域草の成分なんてほとんど入っていないって言うのに。まぁ、一旦は体が軽くなるから感謝されるし、末永く僕に富をもたらしてくれるだろう」
「さすがはブルーノ様! 商売の天才でございます!」
ブルーノの『特効薬』のからくりはこうだった。
聖域草の成分を抽出し、それを尋常ではないほど薄めて、他の薬草や砂糖などと一緒に薬剤にするのだ。
それでも、聖域草の効果はものすごく、流行病の症状がいくらか緩和されることが報告されていた。
少しだけ症状が治っても、すぐにぶり返すのが流行病の特徴だ。
ブルーノはこれを利用して、「生かさず殺さず」な特効薬を開発したのだった。
「貴族や王族に卸すための希少な薬草だぞ。そんなものを貧乏人のために使うものか!」
ブルーノにとって、この薬草はあくまでも特権階級とのつながりを強化するためのものだった。
それでも平民たちから財を吸い込もうとするのは、商才に長けた彼らしい判断だった。
「よぉし、この特効薬で天下をとってやるぞ! みんな、この僕についてこい!」
「おぉ!」
ブルーノはそういって拳を掲げ、その部下たちは盛大に拍手をする。
報告会にもかかわらず、美味しい酒に豪華な料理が供され、彼らはこの世の春を謳歌していた。
「ブルーノ様、大変でございますっ!」
そのさなか、顔面を蒼白にした部下がかけこんでくる。
パーティの雰囲気とは相容れない表情であり、ブルーノは顔を曇らせる。
「どうした? 大事な報告会の場だぞ!」
「そ、それが、ビビッド商会が、オーサの街で我々と同じような特効薬を売り出しています!」
「な、な、な?」
「しかも、その価格、10000ゼニー、我々の百分の一です!」
「なぁああああ!?」
この報告が何代にも亘って栄華を極めていたアクト商会の崩壊を告げるものだと、彼らはまだ知るよしもなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「クエイクもフレアさんも本気で言ってるよね……!?」
「爆破なし!?」
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