110.冒険者ギルドのアリシア、禁断の大地の審査に入ります!「あれ? この石像、ちょっと胸が大きくない?」と気づいてしまう
「じゃ、アリシアちゃんはこの仕事お願いね?」
私の名前はアリシア。
ザスーラ連合国の首都に住む冒険者ギルドの職員だ。
私はギルド本部長からとある仕事の指示書を渡された。
そこに書かれていた案件を読んだ私は、思わずメガネがずり落ちそうになる。
「禁断の大地に冒険者ギルドを設置する……ですか!?」
禁断の大地、それは人が住めない場所と言われている。
この大陸の中央部に位置し、魔族たちが支配する魔王領との緩衝地帯になっている地域だ。
とにかく強力なモンスターが生息しており、いくら開拓団を派遣しても人が住むことはできない場所。
今はどの勢力も支配しておらず、空白地帯になっているはずだ。
そんな所の村に冒険者ギルドの審査をしにいくの!?
うぅ、ゼッタイ行きたくない。
「今、特級魔石が出回っているの知ってるでしょ?」
「知ってますけど……」
特級魔石とは大粒の魔石のことだ。
ここ数ヶ月の間、市場に出回り始め、現在の魔石市場をかき回している存在だ。
サジタリアスの市場から卸されていると聞いているけど、それがどう関係あるのだろう?
「話によると、その魔石、禁断の大地から出てきてるみたいよ?」
「えっ!? そうなんですか!?」
これには面食らってしまう。
冒険者ギルドの職員としては勉強不足なことこの上ない。
特級魔石の産地かぁ。
そうなると、たしかに冒険者ギルドとしては放っておけないだろう。
「それに何度も何度も催促の手紙が来てるんだよね。それに、この差出人の名前に見覚えがあるでしょ?」
「メテオ・ビビッド……ですって!?」
その名前を見た私はびっくりしてしまう。
メテオは私の学校時代の同級生だ。
成績は優秀だったけど、ふざけた性格だった。
何度彼女にからかわれたことか。
しかし、そんな彼女がどうして禁断の大地なんかにいるの!?
……悪さでもして辺境に追放されたとか?
「知っての通り、メテオ・ビビッドはビビッド商会長の娘の一人。あの商会が絡んできたら面倒くさいことになるんだよね〜?」
「う、うぐ……」
言葉に詰まる私。
私だってメテオの母親がこのザスーラの有力人物であることは知っている。
あらゆる手段を講じて目的を達成する人だってことも。
「まあこの差出人はあくまでも娘名義だけどさ。あの商会、怖いからさぁ」
冒険者ギルド長はそう言って「はぁ」とため息を吐く。
確かにビビッド商会は冒険者ギルドにも多大な影響力を持っている。
特にザスーラにおいては、かなりの依頼を請け負っている。
冒険者ギルドとは持ちつ持たれつの関係であって、形だけでも処理しなければならない。
「アリシアちゃん、ここ最近、全然出張してくれないでしょ? 悪いけど、他の職員の不満もたまってるし、そろそろ行っちゃおうか? お母さんのことはちゃんとサポートしてあげるから安心して」
私が出張を渋る理由にはもう一つあった。
それは私の母親のことだ。
つい数ヶ月前のこと、私の母は病で倒れてしまった。
一流のお医者さんに見せたけれども原因はわからず。
ひっきりなしに熱が出て、咳が続き、体がどんどん痩せていっている。
母の看病のため、1日たりとも家を空けることはできなかったのだ。
「で、でも、禁断の大地ですよね!? あ、安全面は」
どうしても首都にいたい私は反論を試みる。
そうだ、禁断の大地に行くなんて危険すぎるよね。
第一、私は腕に自信なんかこれっぽっちもないし。
しかし、言い終わらないうちにギルド本部長は口を開くのだった。
「コラートを護衛につけてあげる。頑張ってね」
「コラートさん……!?」
コラートというのは私の勤めている冒険者ギルド本部の凄腕職員だ。
元はA+級の冒険者で、引退後、うちのギルドで働いている。
初老の剣士だけど、これまでに数々の事件を解決し、腕は一流だ。
どんなことがあっても帰ってくるので不死身のコラートなんて呼ばれている。
彼が私の護衛に入ってくれるということは、私の安全は確保されているということ。
……つまり私には断る権利はないということだ。
「わかりました。お受けいたします……」
私は観念してそう伝えるのだった。
母さんのためにも早く行って、早く帰ってくるしかない!
