135.フレアさん、魔女様の派手さを見せつけられて商会の崩壊を覚悟する
「奥様、アクト商会から使いのものが手紙を持ってきております」
朝からの胸騒ぎはこのことだったのか。
アクト商会からの『重要案件』と明記された手紙を開けてみると、そこにはとある人物を捕縛したと書かれている。
犯人は自分のことを一切喋らないが、我々に身元を照会してほしいとのこと。
その捕縛された人物の魔法絵画を見た私はぎょっとする。
そこには長女のメテオが写っていたのだ。
彼女はかれこれ二年ほど前に私と仲違いをして、家を出ていったはず。
あのアホ、食うに困って罪を犯したのかもしれない。
手紙を持った手がわなわなと震える。
アクト商会はもしこの人物がうちの商会のものであれば、罪を不問にする代わりに港湾開発の仕事を回すように言っているようだ。
これは正直痛い。
これまでの投資が無駄になるのはかなりの痛手だ。
しかし、うちの答えは決まっている。
娘の命以上に大切なものはないはずだ。
うちは側近の一人に返信の手紙を渡す。
港湾の仕事を失っても、ゼロになるわけではない。
メテオにしっかりと説教をしたら、再びやり直せばいいと思っていた。
「お、奥様、クエイクお嬢様がお戻りです!」
そんな折、娘のクエイクが数カ月ぶりに戻ってきた。
彼女はメテオと一緒に辺境で仕事をしていたはずだ。
急いで招き入れると、なんと、今回のメテオの捕縛を知っていて、助けてほしいと言うではないか。
すぐにでもイエスと言いたいところだけれど、そうはいかない。
いくら娘でも現在は部外者であるし、罪を犯したとなれば、二つ返事とはいかない。
それに泣きつけばなんでも解決してくれると思われるのは、彼女にとってもよくない。
うちは敢えて、つっけんどんな態度をとるのだった。
すると、クエイクの働いている地域の領主をしている黒髪の少女、ユオは聖域草を持っていると言うではないか。
クエイクはその貴重な薬草をかばんから取り出して、うちに見せてくれる。
「ほんまやん」
辺境でしか採取できない、黄金色の花は間違いなく、聖域草だった。
そして、なんのかんのと応酬していたら、その黒髪の少女の腕を試すことになってしまっていた。
メテオを救出する機会を奪われた気がして、私は正直、嫉妬していたのかもしれない。
◇
影の十人、シャドウテン、こいつらはうちの商会の汚れ仕事を引き受ける、影の軍団。
12人+1の精鋭によって構築されるこのチームはどんなことでも成し遂げてきた。
一人一人の力は剣聖などの化け物に劣る。
あるいは、うちの護衛の連中にも負けるだろう。
しかし、彼らは集団で戦闘することによって、その力を倍増させることができる。
12人が織りなす波のような攻撃のコンビネーションでどんな強敵でも打ち砕いてきた。
変幻自在な攻撃に対応できる人物は世界広しと言えど、そうはいないだろう。
クエイクがあの領主にべたぼれしているのは声色や目つきからわかる。
しかし、誰が相手でも勝ち目はない。
「ほな、遊んできますわ」
黒ずくめの彼らは邪悪な笑みを浮かべているのだろう。
黒ずくめすぎて、ほとんど表情は読めへんけど。
連中に殺すなとは伝えてあるが、どうかひどいケガを負わないことだけを願うばかりだ。
……そう思っていた時期がうちにもあった。
気づいた時にはうちの精鋭部隊のほとんどが地面に突っ伏しているではないか。
何が起こったのか、さっぱりわからない。
あの黒髪の少女は魔法使いか何かだったのか!?
「な、な、な、なんやねん、これ!?」
何が起こったのか、さっぱりわからない。
開いた口がふさがらないとはこのことだ。
「ふふふ、うちの人型災厄はこんなもんやおまへんで?」
私の隣に立っているクエイクはそういって口角を上げる。
「はぁ? 何言っとんねん……。冗談きっついわ」
災厄という言葉を聞いて、ぞわっとする。
そんなものは悪趣味な冗談でしかないとはわかっているが、心のどこかに引っかかる。
「フレアさん、よぉく見ててください! 派手なの行きますから!」
さらにあの娘はわけのわからんことを真面目な顔で言うと、一瞬で訓練場の地面を溶岩に変化させる。
最初は幻術かと思ったけれど、肌にびりびりと感じるこの熱は本物。
汗をかくどころじゃない、髪の毛から、衣服から、今すぐ燃えそうなほど熱くなっている。
それに対峙した魔法使い二人はなすすべもなく、へたり込んでしまった。
こんなガッツのない戦い方は普段の私であれば認められない。
しかし、うちの魔法使いたちの気持ちは痛いぐらいにわかる。
だって、あの女、溶岩の池の中に平然と立ってるんやぞ?
平然と!
立ってるんやぞ!!?
しかも、ちょっと、笑っとるんやぞ!!!?
なにこいつ、魔王なんか?
彼女の生み出した溶岩の池は地面に深い亀裂を作り出す。
建物が揺れ始め、明らかに地盤がおかしくなっているのを感じる。
あぁあああ、このままいくと、あれやで?
うちの商会の建物が崩壊する流れやんけ!?
うちの汗と涙の結晶がぁあああ崩壊してまうぅぅぅ。
クエイク、どうしてくれんねんこれ!?
っていうか、こんな能力あるんなら、アクト商会をダイレクトにぶっ潰せばええやん!?
うちのところに来んなやぁあああ!?
「……魔女様、めっちゃかっこいい」
隣で見ていたクエイクはぽつりとつぶやく。
よく見てみると、あの少女の髪の毛に異変が起きているのに気づく。
内側が赤く光っている!?
うちは脳裏におとぎ話に出てくる魔女の話を思い出す。
まさか、そんなことがあるはずないやん!
一瞬でそのアイデアをかき消すが、背筋のぞくりとした感覚は消えないままだ。
「クエイク、アレを止めさせろや、うちの商会が崩壊するやんけ! 世の中にはやってええことと、わるいことがあるんやで!?」
「ごめん。派手にやってって言うたら、こんなんなってしもたわ。ユオ様に悪気はないと思うんやけど」
「謝ってすむ問題ちゃうわ! ちょい待て、アレって一度、暴走したら、すべてを破壊するまで止められへんとか、そういうたちの悪いやつやないやろうな!?」
「……大丈夫や。本人はちょっとやり過ぎたって気づいて焦ってるみたいやし」
「ええぇからもう止めてぇな! うちの負けでええわ! ええから、アレを止めてぇえええ!」
「うしし。よっしゃあ、ユオ様、勝利ですぅううう!」
その後、彼女は「やりすぎたかも」などと言いながら出力を止める。
うちの目の前には巨大な溶岩の池が広がり、燃えカスがぶすぶすと音を立てていた。
地面には穴が空き、ところどころヒビが入っている。
まるでドラゴンの集団に襲われたかのような有様だ。知らんけど。
断じて、「やりすぎたかも」ではない。
やりすぎてるやん、とツッコミを入れたいが、なんでもやっていいと言ったのは自分だ。
うちは自分の言葉の軽さを呪うのだった。
……とりあえず、土下座のウォーミングアップだけはしとかなあかんな。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「あの時、イキらなければよかったのに……」
「魔女様、いつの間にかアレ呼ばわりされてる……」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。






