127.メテオ、捕縛されるも、なんとかクエイクだけは逃すことに成功します
「なぁ、アリシア、今回の一件が終わったら、うちの村に来たらええやん?」
「……うーん、どうだろうなぁ」
これはメテオが捕縛される少し前のこと。
ザスーラの首都を目指す道中で、メテオとアリシアはそんな会話をしていた。
学校時代、同級生だった二人はとても楽しそうに話をしている。
「うちの村に冒険者ギルドができるやろ? そしたら、ギルドマスターがいるやん? 受付嬢もいるやん? アリシアならどっちもやれるって」
「えぇー、買いかぶり過ぎだし。確かに料理も温泉も最高だったけどさぁ」
「せやろ! ふふふ、うちの村は最高なんやって!」
「本当にあんた、あの村が好きよね」
「めっちゃ好きやからなぁ。村のことも、ユオ様のことも、温泉も、全部、大好きやで」
「はぁ〜。聞いてるこっちが恥ずかしくなるんだけど」
「心の片隅にいれといて。うちらの村、絶対にめちゃくちゃ発展するから。その時に戻ってきたいって言っても、もう遅いんやで?」
「あはは、わかったわよ。お世話になったし、少しだけ考えておくわ」
「よろしゅうたのんまっせ。おっ、そろそろ首都やな」
馬車から顔を出すと、大きな建物が見える。
ザスーラの首都が見えてきたのだ。
ここにはザスーラ連合国の政府機関があり、冒険者ギルドの本部もある。
アリシアとコラートの家族もここに住んでいた。
メテオ達はここでアリシアたちと別れることになっていた。
アリシアたちはこれから家族のもとに急がねばならない。
「ほな、この薬草は10分ほどぬるーいお湯で煮て、煎じ薬を作れば大丈夫やと思うわ。くれぐれも沸騰させたらあかんで、めっちゃエグ味がでるから」
別れ際、メテオはアリシアに聖域草の煎じ方についてよく伝える。
成分の抽出方法は特殊なものではないが、それでも一般人にはわかりにくい。
「じゃ、お母さんにお大事にって言っといて」
「コラートさんも、娘さん良くなるとええですね」
「メテオ、クエイクちゃん、ありがとう! 進捗については手紙するわ」
「本当にお世話になりました!」
「湿っぽくなるから泣かんでえぇちゅうねんっ!」
アリシアとコラートは村で受けた恩を思い出すと、涙が出そうになる。
コラートに至ってはこの時点で泣いていた。
「ほな、行こか。いよいよやな」
二人と別れたメテオとクエイクはいざ、南にある商都へと向かうのだった。
そこには彼女たちの母親であるフレアが率いる商会がある。
「うち、今から怖いわぁ」
クエイクはこれから起こるであろう、鬼のフレアとの対決を想像してわなわなと震えるのだった。
◇
「あ、あのぉ、お姉ちゃんたち、果物いらない?」
夕方近く、メテオたちはとある街に到着した。
道端から貧しい身なりをした少女が現れて、果物籠を差し出してきた。
どうやら道行く人々に果物を売って日銭を稼いでいるようだった。
この街はアクト商会の治める街で商業自体は潤っていた。
しかし、それでも沢山の貧民がいることで有名だった。
メテオはその少女を見て、昔のことを思い出す。
まだまだ母親の商会が駆け出しだった頃、メテオの家も同様に貧しかったのだ。
「ええで。籠ごと買うたるわ」
メテオがそういうと、少女は顔をぱぁっと明るくする。
クエイクは「しゃあないなぁ、お姉ちゃんは」などと言っているが、不満というわけでもない。
姉のきっぷのいいところが昔から大好きだったのだ。
「お姉ちゃん、ありがとう! これでお母さんの薬が買えるよ!」
女の子は興奮した様子でそんなことを言う。
話を聞くに、少女の母親は数ヶ月前から体調を崩し、家から出られないとのこと。
咳がひどく、やせ細ってしまったとのことだ。
今では貯金も底をついたので、少女は近くの青果店の手伝いをしているのだという。
「姉ちゃん、それって……」
「せやろうな、むむむ」
余計なおせっかいと言えば、おせっかいだったかも知れない。
しかし、メテオはこの少女を放っておくことができなかった。
彼女は懐から小さな紙の包みを取り出すと、こう伝える。
「ええか? この中に薬の葉っぱが入っとるから、ぬっるーいお湯で煮てお母さんに飲ませたり。沸騰させたらあかんで? そのお茶で一発で治るからな」
メテオが差し出したのは、聖域草の茎や葉を乾燥させたものだった。
彼女は予備用にいくつか用意しておいたのだ。
少女は「ありがとう!」と声を出すと、路地裏へと消えていく。
「お姉ちゃんはお人好しすぎるで!」などと、クエイクは怒る。
それでも、姉の行動に心が暖かくなるのを感じるのだった。
しかし、事態が急転するのは、その次の日の朝のことだった。
「猫人の商人!? こいつらだ!」
「よくもぬけぬけと、この盗人が!」
街の門を出ようとしたところ、衛兵がメテオに槍を向けてくるではないか。
「はぁああ? 何が盗人やねん? 人違いやろぜったいに!」
メテオは大きな声を上げて抗議するが、あっという間に衛兵たちに取り囲まれてしまった。
わけが分からぬ状況に戸惑う二人。
「お前、これをどこで手に入れた? これはこの街の禁制品だぞ?」
衛兵の隊長らしき人物が懐から紙の包みを取り出す。
メテオはそれを見て、小さく舌打ちをする。
それは昨日、彼女が道端の少女に手渡した聖域草の断片だった。
しかし、それが禁制品であるとは聞いたことがない。
非常に高価ではあるが、先日までは一般流通していたはずのものだ。
「この都市の法律なのだ! アクト商会の許可なしに、これを扱うことは禁止されている! この猫人の女をひっとらえよ」
「はぁああ?」
衛兵はメテオを捕まえようと、挑みかかろうとする。
わけの分からぬ状況に思考が固まりそうになる。
ただ一つ確かなのは、こんなところで二人とも捕まるわけにはいかないということだ。
メテオはシュガーショックを暴れさせて逃げることも考える。
だが、それはできない。
ここで自分が騒ぎを起こして、お尋ね者になってしまったら母親と交渉することさえできないだろう。
どうすればいい?
メテオは必死に策を巡らせる。
幸いにも、この間抜けな衛兵たちはメテオのことだけを疑っているようだ。
「……クエイク、村に戻ってユオ様にこのことを伝えてや」
「はぁ? 何言ってんねん!? ちょっと!」
メテオはそう言うと、続けて大きな声を出す。
「シュガーショック、もとに戻るんや、今すぐ!」
刹那!
彼女たちの連れていた綿毛のような白い犬は、白銀の巨大な狼に変身する。
「ひぃいいい、シルバーウルフだ!」
「くそっ、なんでこんなところに!?」
衛兵たちは突然のモンスターの登場に目を白黒させる。
そのすきを突いて、メテオは叫ぶのだった。
「シュガーショック、戦ったらあかんで。今から、クエイクを連れて村に帰るんや」
シュガーショックはメテオの言葉を理解したかのように頷く。
「ちょっとぉおおおお!?」
間髪をいれず、シュガーショックはクエイクを咥えてひらりと塀を飛び越えていく。
あまりの早業に衛兵たちは何の対応もできないまま、空を見上げる。
澄み渡る青空のもと、クエイクの声が響くのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「メテオ、あんた、ええやつやったんかい…!?」
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