114.魔女様、冒険者ギルドの二人に村の周辺を案内するつもりが思わぬトラブル巻き込まれ、あろうことかお姫様抱っこ朝崖されてしまう
ごごごごごごっ……
「ひえぇえ!?」
どういうわけか朝から地震である。
びっくりしすぎてベッドから落ちちゃった私なのである。
ぐむむ、寝覚めが悪い。
ちょっとだけ頭がぼんやりして、イライラする。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ありがとう。今日は頑張らなくちゃね」
とはいえ、地震程度で予定を変えることはできない。
今日は冒険者ギルドの二人を村の外に案内する予定なのだから。
「おはようございます」
アリシアさんは肌ツヤもよく、今日も美人だった。
昨日のクレイモアのハンバーグが良かったのだろうか。
温泉に入ればもっと美肌になれるのになぁ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
コラートさんはもっと元気そうに見える。
こころなしか昨日よりも元気そうだ。
ふくく、温泉が効いたんだろうなぁ。
「それじゃあ、行くぞい!」
今日私たちを案内してくれるのが村長さんだ。
彼はこの地域で一番の古株だし、この辺りの地理に明るい。
村の周辺を案内するのに一番適していると言える。
「あ、あなたは……!?」
いざ出発となっているのに、コラートさんは目を丸くして黙り込んでしまう。
「ふむ、久しぶりじゃの。コラートじゃったかな?」
「ご無沙汰しております、剣聖様。まさかこのような村にいらっしゃるとは……」
コラートさんが黙ってしまった理由は村長さんにあった。
コラートさんが言うには、昔、村長さんには冒険者の仕事でお世話になったらしい。
危ないところで命を救われたとかいう命の恩人だとのこと。
「ふ、ふひぇえ、こ、この方、け、け、剣聖のサンライズさんなんですか!?」
しばらく話を聞いていたアリシアさんだったけど、いきなり騒ぎ出す。
目の前にいるこの白髪のおじいさんが、あの大英雄サンライズだって気づいたらしい。
「ふふふ、おじいちゃんはとっても有名人です!」
ハンナは嬉しそうに笑うのだった。
◇
「それじゃ出発しましょう!」
今日のメンバーは村長さん、ハンナ、私、アリシアさん、コラートさん、それにシュガーショックだ。
シュガーショックは大きい姿でいるとびっくりされるので、今日は縮んでもらっている。
「うわっはぁあああ、もふもふですよぉおお」
アリシアさんは犬が大好きなようでシュガーショックに抱きつく。
シュガーショックは嬉しそうに尻尾を振る。
えらいぞ、シュガーショック。
今日は冒険者が素材を集めるのに適しているかどうかをチェックするとのこと。
基本的には村の周辺をぐるっと探索することになっている。
村長さんとハンナがいれば護衛は十分だよね。
私はシュガーショックの散歩に行くつもりでいればいいや。
「ふむふむ、さすが禁断の大地ですねぇ〜。見たことのない素材がいっぱいですよ!」
アリシアさんは道すがら、好奇心旺盛に歩き回る。
冒険者も言っていたけど、うちの村の周りには珍しい素材が沢山落ちているらしい。
ぐがぁああああああ!
そうこうするうちに、相変わらずの森トカゲが襲来。
とはいえ、村長さんとハンナの前にはなすすべもない。
トカゲたちは即座にバラバラになってしまう。
うぅむ、二人共さらに腕をあげたんじゃないかな。
「ひ、ひぃいいいいい、陸ドラゴンを瞬殺……」
アリシアさんは顔を青くして口をひくひくさせている。
あれをドラゴンだなんて言う人がハンスさん以外にもいたんだなぁ。
たぶん、この人もトカゲが苦手なんだろう。
「あ、あれはセキトリ草! あ、あのぉ、こちらを頂いてもいいですか?」
アリシアさんは道端に生えている草を指差して声を上げる。
うちの村の近くにはしょっちゅう生えている草だ。
確か咳を伴う病気を治してしまう薬草だったはず。
どうやら、欲しいみたいで上目遣いでお願いしてくる。
「どうぞ、どうぞ」
「ありがとうございます! あっ、ここにもあるっ!」
そう答えると、彼女はすごい勢いで採取し始めた。
しまいには崖にほど近い、ちょっと危ない所までいってしまう。
彼女は魔法袋という保存用に開発された袋に薬草を入れていく。
そんなときだった。
「魔女様、大きいのが来ます!」
ハンナが叫んだ次の瞬間!
猛烈な勢いでイノシシが突っ込んでくる。
その大きさは尋常ではなく、これって村長が言っていたイノシシ!?
「よぉし、いざ尋常に勝負ですよ!」
ハンナはどういうわけか、剣を抜かずにイノシシに向かって走り始める。
うそ、これって、まさか!?
