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【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~【書籍化+コミカライズ】  作者: 海野アロイ
第8章 魔女様の冒険者ギルド誘致! 村の近所にダンジョンが見つかり、魔女様は14日ぶり8回目の大暴れ
118/352

118.魔女様、生まれてはじめて「いけにえ」を使います。栄えある、いけにえの第一号はやっぱりこの人!


 ぐごぁああああああ!

 ふしゅるるるる!


 溢れ出すモンスター!

 猛々しいモンスターたちの雄叫び。

 すべてを踏み潰す邪悪な足音。


「ひきゃあああああああ!?」


「なんでうちがぁあああああ!?」


 それに負けず劣らず谷に響き渡る、二人の悲鳴。

 彼女たちはぐるぐる巻きにされて、棒からぶらさがっている。



「にゃははは! 鬼さん、こちらなのだ!」


「ほらほら、ついてきなさぁい! こっちのほうが美味しいですよ!」


 そんな状況でもモンスターを不敵に挑発するクレイモアとハンナ。



「ユ、ユオ様、本当に大丈夫なんですか!?」


 顔をひきつらせるアリシアさん。



「大丈夫、きっと上手くいくわ」


 私は確信を持ってそう答えるのだった。


 この「モンスター誘導大作戦」なら、きっとスタンピードなんて一網打尽にできるはず。




 ————翻ること、数時間前。


 「ダンジョンを破壊するな」と怒られた私はとあるアイデアを思いついた。

 

 まず持ってきてもらったのが村長さんのお散歩コースの地図である。


 実際にはお散歩なんて甘いものではなくて、いきなり崖から飛んだり、モンスターが現れたりといった殺人コースに近い。


 村長さんの話ではちょっと細工すれば大岩が降ってきたり、槍が飛んできたりもできるらしい。

 完全に殺しにきてる、悪意たっぷりのお散歩コースなのだ。



「こちらをどうされるのですか?」


「ふふふ、この殺人コースを逆手に使うのよ!」


 私のアイデアはこうだった。


 ダンジョンから出てきたモンスターたちを、この殺人コースに誘導するのだ。

 こちらは敵を挑発して逃げるだけで、コース上の殺人モグラやイノシシが勝手に戦ってくれるってわけ。

 いわば、モンスター同士を戦わせるっていうのが目的だ。

 


「なるほど、モンスターには仲間意識なんてありませんからね」


「ユオ様にしては、素晴らしいアイデアやん」


「いけそうですね……」


 皆が神妙な顔をして同意してくれる。

 メテオの「ユオ様にしては」っていうのが気にかかるけど。



「あ、あのぉ。その誘導する係は誰がやるんですか?」


 心配そうに声を出すリリ。

 危険すぎる作戦なので、ビビってしまうのも無理はない。


 もちろん、戦闘力ゼロの彼女にやってもらうことはない。

 リリを戦場に送るなんてどうかしてると思うし。


「よ、よかったぁああ」


 リリは安心しきった表情をする。

 そりゃそうでしょ。



「ここはハンナとクレイモア、頑張って」


 ここで白羽の矢を立てたのはハンナとクレイモアだ。

 彼女たちは散歩コースを何度もくぐり抜けているし、誘導するにもスムーズだろう。

 万が一、戦闘になっても大丈夫だ。


「ええぇええ、ダンジョンから出てきた生きの良いやつと戦いたいですぅ!」


「あたしもなのだ! なんなら潜ってもいいのだよ!」


 二人は不満そうな声を出す。

 それでも、この二人以外に適任はいない。

 二人はこれまでに何度もこの散歩コースを駆け抜けていて、道順を熟知している。


「どうしても戦闘が必要になったら戦っていいから。ハンナ、今日は村のために頑張ろうよ。クレイモアだって、食堂をオープンするんでしょ?」


「わかりました! 村のためなら、なんだってやります! いけにえにだってなりますよ!」


「わかったのだよ。でも、これが終わったらダンジョンに潜るのだ」


 村のためと言い聞かせると、二人はなんとか納得してくれる。

 よっし、これでこの作戦は上手くいくわ。



 心のなかで、そうガッツポーズしたときのこと、

 

「あ、あのぉ、お二人だけじゃ上手くいかないと思うんですけど」


 ここで手をあげたのがクエイクだった。

 彼女は眉毛を八の字にしたまま続ける。


「ハンナさんもクレイモアさんも、なんていうか、そのモンスターの天敵やないですか。そんな二人がいくら挑発しても、モンスターは感づいてついてこないんとちゃいます?」


「あ……、そっか、そうだよね」


 思わぬ盲点というやつだった。

 ナイスな指摘だよ、クエイク。


 この二人と森を歩いたりしても、そこまでたくさんのモンスターには遭遇しない。

 モンスターの本能はすごいものがあって、わざわざ強い相手になんか向かっていかないのだ。


 モンスターは弱い人を狙う。

 これは言わずとしれた法則なのだ。



 しかし、この二人じゃないとお散歩コースを安全に誘導なんかできないだろう。


 ぐむむ。


 どこかにモンスターを挑発というか、誘引できる人材はいないかなぁ?

 すぐに泣き叫んでモンスターが追いかけてくるっていう人材が。

 私は魔力ゼロだしいいのでは?と聞いてみるも、みんな黙って首を横に振る。



 うーむ、そんな人材いたっけなぁ?

