123.魔女様、溶岩の化け物に手を突っ込んで本体を取り出そうと目論む。化け物にドン引きされるも、新ワザを開発してしまう
「この時代にも、お前のようなやつがいるとはなぁあああ!? この姿を見たものは生きては帰さぬぅうううう!」
巨大な怪物が私達を見下ろす。
その体は赤々と燃え、大量の蒸気を噴き出している。
頭部の目はもはや赤々と燃え、昔、本で読んだ火山のように見える。
「ひ、ひぃいいい」
アリシアさんは恐怖で立つことすらできない状況だ。
とはいえ、私はまったく怖くなかった。
クレイモアに斬られたときも、穴トカゲに攻撃されたときも、私を守ってくれるものがあるから。
「熱鎧!」
私を包む高温の空気、それが熱鎧。
厚さ1センチにも満たないその熱の帯は、触れるものすべてを燃やす。
耳がじわじわと熱い。
目の奥がメラメラと燃える感覚。
ふふふ、なんだかちょっと楽しくなってきた!?
「な、な、なんだその髪は!? ええい、消え去れぇええええ! 獄炎衝」
ぎゅおおおっと大きな岩の塊が私に迫る。
真っ赤に燃えた溶岩の拳で、まともにぶつかればお星さまになるしかないだろう。
それでも、私は自分を信じるだけ。
私を包む熱が私を守ってくれることを。
少しだけ子供の頃の記憶が蘇る。
誰かの温かい手が頬に触るような感覚。
……あぁ、そうか、私はずっとこの熱と一緒に生きてきたんだ。
ずずずずずずず
一瞬、目の前が暗くなる。
変な音もする。
だけど、体には何の変化もない。
「あら?」
気づいたときには岩の化け物の拳に、私のシルエットの穴が空いていた。
いわば私の形の小さなトンネル。
ご丁寧にスカートの裾までしっかり再現されていてなんだか面白い。
そっか、クッキーを型抜きする要領か。
それが面白くて、私は場違いにも「ふふっ」と笑ってしまう。
「な、な、なぜ笑っている!? 何がおかしいのだ!? ひ、ひ、ひひ、ひひ、なんだこれは? なぜ、私の腕に穴が!?」
岩の化け物は驚き、自分の拳を何度も見返す。
やはり溶岩でできているその体に痛みを感じることはないようだ。
やつは「くそぉっ」などといいながら、さらに腕を振る。
しかし、起こるのは自分の腕が削れていくという現象。
「ごたくはいいから、かかってきなさい。この石ころ」
私は化け物を今の場所から引き離すことにする。
アリシアさんや聖域草の近くで暴れてもらいたくない。
「かかってこいだと!? 人間ごときがこの私を愚弄するなぁああああ!」
岩の化け物は挑発に乗る。
体を真っ赤にさせて激高すると、やつは口から真っ赤な炎を放射する。
後ろに誰もいないことを確認した私は、もはや熱の壁を出現させることもない。
ごごっごごごごごごおおおおおおおおお!
