125.魔女様、冒険者ギルドのアリシアを温泉に沈めるも、女神が降臨し、先輩とあがめる
「ふわぁあああ、さいっこぉお」
温泉の熱が骨の髄まで染み渡る。
自分の屋敷の裏に温泉がある幸運を噛みしめる私なのである。
「魔女様ぁ、今日は大変だったんですよぉおおお!」
リリが泣きながらお湯に入ってきて、今日の顛末を教えてくれる。
あの崖を垂直に飛んだってわけか。
ふむ、なるほど。
「私、怖くて怖くて」
リリはトラウマを思い出したのか、わぁわぁ泣き出す。
衝撃も半端じゃなくて内臓が口から飛び出しそうだったとのこと。
……私だったら気を失っていただろうなぁ。
「リリ、本当に頑張ったね。リリは偉い!!」
それでも無事に生還しているのは、もうすごいとしか言いようがない。
私はリリの頭をなでて、褒めちぎるのだった。
リリは何とか機嫌を直してくれる。
これもやっぱり温泉のご利益ってものなのかもしれないなぁ。
「にゃははは! あたしはこの深さでも泳げるのだ!」
「クレイモア、温泉で泳いじゃいけません!」
一方、犯人の一人のクレイモアは子供のようにはしゃいでいる。
この子は本当に元気だなぁと感心してしまう。
「ほらほら、アリシア、女同士やし、怖いことないって」
「あんたがそう言ってて大丈夫だったことないじゃない!」
そうこうするうちに、二人の声が聞こえてくる。
一人はメテオ。
私の村の腕利き商人で、ララと一緒に財政全般を担当している。
身長は低いけれど、相変わらずのメリハリのある身体がまぶしい。
もう一人は冒険者ギルドのアリシアさん。
先日から村に滞在しているのだけれど、なんだかんだで温泉に入るのが今日になったのだ。
彼女は恥ずかしさもあるのか、タオルを全身にぐるぐるっと回して現れる。
「メテオ、あんまり怖がらせるんじゃないの。アリシアさんも楽に入ってみてね。今日はちょっとぬるめだから入りやすいはずですよ」
「は、はい。ありがとうございます。それでは……」
アリシアさんは恐る恐るといった様子で温泉に入ってくる。
本当はタオルをつけたままお湯に入るのは禁止なのだけど、今日は特例でOKということにした。
温泉のよさを知ってもらってから、ルールを守ってもらえばいいってことで。
それぐらいしないと、アリシアさんの鉄壁のガードは崩せなさそうだし。
それにしても、彼女のタオルはガッチガチにまかれていて、体のラインはほとんどわからない。
脚はすらっとして長い。
銀色の髪をお団子にしているのも新鮮だった。
「〜〜っ!?」
お湯に肩までちゃぽんと浸かったアリシアさんの反応は思った以上にあっけなかった。
ただ、目を閉じて、ちょっと震えるだけ。
「はうぅううう」とか、「最高やぁああ」とか、そういう派手な反応じゃない。
体全身を駆け巡る感覚を必死に我慢しているんじゃないかと私は邪推する。
顔色を見るに気持ちいいのは確かだろうから。
ふむふむ、いろんな反応をする人がいるんだなぁ。
「ふふふ、ええやろ? 温泉って最高やろ? ほらほら、タオルを外してもっと自分を解放したらええやん」
メテオはちょっと悪ふざけ気味にアリシアさんに絡む。
うーむ、確かにタオルをびしっと巻きすぎているのは気になった。
メガネも掛けたまんまだし、まだまだ恐縮しているのかも知れない。
お風呂っていうのは皆が自分の立場を忘れて楽しむ場所なんだけどなぁ。
とはいえ、真っ裸に抵抗がある人もいるよね。
「触るなってば!」
ウザがらみしてくるメテオにいつになくつっけんどんな態度のアリシアさん。
ふぅむ、いくらメテオが相手とは言え、かなりピリピリした様子。
ここで私はある仮説にぶち当たる。
彼女がタオルをぎちぎちに巻いている理由。
それは体型にコンプレックスがあるからじゃないだろうか?
