133.魔女様、クエイクとフレアの応酬に笑いを抑えることができません。しかし、成り行きで黒ずくめ集団と戦うことになったんですけど
「流行病の特効薬なるものを持ってるんは分かった。それじゃ、あんたらがどうしてあの薬を作れるようになったんか教えてもらおうか」
ディアさんたちがいなくなると、再び部屋の空気は静かになる。
フレアさんはやっと私たちの話を聞いてくれる気になったらしい。
私たちは手短に今回の聖域草の一件について話すのだった。
「それじゃ、あんたの村には聖域草の群生地があるいうんかい? そのおんせんいうのが鍵なんかなぁ。ふぅむ、なぞや……」
フレアさんは口元に手を当てて、少しだけ真剣な表情になる。
考え込む顔だちはメテオにそっくりで、ほとんど瓜二つだ。
メテオの場合、この後に変なことを言い出すんだけど……。
「ユオさんに、クエイク、あんたらはええ子やと思うで。領地のことを考えて、メテオのアホのことを一生懸命に考えて、ほんまに偉い! 正直、どんな同世代の子らよりも、頑張っとるわ!」
フレアさんは突然、私たちのことを褒め始める。
これは予想外のことでちょっと面食らってしまう。
ふぅむ、これは彼女が私たちのことを認めてくれたってことなんだろうか。
「せやろ? うふふ、うちらの村はさいっこーやねん!」
フレアさんの誉め言葉にクエイクはそういって胸を張る。
お母さんに認められるっていうのは、やっぱり嬉しいんだなぁ。
「……せやけどなぁ」
フレアさんのドスの利いた声がホールに響く。
ここで空気がぴりっと変わるのを感じる。
フレアさんは私たちに微笑みながらこんなことをいうのだ。
「その村ごと、うちらがかすめ取ることも可能なんやで? そのかわいいお嬢さんを人質にすればええんやから。自分らの村は、どうせ、たいした軍隊ももってないやろうし」
「え……!?」
フレアさんの突然の言葉に空気が凍る。
えぇえ、どういうこと!?
村をかすめ取るって!?
当然、私の思考は混乱でぐちゃぐちゃになる。
つまり、この人、私達の村を武力で乗っ取ることも可能だ、と言ってるんだよね?
うぅう、どうなんだろう?
確かに私の村には軍隊はいない。
防衛担当なんて言えるのは村長さんとハンナぐらいなものかもしれない。
「……ふふっ、お母ちゃん、冗談きっついで?」
クエイクはフレアさんの言葉を鼻で笑う。
これまた劇がかった低い声で。
冗談?
あ、そっか、今のフレアさんの言葉は冗談だったのか。
確かに、これまでのやり取りを考えると、フレアさんの言葉を額面通りに受け取るのは変に思える。
彼女の言葉の裏には、隠されたメッセージがあるのだ。
この場合、彼女はこう言っているのだ。
『大事な資産を持っていても、それを守れなければダメなんだよ?』
これだ。
これをフレアさんは敢えて、面白い感じに言ったのだ。そうに違いない。
「悪いけど、うちらには脅しは一切効かへんで? ユオ様はこの部屋にいる誰よりも強いんや。お話にならんわ」
クエイクは先程のトーンで、言葉を続ける。
あれ、今、私の名前を出さなかった!?
一瞬、ぎょっとするけど、これはいつものお約束パターンだ。
怒っているように見えて、怒っていないっていうそういうやつ。
どこかでオチがついて、はい、実は全部冗談でしたぁってなるんでしょ?
「ほほぉ、今の聞いたか? あのお嬢さん、やりおるらしいで?」
「あぁ、わしらじゃ歯がたたん言いよるわ? これはキッツいで?」
「この部屋にいる誰よりも強い」なんて言葉を聞いたためか、後ろのほうにいるボディガードの人たちは指をぽきぽき鳴らし始めている。
うふふ、さすがはビビッド商会の人たちだ。
彼らもフレアさんとクエイクの芝居に乗っかっているってわけね。
「言うようになったやないか、クエイク。いっつも姉ちゃんの陰でぴぃぴぃ泣いとったくせになぁ」
「いつまでも子供やと思っとったら火傷するで? もっともユオ様相手やと、火傷じゃすまへんけどな?」
「おもろい冗談を言ってくれるなぁ。あ、せやせや。うちの影の十人が今日は全員そろっとんのやけど? どんな角ばった仕事でもまあるくおさめまっせいう連中やで?」
「ふんっ、十人程度やったら、秒で始末したるわ。どうせなら、後ろの兄ちゃんたちも参加してええんよ?」
脅し文句を畳みかけるフレアさんに、それを簡単にいなすクエイク。
後ろのボディガードの人達はなんだかストレッチをしている。
空気が張り詰めて、ピリピリとしていくのを感じる。
激しい舌戦といえば、そうなんだろうけれど、これは全部お芝居なのだ。
うふふ、早く、面白いオチをつけてくれないかなぁ。
「ほな、見せてもらおうやないか! なんでもありの1本勝負や、泣いても知らへんぞ? 影の十人、出番やぞ」
「かかってこいや! 武器に刃引きなんぞいらんからな、うちのユオ様は!」
まさに売り言葉に買い言葉の応酬。
フレアさんの啖呵にクエイクが乗る。
あれ?
そろそろ、このお芝居にオチがついてもいい頃合いよね?
あ、わかった。
影の十人っていうのが、すっごく面白い感じの集団なんだろう。
私はわくわくしながら、彼らの出現を待つ。
フレアさんが怖い顔をして右手をあげると、その後ろにどこからともなく黒ずくめの集団が現れる。
顔はずきんで覆っているため、ちょっと息苦しそうな出で立ちだ。
こんな息苦しい服装で戦えるわけないじゃん!
そういう、ツッコミ待ちなのかな?
「えぇっ、テンシャドウとかいうて、12人おるやん!? なにそれ、だっさいわ! ずるいでっ!」
クエイクはツッコミをいれるものの、「誰が10人言うたんや? ちなみにあと一人は有給やで」などとフレアさんはとぼける。
私は彼女たちの芝居に笑いをこらえることができず、吹き出してしまう。
「ほな、先生、よろしゅうたのんます! 派手にやっつけてください!」
「は!? なにそれ!? あ、これがオチ? ここで笑えばいいの?」
「オチとかやなくてですね。これガチですよ? さぁ、いつものようにやっちゃってください」
「……ガチ??」
そして、気づいた時には私はさっきの大広間の真ん中にぽつんと立たされていたのだ。
ちょっとぉおお、今の今までなんだったのよ!?
みんなで面白劇場やってたんじゃないの?
それに、先生ってなによ!?
「きしししし、お嬢さん、お手柔らかにたのんまっせぇ」
「ケガしてもうたら、えらいすんまへん」
クエイクに抗議しようにも、私の前には12人の黒づくめの集団。
さっきまでは劇団員に見えたけど、今では戦闘員に見える。
一人ひとりが剣とか、斧とか、鎌とかもっていて、どう見ても劇の続きみたいに見える。
うぅ、嫌だなぁ。
こういうのってハンナとかクレイモアに頼みたいんだけど。
とはいえ、私はフレアさんの真意がわかっている。
つまり、私達に彼女と交渉する資格があるかを試したいということだろう。
ここで私が力を示せばフレアさんも私たちの本気を理解してくれるはず。
私は黒ずくめの集団を前に、大きく息を吐くのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「影の十人の皆さん、逃げて!!」
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