音はものすごい。
赤くてオレンジの光は眩しくて、目をつぶってしまいたくなる。
だけど、いくら炎に触れても、そよ風がほほをくすぐるだけだ。
「くかか、ここまでやれば消し炭さえ残っていないだろう……」
岩の化け物の声が聞こえる。
辺りは一面焼け野原になってしまっていて、煙がもうもうと立ち込めている。
怪物にはこちらの様子が見えていないのだろう。
ぶわっと風が吹き、煙が晴れる。
「ひ、ひ、ひぃいいいいいい!? なんなのだ、貴様は、ま、ま、まさか……」
私の目の前には岩の化け物が尻もちをついていた。
こころなしか先程よりも小さくなっている。
「うぐぉおおおおお! 獄炎滅!」
やつは口の奥に青い炎を出現させる。
おそらくはこれまでで一番高い温度の一撃。
だけど、私はひるまない。
もはや目を閉じることすらなく、青い炎の中に突っ込む。
「えいっ!」
私は岩の化け物に向かって腕を入れてみる。
指先の温度を少しだけ上げて。
ひゅぼぼぼぼっと、変な感触とともに私の腕は相手の体の中にめり込んでいく。
「あれ? ここらへんだって思ったんだけどなぁ」
私が探しているのは岩の化け物の本体だった。
デタラメでも拳を突っ込み続ければ、本体を取り出せるはず。
「ひ、ひぃいいい、貴様、何を、何をす、するするすうううううう!?」
「ほら、あんたの本体を出してやろうかって思って。溶岩って重そうだし?」
「や、や、やめろぉおおおお!?」
「ふふふ、そう遠慮しなくていいよ?」
やっぱり、相手と話し合うときには、素のままの姿で向かい合わなきゃね。
この岩の化け物の核になっている精霊は恥ずかしがり屋なのだろう。
「えいっ、やぁっ、とおっ!」
岩の中に腕をずぼずぼっと突っ込む。
私に触れるなり、消滅する岩の体。
昔読んだ格闘技の本の主人公のように、色んな形の拳を突っ込む。
私の手のひらは少し赤く燃えている。
うん、いい感じ。
こういうの、好きなのかも知れない。
気づいたときには、化け物の体はぼろぼろに崩れてしまうのだった。
なるほど溶岩って熱に弱いんだなぁ。
「な、な、な」
そして、心臓の辺りから現れたのが化け物の本体だった。
オーソドックスに心臓を狙えばよかったのかぁ。
「き、き、貴様」
私の目の前で声を震わせるのは手のひらぐらいのサイズの炎だった。
目が3つほどあるけど、これが火の精霊なんだろうか。
口が大きくて、カエルみたいでなかなかかわいい。
よぉし、やっと本体が出てきた。
こいつにはしっかりお説教しなきゃいけない。
寝起きで機嫌が悪くても人を傷つけちゃいけないってことを。
人間の言葉がわかるのなら、通じあえるかもしれない。
「ば、化け物ぉおおおおおおお!?」
「あっ、こら! 待ちなさい!」
しかし、なんと失礼なやつだろうか。
火の精霊は私を化け物呼ばわりして逃げ出そうとするではないか。
元気のない蝶のように、ふらふらながら向こうへ飛んでいこうとする火の精霊。
ここで逃げられたら元も子もない。
とはいえ、村長さんは傷ついてるし、誰にもあれを捕まえることはできないかもしれない。
私も高くジャンプする力があればいいのに。
ん?
ジャンプする力?
そう言えば、私はわたしの触れている部分を加熱できるんだった。
……ってことは?
「とりゃっ!」
足の裏に思い切り意識を回す。
そこから熱が伝わって足元が爆発し、その力で私を高く飛び上がらせるイメージする。
ぼがぁん!
爆発音がした次の瞬間に、私は宙に浮いていた。
だいたい、5メートルぐらいだろうか。
かなりの高さで一瞬、ビビる。
だけど、大丈夫。
これぐらいなら、しゅたっと着地できるはず。
「やった! 成功!」
そう、私は高くジャンプできる方法を編み出したのだ!
よぉし、追いかけるよ!
「な、なんだぁ!?」
奴の悲鳴が聞こえる。
けっこう遠くまで飛んでいったみたいだけど、まだ追いつける範囲だ。
「逃さないよ?」
どがぁあああんと、足の裏が爆発すると、体は一気に急加速!
ひゅうんっと頬が風を切る。
ちょっと怖いけど、私は無我夢中で火の精霊をおいかける。
「捕まえたっ!」
私は手のひらの中に、炎の精霊を捕まえるのだった。
よぉし、これで一事が万事、解決だよね!
【魔女様の発揮した能力】
超高熱貫手:手を高熱にした状態で対象の体に突き刺す技。触れたそばから焼けたり、蒸発したりするので、文字通り、するっと穴が開く。正拳突きなどのバリエーションも可能。ただし、いくら体に手を突っ込込めるからと言って心臓を盗むといった器用なことはできない。即死技。
熱跳躍(初級):足元に熱を集中させ、一気に爆発させることによって驚異的な飛躍能力を可能にする技。まだまだ使いこなせないが、鍛錬することで飛距離は延びる。
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「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様、なぜ笑うんだい……?」
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