128.アクト商会、聖域草で大儲けしようと思っていたら、不届きなやつが現れたので正義の捕縛を試みます!
「はははは! 笑いが止まらないよ!」
アクト商会の代表、ブルーム・アクトは喜びの声を上げていた。
彼が隣国のラインハルト公爵家から入手した聖域草が、恐ろしいほどの高値で売れていくからだ。
「ぐふふふ、これでビビッド商会を出し抜いて、ザスーラで一番の商会になれる!」
ブルームは入ってくる報告書を読みながら、今後の皮算用を始める。
今回の聖域草の商いによって、アクト商会はザスーラ内で大きな政治的な地位を確立するだろう。
「そして、僕はザスーラの指導者になるのだ!」
ブルームの目指すのはザスーラの第一の権力者である、連合国首相だった。
そのためにもブルームは聖域草の管理を徹底させることにした。
特に自分の治める街では法律を制定して、聖域草を禁制品とすることにした。
万が一にも横流しや窃盗が起きてはならなかったし、もしも、聖域草がどこかの地域で見つかっても絶対に握りつぶさなければならなかった。
もっとも、聖域草は最果ての禁断の大地に生えている植物で、簡単に手に入るはずもなかったが。
数日後、ブルームは自分の治める街に滞在していた折、不穏な報告を受ける。
街の衛兵が怪しい猫人を見かけたというのだ。
その猫人は道端の子供に紙の包みを手渡したと言う。
子供があまりにも喜んでいたので、衛兵は疑わしいと判断したのだ。
彼がその子供から紙の包みを奪ったところ、黄金色の草が入っていた。
その草の葉は禁制品として取り締まられている植物のものによく似ていたのだ。
「こ、こ、こ、これは!? ひっとらえろ! この包みを持っていたものを探し出せ!」
聖域草の入った包み紙をみて、ブルームは仰天する。
そして、即座にその猫人を捕縛するように命令するのだった。
猫人と言えば、南のビビッド商会だ。
もしも、聖域草がビビッド商会に渡ったら、自分の計画がふいになってしまう。
くそっ、あの化け猫ども、何度叩き潰しても生き返りやがって……。
ブルームの拳は怒りのあまり、わなわなと震えるのだった。
「な、なんだと!? 一人を取り逃がしただと!? 愚か者め!」
ブルームの声が豪華絢爛な執務室に響き渡る。
しかも、悪いことにどちらの方向に逃げたのかさえ見当がつかないとのことだ。
捕まえた人物はずっと黙秘を続けていて、どこでこの薬草を入手したのか話そうとしないらしい。
嫌な予感がする。
ブルームの背中に冷や汗がたれていく。
「くそっ! こうなったら、僕が聞き出してやる!」
ブルームは鼻息荒く盗人を捕縛してある牢屋へと向かうのだった。
そこには猫人の商人、メテオ・ビビッドがうずくまっていた。
鉄格子に入っていて、出られる様子はなく、彼女もそれを理解しているようだ。
取り押さえられる際に衛兵たちに殴られたのか、顔に擦り傷ができていた。
「名前は何という? あれをどこで手に入れた?」
「…………」
猫人の女は何も答えなかった。
「ふん、ずっと黙っている気か……」
その態度は気に食わなかったが、ブルームは目の前の猫人の瞳をよく観察する。
これがただの猫人なのか、それともビビッド商会の構成員なのかで対処は大きく変わる。
相手がビビッドの商会員である場合には下手なことはできない。
しかし、ただの猫人であればただの罪人である。
即座に、処刑でもなんでもすればいいと考えていた。
「……」
目の前の猫人は黙ったまま自分の目の中を見据えてくる。
だが、その目の奥に強い意志があるように感じられた。
「貴様、無礼だぞ!? 僕は今すぐにお前を殺すこともできるのだぞ!?」
ブルームはメテオをなじる。
しかし、それでも彼女は口を開くことはなかった。
ただただ、ブルームの瞳をじっと眺めているだけだった。
「ぐ……」
ブルームは胸の奥に重いものを感じる。
メテオの瞳の光はブルームがビビッド商会の会長である、フレア・ビビッドと対決した時のことを思い出させるものだったからだ。
もしかしたら、この猫人はフレアに近い人物、それも親族の一人かも知れない。
フレアは自分の仲間を傷つけられたら、倍返しで仕返しをしてくる恐ろしい女だった。
相手の素性がわからない以上、不用意に殺してしまうのはまずいとブルームは結論づける。
逆に言えば、この猫人は『使える』可能性が高い。
ビビッド商会と対立している案件の取引条件として、この娘を持ち出してみようと考える。
「ふんっ、まぁ、いいだろう」
ブルームは拷問することは諦め、メテオを人質として扱うことに決めるのだった。
その決断は後々まで尾を引くことになるが、彼がそれを知るはずもなかった。
◇
「クエイク、上手く村に戻れたかいな」
ブルームが去った後の牢屋は再び静かになる。
彼女は牢屋の窓から、メテオは青い空を眺めていた。
鉄格子で区切られた空はいつになく、遠いものに感じられた。
「あっちゃぁあああ、下手こいたなぁ、ほんま」
彼女は自分の迂闊さを呪う。
それでも、自分のしたことを後悔するつもりはなかった。
自分の命をつないでいれば、きっとユオが助けてくれるという確信があったからだ。
それに、もしも自分が処断されても、妹のクエイクがいれば村は発展できるとも思える。
クエイクは自分よりも交渉に長けた人物だと思っているからだ。
「それでも、もうちょっとだけユオ様と一緒に頑張りたかったなぁ。仕事がぎょうさんあるって言ってたし……」
メテオは青い空を眺めながら、そうつぶやくのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アクト商会かぁ、久々に活きのいいのが出てきやがったぜ…!」
「頑張ってくれよ、アクト商会!」
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