だから、メテオがちょっとでもふざけると、怒ってしまうのだ。
ズバリ、言い当てるならば、アリシアさんのコンプレックス、それは胸がそんなに……ってことなのだろう。
「うひひ、よいではないか、よいではないか! ふふふ、相変わらずのもち肌やのぉ」
「ちょっと、こら引っ張ったらダメって!」
メテオは悪ふざけを加速させる。
人にはいろんなコンプレックスというものがある。
人前で裸をさらしたくないって気持ちだってあるよね。
「こら、メテオ! 嫌がってるんだから自重しなさい! あらっ……」
メテオの悪ふざけを止めさせるために立ち上がった時だった。
急に立ち上がったのが悪かったのか、バランスを崩した私はアリシアさんの方に倒れてしまう。
反射的に手をついたのは、アリシアさんのタオル。
「ひえ」
そして、気づいたときには私は彼女のタオルをすぽーんとお湯に落としてしまったのだ。
あわわ。
「ひきゃああああああああ!?」
悲鳴をあげるアリシアさん。
ぶくぶくとお湯に沈むタオル。
しかし、予想というのは裏切られるためにある。
「な、なんですって!?」
女神。
私の目の前に現れたのは女神だったのだ。
クレイモアが破壊の女神だとしたら、これは慈愛の女神。
拝まずにはいられないような、見事なプロポーションがそこにはあった。
ウエストが細いのに……いい感じに大きい。
クレイモアやララみたいに重そうじゃないけど、十分に立派。
とはいえ、メテオとかクエイクみたいに、やんちゃな感じでもない。
なんていうか、大人、なのだ。
はっきり言って、これぐらいがいい。
私とほぼ同じことを思っていたのか、リリは「こういうのがいい」と口に出してしまう。
「あ、あのぉ? どうされました?」
美しいものを目の前にすると、人は信仰にも似た行動をしてしまうと言う。
私とリリはアリシアさんを無意識に拝んでしまっていたのだ。
「なななな!? 学生時代はそうでもなかったのに、なんで成長してんねん!? うちの知らん間に何かあったんか!? うちのもんやのに!」
「知らないわよ! っていうか、あんたのものでもなんでもないでしょ!」
「そもそも着痩せしすぎやん。もぉ、あからさまに出し惜しみして、ずっるいわぁ!」
「うっさい、ばか! あんたはデリカシーがなさすぎなのよ」
アリシアさんは恥ずかしさも忘れて、メテオと言い争いを始める。
ふふふ、こうして見ていると、大人な雰囲気のアリシアさんもまだまだ子供っぽいところがあるみたいだ。
このときにメテオがとんでもない情報を私達にもたらしたことに気づく。
「……リリ、今の聞いた?」
「……この耳でしっかり聞きましたとも」
リリに確認すると、彼女は神妙な表情でうなずくのだった。
私達の表情を一変させたこと、それは『学生時代のアリシアさんの胸はそうでもなかった』っていうことだ。
学生時代は小さかった。しかし、今は違う。明らかに違う。
ってことは、アリシアさんは成長したってことである。
成長して、女神になったってことだ。
この時だった。
私の頭上に光が舞い降りた気がしたのは。
これまで悩んでいたことへの道筋ができた気がしたのだ。
まぁ、少しだけ、ほんのちょっとだけの悩みだけどね。
「アリシアさんっ!」
「は、はいいいい!?」
「これからは先輩って呼ばせてください!」
「はいいいい!? 先輩!? 私が!?」
「アリシア先輩にはいつも憧れてました!」
「私からもお願いします! アリシア先輩!」
私とリリはアリシアさんを先輩と呼ぶことに決めたのだった。
彼女の成し遂げたことはとても大きい。
温泉の力を使わずとも、自分の力で成長させたのだ。
どこをってわけじゃないけど。
どこをってわけじゃないけど、人間って育つんだね!
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「アリシアさんは完全にノーマークでした……」
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