どげしぃっ!
……どたん。
妙に激しい音がしたあと、ハンナとぶつかったイノシシは地面に転がってしまう。
打ちどころが悪かったらしく気絶したままだ。
巨体のイノシシを体当たりでやっつけるなんて、どういうこと!?
すごい……。
すごいよ、ハンナさん!!
「ふぅむ、まずまずじゃのぉ。じゃが、踏み込みが甘い。こうじゃぞ?」
「あっちゃあ、魔女様が見ているので緊張しちゃいましたぁ」
この期に及んで甘さを指摘する村長さん。
てへっと笑うハンナ。
思えば、数ヶ月前までこの人達はやせたかなしい姿だったんだよなぁ。
この人達を開花させてしまったのは、人間社会にとっていいことだったのだろうか?
もしかしたら、とんでもない化け物を解き放ったんじゃないだろうか?
不穏なことを思う私。
まぁでも、誰の脅威になっているわけでもないからいいかな。
「ひ、ひぇええ!?」
ハンナの活躍に見とれていると、予想外のことが起こる。
アリシアさんが崖から落ちそうになってるではないか!?
「アリシアさん!?」
イノシシに驚いて、よろけてしまったのだろうか。
崖の近くで薬草採集していたのも不運だった。
彼女は崖の草をつかんで、悲鳴をあげている。
「私につかまってください!」
「た、た、助け———」
コラートさんが手を差し出し、彼女はなんとかその手にすがりつく。
しかし、次の瞬間。
コラートさんの足場がぐらりと崩れる。
どうも地面がもろくなっていたのだ。
「きゃああああ!?」
アリシアさんの叫び声と共に、二人は崖の下へと消えていく。
うっそぉ、ちょっとやばいでしょ、これ!
「シュガーショック、お願い!」
私はシュガーショックに号令をかけて二人さんを助けてくれるように命令する。
シュガーショックはいつもの大きな狼へと変化し、風のような速さで崖の下へと飛び込んでいく。
お願い間に合って!
シュガーショックはものすごい勢いで二人の方向へ飛んでいく。
しかし、その先は霧が濃くなっていて見えない。
私たちは数十メートルはあろうかという崖の下を注視するのだった。
「ふむ、アリシアさんもコラートも、ずいぶん気が早いのぉ。気を抜いたすきに朝崖するとは」
ひゅおおおおっと風の吹きすさぶ中、村長さんから予想外の一言。
いやいやいや、あれは自分から落ちたんじゃなくて、事故ですから!
こんな崖を好き好んで落ちる人がいるわけないじゃん!
「大丈夫ですかぁああ? 生きてますかぁあ!?」
ハンナが大きな声で呼びかける。
しかし、猛烈な風が吹いていて声がかき消えてしまうようだ。
シュガーショックが間に合えば、なんとか無事に降りられたかもしれない。
だけど、これはまずい。
「やばいよ、これ! 村長さん、ハンナ、崖の下まで助けに行ける?」
冒険者ギルドの二人がまさかの転落事故だ。
ここら辺はモンスターがどんどん集まる場所。
村まで戻って援軍を呼ぶ時間なんてない。
「もちろんですとも! しかし、ちょいと厄介な所に落ちたようじゃな。ハンナ、魔女様を頼むぞい!」
村長さんはそう言うと、まさかのまさか、崖を走って下っていく。
どうやら崖のわずかな窪みを利用しているらしい。
……あれ? 崖って走って下るものだっけ?
村長さんの運動神経に驚愕しているところに、ハンナから一言。
「じゃ、魔女様、私達も行きますよ!」
「は?」
「魔女様、失礼いたしますね」
「へ?」
気づいたときにはハンナにお姫様抱っこされている私。
生まれてはじめてのお姫様抱っこがこれ?
「さ、最高ですぅううう」
「ちょっと待った、心の準備が」
しかも、この流れ、何?
どう考えても私を抱えて崖から降りるつもりだよね?
うっそぉおおおおおおおお!?
吹きすさぶ風の中、私の悲鳴はそりゃもう豪快に響いたのだった。
◇ ミラージュ・ラインハルトに雇われた魔獣使い
「やったぞっ!」
ミラージュから依頼を受けていた聖王国の魔獣使いの男は事故に見せかけて冒険者ギルドの職員を殺すことを計画していた。
彼はイノシシのモンスターを使役して、職員二人のもとに突っ込ませ、崖から落とそうと計画していた。
モンスターは金髪の少女に始末されてしまったものの、職員二人は不運にも崖から落ちてしまう。
もちろん、それは魔獣使いの彼にとって幸運であること、この上なかったが。
数十メートルの崖から落ちてしまっては命はないだろう。
彼は安否を確認することなく、その場を後にするのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シュガーショック、頼むで……!!」
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