134.魔女様、派手に戦うも、派手の意味を取り違えて無事に炎上する
「ここは訓練場やから、どれだけ壊しても問題なしやで! ほな、はじめっ!」
私達は屋外の訓練場へと移動する。
そして、フレアさんの号令とともに、試練が始まる。
黒ずくめの集団は私を取り囲み、いわゆる袋叩きのポジションに入る。
ふぅむ、12人と戦うなんて聞いてないよ。
相手の出方を見ればいいのかしら。
よく考えたら、私はあんまり対人で戦闘することはなかった気がする。
まともに相手をしたのは盗賊とクレイモアぐらいだからなぁ。
ひゅばっ、じゅっ……
うかうかしていたら、突然、後方から何かが飛んできた。
おそらく武器か何かだと思うけどとんでもない速さだ。
私はヒートドレスを発動していたからか武器が蒸発しちゃったみたいだけれど。
これって結構、危ないよね。
「………わしのナイフが消えた!??」
「死角をついたはずだぞ!?」
黒ずくめの人たちは私を指さして、何かを言っているようだ。
遠くなので聞こえづらいけど、作戦会議なのだろうか。
ふぅむ、どうしようかな?
「疾速のライブラ、参るっ!」
黒ずくめの一人がものすごい、速さで突っ込んでくる。
おそらくは素手で戦うスタイルなんだろうけど、これはやばい。
あぶない!
私に触ったら、死んじゃうよ!?
しかし、そんなことを伝えられる時間があるわけもなく、私は彼をとりあえずいなすことにする。
ちゅどぉおおおおん!!
「ぬぐぉおおお」
久々の熱爆破を作動させて、床ごと失速のなんとかさんをふっとばす。
ふぅ、危ない。
ヒートドレスを発動させている以上、不用意に突っ込んできてほしくない。
「スピード自慢のライブラがやられた!?」
「なんやねん、あいつ!? 得体が知れないぞ?」
「ならば殲滅陣でいくか!?」
黒ずくめの集団は再び、何かをひそひそと話している。
ひょっとして、これはまだお芝居の途中とかじゃないよね?
「「「「「きえぇええええええ!!」」」」
黒ずくめの人々は何を決断したのか、高い声を上げて一気にとびかかってくる。
しかも、集団で。
なるほど、同時に複数方向からの攻撃ってことなんだろうか。
でも、これじゃ、ただの盗賊じゃん!
……しょうがない、あれを試してみよう。
「えいっ」
彼らが私の周囲3メートルぐらいに近づいたタイミングで、私は強烈な熱波を発動させる。
小さい範囲だけに限定した熱の波だ。
それも、失神させるだけの微妙な熱加減で。
結果。
どたどたどたっ
黒ずくめ集団はまるで喜劇のように床に寝転ぶことになる。
あぁよかった、誰一人こんがり焼けてないよ。
「くそぉっ、化け物か、こいつ!」
「ええい、ダイヤモンドアイスブレード!」
奥にいた魔法使いの二人には熱が届いていなかったようだ。
彼女たちは二人で魔力を合わせて、無数の氷の刃を空中に出現させる。
私にぶつけようという算段なのだろう。
うーむ、私に当たるのは溶けるからいいとして、この失神した人たちに当たったら危ないよね。
私はとりあえず少し開けた場所へと移動する。
「なかなかやるわね!」
「うちの団員のかたきをうたせてもらうで!」
魔法使いの女の人二人組は空中にどんどん氷の剣を出現させていく。
その数はもはや100以上あるだろう。
「よっしゃぁあ、氷の影二人組の必殺技やぁああ! あの量のアイスブレードに敵はおらへんぞ! そろそろ白旗あげてええんやで!」
フレアさんの声が響く。
ふぅむ、アイスブレードね。
これってララがいつもお料理に使うやつだよね?
そんなに冷たくないから、溶かすのは簡単だとは思う。
それじゃ、適当に失神してもらえばいいのかな?
