第14話:応酬
「……乗って」
ベルタはそう言って、いつものように首なしに搭乗するよう僕に促した。
「橋は……爆破したよ」
「そのようね」
「詳しく聞かないの?」
「シャーリーが橋で何が起きたか、教えてくれたわ」
町の人達は丘の教会に避難できたらしい。
僕と中佐のやり取りは教会の尖塔からシャーリーが無線で報告してくれたようだ。
警察大隊の将兵は中佐の逃亡と死を知ってほとんどが戦意喪失状態だった。
ベルタの説得で水際の防御をやめて教会周辺に防御を集中させることになった。
「僕のせいで、街の人が逃げる手段がなくなってしまった」
時間を稼いでいるあいだに、街の人を避難させる計画は失敗に終わった。
橋の爆薬は中佐に対する脅しだったのに、敵の進軍速度の方が早かった。
あの時、橋を爆破しなければ教会に市民が逃げる終わる前に市街地を蹂躙されていただろう。
「悪いニュースだけではないわよ? 友軍部隊と連絡が取れたの、救援に来てくれるそうよ」
ベルタの話だと、その部隊も僕らと同様、開戦の早い段階から電波障害で味方との連絡が途絶えて孤立していたらしい。
こちらの窮状を伝えると、ヘリコプター部隊を回してくれるということだった。
「ヘリが到着するまで持ちこたえればこちらの勝ちってこと?」
「天候が悪化しなければね。一七四五時に来ると言っていたわ」
時計を確認する。約三時間、それだけ戦えば血路が開ける。
絶望的だが、さっきまでの状況よりもだいぶました。
『あとはどう戦うかよね』
無線から聞き覚えのある少女の声を聞いて僕は驚いた。
「シャーリー!?」
『私も協力させてもらうよ? 街は尖塔から全部丸見えなんだから』
「シャーリーは私達のもう一つの『眼』になってくれる。戦い方に変わりはないわ、街は無人だし、私達の好きに戦える」
「そうだね。市街地の狭い道だ。罠に誘い、各個撃破するとしよう」
一時間前から続く砲声は、街全体を覆っていた。
迫る敵はありったけの支援砲撃を行ってからこちらを叩くようだ。
『……五キロ先に砲兵陣地、随分とにぎやかじゃない?』
シャーリーは乾いた声で報告してくる。
「もう少し待ちましょう」
前奏曲のように続いていた砲撃の音が散発的になった。やがて降り注ぐ砲弾の数が減り、そして止んだ。
街に多くの瓦礫と廃墟を生み出して、戦いの舞台は整った。
間を置かずに街道を、敵の機動兵器が来る。
「始まった」
四機の敵の先遣隊が市街地の迷路のような細い道を丘の方へ向かってやってくる。
ところどころ崩れた町並みは、僕らがつけた道しるべ。
相手は知らず知らず、誘導されるのだ。
物音一つしない、死んだ街の中を不似合いな鉄の兵士がうごめく。
一機が小さな三叉路に差し掛かったところで、地中から榴弾が炸裂する。敵機は僚機もろとも土煙に覆われ、小さなクレーターが出来る。
「二機撃破」
一五五ミリ砲弾を転用した簡易地雷だった。
機動兵器に限らず装甲兵器は、底面の装甲が一番薄い。この位置で爆発すれば、たとえ最新の鉄機兵と言えど無事では済まされない。
『最後尾、一機残ってるわ! グリッド198832』
シャーリーの無線が飛んでくる。
「アル。弾種徹甲、攻撃して」
敵はこちらが見えない。だが、こちらはシャーリーを通して敵の位置を知ることが出来た。
シャーリーが指示したとおり撃てば、敵は煙を吹く。
「了解!」
そして首なしの主砲唸りが、狩りそこねた敵の残党を屠る。
たちまち三機を撃破され、残った敵は後退を始める。
「まだだ!」
二発目の徹甲弾を放ち、僕は四機目も沈黙させた。
相次ぐ撃破に、嫌でも胸の鼓動がうるさくなる。
だが妙だ。敵の後退が整然としすぎている。
「おかしい――」
「九時の方向、ミサイル多数!」
「読まれていたか!」
「煙幕、後退するわ!」
白い煙が路地裏に充満し、たちまち首なしの巨体を覆い隠す。
今や操縦手も兼ねるベルタが首なしを操っているが、初めてとは思えない鮮やかな戦闘機動だ。
「十時、三時の方向、新たな機影!」
