122.魔女様、溶岩の化け物を目の前に「溶岩は燃えます!」と溶岩の定義を変える
「くかかかか! 私は無敵だ! お前らなどすべて灰に変えてやる!」
岩の化け物は大きな声で笑う。
モンスターを燃やすなんて悪趣味極まりないやつで、お友達にはなれそうにない。
「ひょ、ひょっとして今のって魔石を食べたんじゃないですか……!?」
一部始終を眺めていたアリシアさんは口を押さえて、わなわなと震え始める。
「し、知ってるんですか、アリシアさん?」
「えぇ……」
アリシアさんはどうやらあの化け物を知っているみたいだ。
その頬には汗がたらりと流れる。
彼女は一呼吸置くと、真剣な顔になって話し始める。
「あ、あれは災厄の六柱の一つ、魔石食いのラヴァガランガです」
「ヴァカ?」
「ラヴァガランガです。最初は火の精霊だったのに魔石を食べることで、どんどん大きくなって、都市一つを飲み込んだっていう……。終わりだ、私たち、もう終わりだ……」
彼女はそう言うと、ほとんど虚脱状態になってしまう。
ふぅむ、なんだかわからないけれど、あれは凶悪な化け物なのだろうか。
私からすると、モンスターを燃やして喜んでるだけのバカにしか見えないけど。
それにしても、あれが火の精霊なの?
「ぐはははは、続きと行こうではないか! 弱者どもよ、せいぜい抗ってみるがいい!」
「くっ、やはりか……」
村長さんは渋い顔をする。
私達は驚きで目を丸くする。
岩石の怪物は切り落とされたはずの腕を再生させてみせたのだ。
「そろそろ力を出してやるか……。ひさびさの戦闘だ。これごときで死ぬなよ?」
怪物の再生させた腕が真っ赤に光り始める。
ん?
この感じ、あれだ。
けっこうな熱を感じる、あいつの腕から。
「ラヴァガランガは魔石を吸収することで、溶岩の体を形成するんですぅうううう! 私達、もう終わりですぅううう」
虚脱状態だったアリシアさんが再び目を覚まし、絶叫する。
この人も虚脱したり、覚醒したり、忙しいな。
そして、次の瞬間!
どっがぁああんっ!
轟音とともに地面に穴が開く。
アリシアさんの言ったとおり、溶岩の拳で殴ったためか、地面からは水蒸気が発生していた。
さっきよりも遥かに速くて重い一撃!
村長さんも、コラートさんも大丈夫!?
「ぐ、ぐふっ……」
「くっ……」
直撃はさけたものの、ふっとばされた二人は立ち上がることができない。
服も焦げちゃってるし、これ以上の戦闘は難しいだろう。
「ぐはははは! 脆弱な人間どもめ、死ねぇっ!」
岩の化け物はそういうと、二人にとどめの一撃をいれようとする。
大ぶりのパンチなのに、めちゃくちゃ拳が大きいから避けようがない。
「させないよっ!」
私は熱視線を奴の腕に飛ばす。
がががっと岩の削れる音がした後、奴の腕は地面に落ちる。
ふぅ、よかった。
私の技は通じるらしい。
そりゃ岩ぐらい切れるよね、うん。
「まだ他に戦えるやつが残っていたのか! いいぞ、相手をしてやろう!」
やつはそう言うと、再びモンスターの死骸を燃やし始める。
そして、すぐに腕を再生させた。
なるほど、体全体をやっつけないとダメージはないってことなのかな。
「絶望しろ、人間ども! 私の目を覚ましたものはすべて皆殺しにすると決めていたのだ!」
岩の化け物はとんでもないことを言い始める。
いくら寝起きが悪いからって、暴れていいってわけじゃないでしょ?
そんなの二歳児じゃあるまいし。
それに殺すとか、いくら例えでもそういうことを言うもんじゃない。
こっちは謝ってるんだしさぁ。
……ん? 謝ってはいなかったか。
ともかく、寝起きが悪いからって誰かに暴力を振るっちゃ駄目でしょ!
「アリシアさん、あいつ、溶岩の体って言ったわよね?」
「は、はい……」
「だったら、燃えるってことよね?」
「はい?」
アリシアさんは不思議そうな顔をするけれど、私の腹は決まる。
あの寝起きの悪い溶岩の化け物を懲らしめるっきゃない。
それに溶岩って岩が熱で溶けているってことでしょ?
それってほとんど燃えてるのと同じじゃない?
「……そ、そうなんでしょうか? 岩が溶けているから溶岩で……あれ?」
アリシアさんはもうわけがわからないって顔をしている。
ふむ、それじゃ実演してみせたほうが早いかな。
「ぐはははは! 逃げ惑え!」
岩石の化け物はこちらに気づいたのか、ずしぃん、ずしぃんと足音をさせて近づいてくる。
おかげで村長さんたちへの注意がそれた!
