132.魔女様、流行病の特効薬の圧倒的パワーを見せつけて感謝される。しかし、その結果は逆に心配になるものだった
「投資詐欺じゃありません!」
突然詐欺師扱いされることほど、人の神経を逆なですることはない。
ついつい声を荒らげてしまう。
「ふふふ、あのなぁ、今、ザスーラで流行ってる病気はなぁ、そりゃあもうひどいもんなんやで? 一流のヒーラーも薬草も歯が立たんねん。それの特効薬です! キリッ! なんてよう恥ずかしくもなくできるなぁ」
フレアさんは私の提案をあきらかに馬鹿にした感じでくさしてくる。
私は別に「キリッ」なんてやってないし。
うぅう、これまた完全にメテオのデジャブだ。
……この人、本当にメテオと仲が悪いのよね?
……私だけが騙されてるんじゃないでしょうね?
余計な思考が入ってくるけど、ここでひいちゃ駄目だ。
「いいえ、論より証拠をお見せします! クエイク、用意はいい?」
「もちろんです!」
とはいえ、フレアさんに圧倒されるわけにはいかない。
クエイクに合図をすると、彼女は袋の中からあるものを取り出す。
何はともあれ、現物を見てもらえばわかってもらえるはずなのだ。
「な、な、な、それは!!? 本物やん!?」
そう、クエイクの手には聖域草が握られていた。
黄金色に輝くその花はまだ新鮮な色をしたままだった。
だって、村長さんが朝崖ついでに回収してきたものだからね。
「こんなんどこで!? えぇええ、自分、禁断の大地のくっそド田舎のしょっぼい領主ちゃうかったん!?」
フレアさんは本音を交えながら、とことんまで驚いてくれる。
くっそド田舎のしょっぼい領主で悪かったわね。
この人の中にメテオが入ってるんじゃないよね?
生き写しかってくらいリアクションが似てるんだけど。
「し、しかしやで! こんな聖域草が何本かあったところで、ザスーラ全体は無理な話や! 病気の人がどれだけいると思ってんねや!?」
話を聞いてくれると思いきや、彼女は私たちをびしっと指さして怖い顔をする。
確かに、薬草が少々ある程度じゃ国家クラスの流行病には対応できないだろう。
だけど、今の私たちは違う。
「ご安心ください。うちの村では成分を抽出した特効薬を量産できるんです」
「これがそれでやで! おかん、目を見開いて見てや!」
クエイクは懐から瓶を取り出して、フレアさんに見せつける。
その中には聖域草と温泉の成分でできた特効薬が120錠ほど入っていた。
これはドレスたちがぎりぎりまで開発してくれた代物だ。
運びやすい、腐らない、管理しやすいの三拍子が揃っている。
「ふんっ、口だけならなんでも言えるわ。それなら、ディア、その薬を病気の奥さんに飲ましたれ。その結果次第や」
「ははっ……」
そういうと、フレアさんは入口近くに侍っていたボディガードのディアさんという人物に、薬を渡すように言う。
彼もまた猫人で私よりも小柄な人物だった。
「ディアさん、お気の毒です。これで大丈夫ですよ」
「……信じていますよ、お嬢様」
クエイクはディアさんに1錠だけ丸薬を渡す。
すると彼は言葉少なに去っていくのだった。
「ほな、待ったろうやないかい。言っとくけど、半端なやつやったら叩き出したるで?」
フレアさんはそういうと、どかっと椅子に座る。
あとは結果待ちということになるけれど、よくよく考えたら、どんな結果になるかは未知数であることを思い出す。
あの丸薬の成分は葉っぱや茎を煎じたものと同じなわけで、理論的にはうまくいくはず。
お願いだから、筋肉が膨張したりしないでほしいんだけど。
服が張り裂けたら、治ったって思わないかも知れないし。
……髪の毛が逆立つぐらいならいいけど。
「お、お、奥様! す、すごいですよ! これは!」
数十分後、ディアさんは血相を変えて駆け込んできた。
いや、駆け込んできたのは奥さんだった。
なんと彼は奥さんに抱きかかえられているのだ。
彼の奥さんも猫人で小柄な女性だった。
それなのに、である。
彼女はディアさんをお姫様抱っこしているのだ。
「な、な、何しとんねん!? なんでお前が抱っこされとんねん!?」
これにはフレアさんも突っ込みを入れざるを得ない。
「それが薬剤を飲ませたところ、10分ほどで咳が完全に止まり、20分ほどで立ち上がり、30分で腕立て伏せをはじめたのです! それで、たまには私を抱っこしたいと言い出しまして!」
ディアさんは興奮気味にそう語る。
あぁああああ、ドレスの薬、やっぱりちょっとおかしなことになってるよぉおお。
変なもの飲ませてごめんなさいと、叫びたいけれど、叫べない。
私とクエイクは何も言えず、口をあうあうとさせる。
「ええと、どういうわけや? 治ったんかい? 悪いほうに治ったとか、そういうのはいらんからな?」
「治りました! 今なら空も飛べますわ! ほんまにありがとうございます!」
奥さんはディアさんを抱きかかえたまま、何度も頭をさげる。
元気すぎて心配になるけど、これはこれで、よかったって喜んでいいんだよね?
とはいうものの、フレアさんの言う「悪いほうに治った」というのは言いえて妙だ。
これでは元気になったことを素直に喜べるのかわからない。
やはりうちの村には薬師とか、錬金術師がいるなぁ。
いくら研究熱心とはいえ、ドレスの本職は大工だもの。
大工に薬を作らせる領主っていないよね、うん。
「ふんっ、礼ならこっちに言わなあかんで」
「そうでした! お嬢様がた、ほんまにおおきに!」
フレアさんがそう言うと、ディアさんたちはそれこそ床に頭をこすりつけんばかりに感謝してくれる。
そこまでされる筋合いはないんだけどなぁ。
肉体を増強しちゃったみたいで悪い気がするし。
まぁ、村長さんの結果からすると、小一時間もたてば作用が切れるからいいかな。
前のやつだと、しばらくの間、肉体増強の後遺症が残ったものね。
【魔女様が獲得したもの】
聖域草と温泉成分の丸薬2:ぎりぎりまでドレスが開発した丸薬。髪の毛への影響は少なくなったが、性格が明るくなったり、肉体が増強されたりと余韻が残っている。肉体増強効果はそれほど長くない。余談ではあるが、こちらの丸薬は生産数も多く将来的にはバフ剤『白い悪魔』として流通していく。
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