◇
「ここが禁断の大地!?」
ザスーラ北部の辺境都市サジタリアスから禁断の大地までは馬で数日の距離だった。
デスマウンテンと呼ばれる凶悪な死霊のすむ山を迂回し、荒れ果てた道無き道を進む。
道中、私はある異変に気付く。
モンスターに一切出くわさないのだ。
ザスーラであってさえも、人里を離れたらなんらかのモンスターに遭遇する。
しかし、いくら道を進んでも、野宿をしても現れる気配がない。
道なき道なのはそのままだし、秋風もだいぶ厳しい。
もしかしたら禁断の大地なんていうのは噂話でしかなかったのかもしれない。
そんなこと思っていた頃に、村が現れた。
どういうわけか、急に暖かくなってきたのはなぜなんだろう。
「立派な塀がありますね。奥には城みたいなものもありますよ?」
コラートさんもつぶやく。
私達の目の前にあるのは辺境の村には似つかわしくない立派な塀だった。
入り口には門があり、街を囲うようにしてレンガの塀が連なっている。
奥の建物は黒光りしていて、まるで城塞のような威容を放っていた。
真っ黒だなんて、いかにも蛮族の砦って感じで趣味が悪いけど。
村の入口には門番の男性と女の子が待機していた。
「冒険者ギルド本部から来たアリシアと申します。領主様からの依頼の件で参りました」
私は門番の女の子に取次をお願いする。
彼女は「しばらくお待ちを!」といって走って去っていった。
「……普通の村っぽいですね」
「そうですね」
コラートさんはうなずく。
私は不思議な気持ちでいた。
こんな辺境の村なのに、ここまで整備されているのはなぜなんだろう?
辺境の村といえば、掘っ立て小屋に住み、貧しい暮らしをしているのが通例なのに。
先程の門番の女の子だってそうだ。
栄養状態は良いらしく、髪はツヤツヤしていた。
もう一人の門番の男性もガッシリしていて逞しい。
思った以上にこの禁断の大地の村は豊かなのかもしれない。
でも、油断はできない。
あのメテオが入り込んでいる村だ。
どうせ何かを企んでいるに違いない。
それに、私はサジタリアスで妙な噂を聞いた。
この禁断の大地には灼熱の魔女が住み着いているのだと。
もちろん、鼻で笑うべきことにちがいないけれど。
「アリシアやん! 生きとったんかい、ひっさびさやなぁ! 元気そうで何より!」
出迎えに現れたのはメテオだった。
彼女は相変わらず口が悪い。
久々の挨拶に生きていたのかはないでしょうよ。
私はそれでも久々の友人との再会に少しだけほっとするのだった。
メテオは相変わらず瞳が大きくて、可愛かった。
顔のあざがなくなっていることについては敢えて触れない。
もしかしたら化粧で消しているのかもしれないし。
「おおっと、こちらがうちらの偉大なる首領様のユオ様やで」
「私達の村にようこそ! よろしくおねがいしますね!」
そして、案内されたのがユオと名乗る少女だった。
黒髪に白い肌の彼女はハッとするような美少女だった。
なんと彼女は私たちを村の門のところで出迎えに来てくれたのだ。
領主というものは自分の屋敷にふんぞり返っていることが多い。
いくら辺境の村だとは言え、ここまでしてくれるのは珍しい。
「いらっしゃいませ!」
「ようこそおいでなさったぜ!」
彼女以外にも何かの村人たちが私たちを出迎えてくれる。
その中にはどこかで見たような顔ぶれもいる気がするけど……。
「えーと、アリシアも疲れてるやろ? まずは疲れを取って明日から審査するのがええんちゃうか? うん、それがええで」
メテオはぎこちない笑顔でそう言う。
私は彼女を学校時代から知っている。
本心が別のところにある場合、彼女はあえて美味しそうな餌をぶら下げるのだ。
確かに足も腰も疲れている。
正直、休みたい。
だけど接待でも受けて、ついつい審査が甘くなるなんてことはしちゃいけない。
私だって冒険者ギルド本部で成り上がってみせるんだから。
こんな辺境の村なんかに用はないんだから!