「シャーリー、上からどう見える?」
『やばいよ、囲まれそう』
敵は作戦を変え、複数方向からこちらを取り囲む作戦に出たようだ。
こちらが築いたバリケードを破壊し、罠に警戒しながら、包囲網を狭めているようだった。
「こちらから敵が見えないわ、誘導して」
『了解。ベルタ、敵は全部で四機、一番近いのは十時方向にいる』
「各個撃破しよう、近いヤツから」
「徹甲弾はあといくつ残ってるの?」
「二発だ」
「足りないわね。こちらの罠に引っかかるように、私達が動くしかない」
首なしは家と家の間をはしる道路を這うように進む。
家々の影に隠れるように移動し、シャーリーの指示を頼りに孤立した敵を狙っていく。
「標的はその角を左折した先にいるよ!」
パン屋の小さな看板が道路に向かって突き出ているのに引っかからないよう、慎重にベルタが首なしの行き足を落とす。
「徹甲弾装填する」
「二秒前進するから、停止したら撃って。すぐにまた後退するわ――いくよ?」
「いつでも!」
シートに押し付けられる僅かな加速、そして急制動。
僕は照準を覗いた。
敵はこちらに気づいていた。牽制の機関砲の二連射がこちらに飛んでくる。
盲撃ちだったのか、機関砲弾は首なしの右手にならぶ、商店街のショーウィンドウに撃ち込まれる。
着弾した店舗が雪崩となって崩れる。
いまだ敵機は目の前。遅れをとった僕は引き金を引いた。
「くそっ、外した!」
「大丈夫、敵もよ!」
「ベルタ、もっと近づきたい」
「了解!」
今までにないようなエンジンの唸り声で首なしは加速する。敵はこちらに向かって数歩歩みを進めたが、家屋の角に引っ込んだ。
残弾もない。今度こそ仕留めなければ辛い戦いになるだろう。
『まって二人共、四時の方向から来る!』
「そっちは瓦礫じゃ――」
破壊された商店の瓦礫が吹き飛んだ。その粉塵を突き破るように敵機が首なしの胴体めがけて飛び込んできた。
「やばっ」
「アル、近接防御!」
敵はこちらの胴体に組み伏せようとこちらの胴体に飛びついた。だが脚部に戦車の車体を流用している首なしはびくともしない。
敵はこちらが倒れないと見るや、すぐさま次の手を繰り出す。
敵は首なしの右手の主砲に掴みかかってきた。
「こいつ、離せ!」
振り回すように操縦桿を操作するが、まるで動かない。直ぐにベルタの声が飛んでくる。
「慎重に! 主砲が壊れるわ」
「分かってるよ!!」
これ以上無理に動かしたら、使い物にならないほどのダメージを砲身に受けるだろう。
僕は左腕のレーザーカッターを繰り出す。
相手の右肩を撃ち抜いたが、相手は素早く間合いを詰めて、首なしの左腕を右の脇に抱え込んだ。
二機の機動兵器は複雑に組み合ったまま、お互いの自重を支えているような状態となり、身動きが取れなくなった。
戦場が急に静かになった。
「なんてやつだ」
「同感よ……」
狙って一連の戦いを仕掛けてきたとしたら相当の手練だ。
ベルタも息を切らしながら漏らす。彼女も接近戦で僕の攻撃に合わせて機動するのは相当に苦しいのだろう。
その時、壮年の男の声が蹂躙された目抜き通りを駆け巡った。
『なんてやつだ、やっと止まったぞ。重機のバケモノだ……、全員攻撃をやめろ、手を出すなよ?』
外部スピーカー?
『聞いてるか!? 戦争は終わった、これ以上の戦いは無意味だ!』
「どういうつもりだ!?」
「待って。ブラフかもしれないわ」
『これ以上、君たちを攻撃しないと約束する。私はファーコス大尉、答えてくれ!』
戦争は終わった。
相手のパイロットらしき男の言葉が、鉛のような重みをもって僕の胸の中に入り込んでくる。
「……返答するの?」
ベルタの声がいつになく緊張してた。
「このままじゃ埒が明かない」
「罠かも……」
僕は無線に問いかける。
「シャーリー?」
『こっちから見る限り、他の敵に動きはないよ』
「少なくともこちらは時間稼ぎの作戦だ。敵の動きが止まるならそれに越したことはない。僕はそう思う」
僕はスピーカーのスイッチを入れた。