 


「あ」


 私の視界にピンク髪の少女の姿が目に入る。

 彼女の名前はリリアナ・サジタリアス。

 言わずとしれた、サジタリアス辺境伯のご令嬢だ。


 しかし、今ではこの村のために魂を捧げるとまで言ってくれている、強い心の持ち主。


 彼女はとにかく戦闘には向いていない。

 この前に森に入ったときも真っ先に狙われていたっけ。

 彼女のタレ目っぽい瞳がそうさせるのか、華奢な体つきがそうさせるのか。


「な、な、な、なんですか!? なんでみんなで私の方をみるんですか!?」


 本能で何かを察知したリリは変なトーンで声を出す。

 野生の勘はそれなりにあるのだろう。

 なんていうか、追い詰められた野うさぎが「ぴきぃいい!?」って鳴くのに似てる。


 不憫すぎて、これから起こることに同情を禁じえない私。


 しかし、私は心を鬼にして言うのだった。



「リリ、悪いけど、モンスターの誘導、頑張って」


「ひ、ひえぇえ、なんで私なんですか!?」


「……リリならきっと上手くいくわ! だって、リリだもん!」


「答えになってませぇえええん!」


 もうこの時点で泣きそうになっているリリである。

 とはいえ、護衛にはクレイモアにハンナがいるのだ。

 二人に守られている状態ならなんとかなるだろう。


「大丈夫なのだ、リリ様はあたしが守るのだ! だってほら、リリ様の護衛はあたしなのだから、一緒にいてくれないと護衛にならないのだ!」


「ふふ、大丈夫ですよ。攻撃を受けたとしても先っぽだけです! じきに慣れますよ!」


 クレイモアとハンナは謎の論理でリリを説得する。


「一緒じゃなくていいです! だいたい、先っぽってなんですかぁあああ!?」


 当然、そんな論理は通るはずもなく、リリはますます困惑する。

 いや、先っぽっていうか、攻撃を一ミリたりとも受けさせたくはないんだけどなぁ。


 うーむ、たしかに囮が一人だと難しいかもしれない。


 とは言え、他に適任は……?



 私はその場にいる面々をぐるっと見回す。


 ララはおしとやかに見えて戦闘経験が豊富だ。

 氷魔法の使い手だし、悪者に躊躇しない怖さがある。


 ドレスはもともとA級の冒険者だったんだよね。

 筋肉質だし、強そうだし、囮には不向き。


 クエイクはいつも悲鳴を上げてるし、いい感じかもしれない。

 んー、だけど、うちの村とサジタリアスをいつも往復しているんだよね。

 ってことは、ある程度、腕に自信があるかもしれない。


 アリシアさんもいい人材だと思うんだけど、冒険者ギルドの人だしなぁ。


 あとは……。


「よっし、メテオもついでに行っちゃおうか。いけにえ……じゃなくて、挑発係は二人ぐらいほしいよね?」


「な、な、な、なんでうちやねん!? クエイクもおるやろ?」


「ほら、昔、スライムに追われてきたし。大丈夫、メテオはどっちかというと保険だし」


「なんなんその二番煎じ感、めっちゃ腹たつんやけど! こんなん全然、おもろないで? ……みんなも、こんな冗談笑われへんって言うたってよ。へ? なんやねん、その目は……」


 突然の指名に、メテオは冗談だと思ったらしい。

 しかし、周りの空気は違った。


 みんなは目を伏せたり、目をそらしたりしている。

 クエイクは「お姉ちゃん、たまには空気読まなあかんで」とポツリとこぼす。


「ほ、ほんまなん?」

 

 メテオは小刻みに震え始める。

 猫耳が寝ちゃっていて、それはそれでかわいい。

 

 そう、私の返事は決まっているのだ。



「ほんとよ」


「うっそぉおおおお!?」


 と、こんな経緯でもってリリとメテオの二人をいけにえ……じゃなくて、挑発係に据えることにした。


 ダンジョンを爆破されたくないのなら一肌脱いでもらわなくちゃ、でしょ。


 もちろん、万が一のことがないように、丈夫なロープで固定するし、うちの村のハンターさんたちにも護衛をお願いするけどね。



「ユオ様は鬼ですぅううう!」


「こんなん、ありえへんで! 公平にくじ引きで決めよ! こら、クエイク笑うな」


 泣きそうになっている二人の顔を見て、よっし、これなら大丈夫だと確信を深める私なのであった。



「さっきから聞いていればなんなんですか!? いけにえなら私がなります!」


 ハンナは抗議してくるけど、これはいけにえじゃないからね。

 あくまでも無事に作戦を遂行させるための、えーと、……人材活用なんだから。




◇ アリシアさんの回顧録


 いけにえにされなくて良かったぁああ。

 

 

【魔女様が手に入れたもの】

挑発係:敵を挑発するスキルをもつ人材。リリやメテオといった非戦闘員は素でモンスターをおびき寄せることができる。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「魔女様の領地、本当に人材いけにえに恵まれてるぜ……!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


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― 新着の感想 ―
[良い点] リリアナ嬢、今の貴女(魔力ゼロ)を戦場に出さない。と魔女様は言ってるだけだし、聖女の加護を得たらわからないよ。?その前に目の前の事(釣り役)をしっかり果たそうね。以前の騒動のお仕置き回だっ…
2021/12/20 14:26 通りすがりの人
[良い点] 役割分担って大事ですよねぇ…
[一言] ?殺人コースに最初に飛び込むのは散歩なれした人たちだよね? つーことは、槍とか全部喰らうのはデコイの方なのでは? そもそも脳筋二人が罠を後続に当てるなんて器用なまねできるんですかね?
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