「駄目よ。時間がないの。審査はすぐに始めるわ」
私はあえてそっけなく伝えるのだった。
いくら学校時代の友人とはいえ、公私混同はできない。
私は自分の職務を全うするだけだ。
「ひ、ひぇええ、今日、始めるの!?」
「あっちゃあ、バカ真面目なんはずっと変わっとらんなぁ」
「これはやばいってば、メテオ!」
「そんなんなるようになるしかないやろ!?」
領主のユオさんも、メテオも顔を歪めて何やらごちゃごちゃ言っている。
ふふん、隠した方が良いものがあったのだろう。
抜き打ち検査だからこそ悪さができないような仕組みになっているのだ。
冒険者ギルドは清廉潔白をモットーとしているからね。
「すっごぉい、これ」
「ふむ、見事な街ですな」
村に足を一歩踏み入れると私たちは驚いてしまう。
レンガの街並みが目の前に広がったのだ。
それも建物だけがレンガ作りなのではない、地面さえもレンガで覆われている。
尋常ではない数だ。
これを用意するだけでもかなりの大金がかかったはず。
……もしかして、この村、お金持ちなの!?
「あれ、なに!?」
私はさらに絶句する。
村の広場には巨大な女の子の像があった。
黒光りした立像で、モデルは領主の女の子だとわかる。
土台には『我らが偉大なる首領様ばんざい』と書かれている。
足元には花が供えられている。
私はかつてリース王国でみた、剣聖のサンライズの立像を思い出す。
人々からまるで信仰にも似た感情でかつての英雄は尊敬されているのだ。
ってことは、このユオっていう女の子は村人から慕われているってこと!?
どこからどう見ても、普通の女の子なのに!?
よく見たらその立像のポーズはとてもへんてこだった。
顔はなんとも言い難い表情しており、ちょっと偉そうな表情にも見える。
「よ、よくできた像ですね」
コラートさんも立像に見入ったまま驚いた様子だ。
確かに造形は素晴らしい。
もしかしたら名前のある職人が作ったものなのかもしれない。
しかし、私はある点を見逃さなかった。
立像の胸が、明らかに大きいのだ。
なんていうか前にせりだしてるみたいな大きさ。
一方、本物の方はなくはないんだろうけど、なくはないんだろうけどなぁ、って大きさ。
少なくとも大きくはない。
「ふふっ」
失礼なことだけど、この立像の胸には失笑してしまう。
たぶんきっと領主様は見栄を張って、こんな胸にしたんだろうなぁ。
気持ちはわかるよ、うん。
この土台にも『我らが偉大なる首領様』と書かれているし、この領主様はかなりの見栄っ張りなんだろう。
「……今、笑われたんだけど!? ドレス! メテオ! あんたら後でひどいからね!」
「ひぃいい、ごめんですぜ!」
「かんにんやって! 謝るから!」
私たちの後ろの方で領主たちは何やら言い争っている。
特に領主は顔を真赤にして怒っているようだ。
内輪もめだろうけど、相手をしているわけにはいかない。
こんな僻地の審査はさっさと済まさなければならないのだから。
「面白かった!」
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「メガネのお姉さんなのか……!?」
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