私が目配せすると、ドワーフのおじさんたちが慌てて回収に走る。
「ひぃいいい、こっちに来ます! あわわわ、もう、私、終わりだ。せっかくの聖域草がぁあああ」
アリシアさんは岩陰にうずくまり、もはや戦闘意欲もへったくれもない感じになる。
この人もやっぱり挑発係にうってつけの人材だなぁ。
「お前の後ろにあるのは聖域草だな? その禍々しい草をお前らごと焼き尽くしてやる!」
岩石の化け物は私達にむかって、腕を構える。
どういう原理でできているのか知らないけれど、腕の先に真っ赤な炎が見える。
どうやら、あいつは聖域草が嫌いで燃やしたいらしい。
「ひきゃああああ!?」
ごごぉおおおおっと、化け物の手から放射される紅蓮の炎!
アリシアさんはこれが最期と金切り声をあげる。
「そうは行くかっていうの!」
私は迫りくるう炎の前に熱の壁を出現させる。
この間の熱平面の応用だけど、出現させるのはもはや一瞬。
ぐぼぼっぼぼぼぼぼ……
へんてこな音をたてて、炎は熱の壁の前で止まる。
どういう原理なのかわからないけれど、私たちは一切、熱を感じない。
アリシアさんは「あわわわ」と声をあげているけど、体は無事のはず。
「あんた、いい加減にしなさいよ!」
私はイライラしていた。
相手が一方的に自分の意見を通してくることに。
嫌いだからって何かを焼き払うとか、消滅させるとか、そういう物騒なことを言うことに。
何にだって使いようがあると思うし、勝手に焼いていいわけがない。
「くはは、貴様が俺の腕を落とした魔法使いだな!? お前の魔力が尽きるまで燃やしてやる!」
岩の化け物はそういって赤い口を歪ませて笑う。
その手のひらには真っ赤な炎が揺れる。
そして、私は今更になって気づくのだ。
……この怪物が炎を操っていることに。
……ってことは、つまり、この怪物、「使える」ってことに!
そうだよ、こいつの能力はかなり使えるよ。
レンガを焼くのにうってつけだし、お菓子を焼くのにも役に立ちそう!
とはいえ、なんでも暴力に訴えて解決しようとする、その根性は気に食わない。
いくら便利な能力があっても、暴れん坊は駄目だ。
そろそろケリをつけてやらなきゃね。
「あんた、溶岩でできてるんだってね?」
「ぐはは! そうだ、この体は灼熱の溶岩でできている! それもただの溶岩ではないぞ、魔石を練って作られた体だ」
「それじゃ、熱を感じないわけ?」
「当たり前だ、私は不死身なのだ。脆弱な人間の熱なだだだっだだっだ、あぁああ熱い!?」
上手く対話に引き込んだ私はやつの体を試してみることにした。
すなわち、奴の腕に熱平面を飛ばしたのだ。
火炎放射されるのも飽きてきたし。
「な、なんだ!? 今のは!?」
奴の腕はしゅおぉーっと煙を上げる。
見てみれば、腕全体が白く変色してしまっている感じ。
けっこう熱をいれてみたけれど、消滅していないのは驚き。
でも、やっぱり溶岩だって燃えるんだなぁ。
ん? 腕がガラスみたいになってない?
「わ、私は災厄の六柱のラヴァガランガ! こんな所で!」
そういうと、やつは背中から、大量の細い腕を出す。
それは四方八方に伸びると、周辺の森にいたモンスターを捕まえて魔石を補充するようだ。
なんて器用な奴なんだろう。
「貴様が何者であろうと、こんなところで消えるわけにはいかぬ! 数百年、閉じ込められていた私の恨みをぉおおおおおお!」
モンスターの魔石をとりこんだ岩の化け物はますます大きくなり、今では遺跡と同じぐらいの大きさになる。
見上げるほど高い怪物。
だけど、私にはなんとなく、その本体が見えている。
この怪物、実は小さいんじゃないだろうか?
よっし、この戦闘をさっさと終えて、怪物を説得しなきゃね!
【魔女様の発揮した能力】
燃焼(溶岩):すでに十分高温になっている溶岩を燃やすという魔女様ならではの力技。魔女様が燃えると言ったら燃えるので反論できない。即死技。
ガラス加工:対象を高温で熱することで、ガラスを生成する能力。普通の人間の場合、ガラスにする前に燃える。即死技。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「あれ? ダンジョンを気に食わないからといって焼き払うとか言ってた人が……」
「脅迫……?」
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