「魔女様、頑張ってください!」
完全にアウェーの状態だけど、クエイクだけは私の味方だ。
彼女の声援が心に響く。
ここで私はあることを思い出す。
この腕試しの前に、クエイクは「派手にやってください」と言ったのだ。
さっきの熱失神はあっという間に決着がついちゃったし、振り返ってみれば私の戦い方は派手さに欠けるかもしれない。
それに、そもそもフレアさんの派手好きは知っての通り。
なるほど、派手さを敢えて見せつけたほうが好印象だってこと?
「フレアさん、よく見ててください! 派手なの行きますから!」
私はフレアさんに合図を送る。
先日のラヴァなんとか、現在の燃えキチを説得する時にある発見をした。
それは溶岩ってなんだか、かっこいいってことだ。
あのぐらぐらと煮えたぎっている様が、私のハートをくすぐった。
許されるなら、あぁいうのやってみたいって思ってしまったのだ。
よぉし、なんでもありっていうんだから試させてもらおう。
「派手? 派手ってなんやねん? 何の話?」
フレアさんは私の言葉に首をかしげている。
だけど、私はわかっている。
彼女はこんなときでもふざけているんだろう。
本心ではすっごく派手なのが好きなくせに。
「溶けちゃえ!」
私は石造りの床に手を置くと、私の半径数メートルがぐらぐらと煮えたぎるのをイメージする。
この世のすべてを燃やし尽くすような、真っ赤な溶岩が現れて煮えたぎる。
そんなイメージをするのだ。
………どぐぷっ、どぐぷっ
2秒ぐらい経つと、妙な音とともに、私の足もとは真っ赤に変色。
さらに5秒後にはぐらぐらと煮え始める。
どうやら石の床材が溶けて、その下の土までも溶け始めたらしい。
足元がぐらぐらと振動して、ちょっと面白い。
「どうですか? けっこう派手ですよね?」
フレアさんに尋ねると、目を大きく見開いている。
気に入ってもらえたかな?
気づいた時には足元に半径数メートルの溶岩の池ができていた。
ふぅむ、かなり暑そう。
このオレンジと赤の光には胸がわくわくするのを感じるよね。
なんだかちょっと楽しい。
このまま池を作っていったら、ひょっとして溶岩の中で泳げたりして。
「なななななんやねん、あんた!? 溶岩の上になんで立っとんねん……」
「ひぃいいい、燃え死ぬで、これ」
突然出現した溶岩の池に、声を荒らげる魔法使いの人。
じゅっ、じゅっ、じゅっ……。
水の中に熱したナイフを入れたときのような音をたてながら、彼女の周辺にあった氷の刃はすべて溶けてしまう。
さらには溶岩の熱で地面に変なダメージが入ったのか、どんどん亀裂が入っていく。
近くの建物がぴしぴし言い始め、微妙に振動し始める。
あ、やばいかも、と気づいた私はとりあえず出力をストップさせる。
このままじゃ色んなものが燃えてしまったかもしれない。
「こんなん聞いてないぃぃ! 実家に帰る!」
「単なる、化け物やんか、これぇえ……」
黒ずくめの二人は戦意喪失してしまったのか、その場でへたり込んでしまう。
よっし、結構、派手にできたんじゃないかな?
これから溶岩を操ったりしようと思ったんだけど、それができなかったのは残念だ。
「はぁああああああ!? ありえへんやろぉおお」とめちゃくちゃ大きな声をあげるフレアさん。
「私の思ってた派手とは違うけど、結果オーライやぁああ!」と飛び跳ねているクエイク。
かくして、フレアさんの腕試しは何事もなく終わったのだった。
……あ、訓練場の地面がめちゃくちゃなことになってた。
【魔女様の発揮した能力】
熱失神(小範囲):自分の周辺の限られた範囲だけに絞って熱失神のスキルを発現させる。即死しない。
岩溶かし(初級):手近な岩や土を超高熱で溶かす技。溶岩の池を発生させることで、敵の戦意を削ぐことができる。溶岩の池に落ちると即死。一般人は近づくだけで熱射病の危険あり。
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