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街角の首なし騎士  作者: 霧江
第一章 トンネルを越えて
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第5話:手番

 その日、缶詰を開けて軽い昼食をとった後、僕らは何もすることがなくて、日が落ちるまで時間を潰していた。


「はい、『独占』ー!」


「おいっ!? シャーリーまて、それナシだろ!」


「ルールだよ、2倍だからね」


「クソッ! 持ってる物件を売り払っても、次で破産決定じゃねーか!」


「金欠クソ野郎は黙ってて。次はベルタの番だよ」


「私は今『刑務所』よ。続けて」


「待て! ……アル、『交渉』だ。二人っきりでな」


 ダンとシャーリーの提案でいきなり開かれることになったボードゲーム大会。

 一位は最下位の人間に命令が出来ると言い出した二人に、僕とベルタは半ば強引に参加させられた。

 ボードゲームは学校でも飽きるほどやったはずだったが、まさかこんな時に盛り上がるとは思わなかった。

 二人はよくケンカをするのに、ゲームをしている時は笑顔が多く、親しげに見える。ベルタの推測だと、この数日のうちになにかあったらしい、という。


「こういうのは、放っておくのが一番なの」


 ベルタはそう答えて僕にそれ以上の質問させなかった。

 時折、顔を覗かせる彼女の価値観が、僕には良くわからない。


 ゲームは終盤にシャーリーが追い上げたが、『刑務所』に入っていたベルタが逃げ切って一位に、僕はなんとか破産だけは免れて三位、そしてダンが破産で最下位、という結末だった。


 ちなみにダンが持ちかけた『交渉』とは、『刑務所行き』のカードが僕の手元にあるのを盗み見た彼は、それと自分の持っている『お宝』を交換したい、という話だった。

「『お宝』って、そんなアイテムあったっけ?」


「声が大きいぞ、『お宝』っていうのはな……」

 そう言って彼が差し出したのはいつぞやのハム肉だった。


「それってルール違反じゃ――」


「上手ぇ飯食いたいよなぁ?」


「……いらないよ」


「え?」


「僕は正々堂々戦うよ、ハムあんまり好きじゃないし」


「おい、たのむよ、ゲームくらいズルしようぜ!」

 その叫びを聞いたシャーリーによって、僕らの『交渉』は速攻で打ち切られた。


 阿鼻叫喚の――と言ってもそう感じたのはダンだけだろうが――ゲームが幕を下ろした。

 変なものに巻き込まれた僕は気を紛らわせるため、エスト大尉が残した双眼鏡で、南の渓谷へと伸びる街道を眺めた。


 そこには乾いた風が葉の落ちた木立の枝を揺らすだけでなにもない。


 今では当たり前の光景になっていた。結局この戦争がどうなったか、無線の沈黙した今ではわからないのだ。

 歴史の流れから取り残されたような寂しさと、戦闘のない安堵あんどがそこにあるように僕は思った。

 ふと脇に置いたヘルメットからは警報音が漏れているのに気づいた。

 僕は慌てて双眼鏡を下ろすと、ヘルメットをかぶって首なしの機内へ向かった。

 ヘルメットに投影された映像は、壊れた機動兵器のカメラから送られてくるもの

だ。そこにはトンネルを通過する3機の機動兵器が映っていた。


「誰か来る……」


「敵かー?」


 ダンがこちらを駒を置いて僕に話しかける。ダンはシャーリーと別のゲームをしていたようだ。


「いや、まってくれ」

 カメラをズームする。揺れる機体側面にはしっかりと連邦の識別マークが入っていた。


「敵機動兵器、3機。……指揮車とおぼしき装甲車両が1両」


「マジか。続きは終わってからだな、シャーリー」


 ダンとシャーリーも首なしに乗り込んだ。


『ジェネレーター起動……。ダン、足回りを動かすのはちょっとまって。敵に気付かれないようにしたい』


『りょーかい、機長殿』


『ダンは真面目にやんなさないよ……アル、敵は?』


『変わらず。縦隊で街道をこっちに来てる。随伴の歩兵なし、……何故かコックピットは開放している』


『ずいぶんと無防備じゃない? 罠なの?』


『わからない、斥候だろう。コックピットを開けたほうが、視界が取れる』


『引き付けてみないと』


 敵のパイロットはコックピットを開けっ放しにして誰かと話をしているようだった。

 機体の左側面を走る装甲車と何やら話しているようだ。

 装甲車から覗いた兵士の顔が笑っていた。

 

『どういうこと?』


『ハッチを閉めて。シャーリー』

 思わず外に顔を出しそうになったシャーリーを、ベルタが止める。


『相手も人間ってことだろ?』


『ダンは黙って』

 そんなふうに僕がダンに口をきくのは初めてで、皆が押し黙ってしまった。

 

 でも、この光景はなんなんだ?

 

 もう勝った気でいるってことだろうか。

 

 無線が通じなくてもこの状況ならこっちが負けているのは何となく分かる。

 国力だって連邦の地方都市くらいの経済規模しかないネトレヴナ共和国は最初から不利な戦いだというのは言わずとも、誰もが認識していた。

 だけどそれは、戦う価値がないということなのか。

 

 僕は無性に腹がたった。見返してやりたい、という気持ちが僕の中でふつふつと沸いてきた。


『攻撃しよう』


 独り言のようにそんな言葉が口をついて出た。


『相手が斥候の可能性もあるわ、見逃すのも手段の――』


『本気なの? 相手の方が多いんだよ?』

 シャーリーが息を呑んだ。


『本気だよ。本気でやらないと、守れないんだ』


 話している間にも敵の隊列はこちらに近づいてくる。

 掩体壕えんたいごうを作った時に、ある程度の偽装はしてあるから、すぐにこちらの存在が気づかれることは無いだろうが、それだって時間の問題だ。


 早く決めないと……!


『ちょっとまって、交戦許可なんてあった?』


『俺はアルに賛成、奇襲のチャンスだ。このまま隠れても、どっちみち相手がこっちを見つける』


『ベルタ、二人になんとか言って! もし連邦が優勢なら、ここを突破してもすぐ敵の援軍が来るんだよ?』


『話し合って決めるようなことじゃないだろう!? ……そうだ、ベルタ、機長だろう? 命令でもなんでもいい、決めてくれ』

 


『み ん な や め て !!』



 今まで聞いたことのないベルタの叫びに、僕は思わず、そう言って自分の後ろに座る彼女を振り向いた。


『あなた達は……いつもそうよね……』


『……ごめん』

 

『聞いて。最後の命令書に『万難を排し』とある以上、交戦するのは問題ない。

 あと問題になるのは、どう戦うか。この陣地は急造で、発見されないとは言い切れない。

 眼前の敵が数で優勢なら、ここは奇襲をとるのが最善の選択』

 皆がベルタの言葉に注目する中、独り言のように彼女は自分の考えを滔々《とうとう》と述べていった。

『じゃあ……』


『私の答えは攻撃よ。でも忘れないで。最後はアル、あなたが引き金を引くのよ?』



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