第12話:目的
シャーリーは医師に任せ、僕らは街に架かる橋梁の修理に駆り出された。
クレーンが橋脚に掛ける鉄骨を持ち上げ、冷たい川の中で作業している兵士や住民達の上をかすめる。
首無しはあれだけ酷使したにも関わらず、ちゃんと動いてくれていることが未だにありがたかった。
「ベルタ?」
「何?」
僕はクレーンを操作しながらベルタに話しかける。
「シャーリーが言っていた話どう思う?」
「警察大隊が、大量の金塊を隠し持って逃げようとしているって話?」
「そう。住民から挑発した金品らしい、それを止めようとしてああなったって」
「嘘だと信じたいけど、どのみちここを守らないとわたしたちはおしまいよ……、エスト大尉は見つかった?」
「色々と聞いて回ったけど、彼はどこにも居なかった、死んだか脱走したか……」
「もう大尉が居ても居なくても一緒ね……、もう部隊は実質二人なんだから」
これからは居なくなったダンとシャーリーの分まで戦わなくちゃならない。
単純に仕事は倍になるだけじゃない。二人の気持ちを背負っていかなきゃならないんだろう。
もちろん僕とベルタも疲れていた。橋梁の修理は中佐の指示によって最優先事項とされ、突貫工事でこの三日間は徹夜しているのだ。
「これからどうすればいいかもわからない」
「いつまで続くんでしょうね?」
二人とも、この段階になると何も考えずに独り言のような会話になってしまう。
「敵を倒すまでだ」
「私は近いと思うわ」
「何が?」
「……終わりよ」
ベルタはこの戦争がもうすぐ終わるという。僕の記憶が正しければ、まだ始まったばかりだったと思ったが、それもよくわからない。
「結局だれの言うことを聞いていればいいのか分からなかった。――司令部、エスト大尉、警察大隊の中佐……、それから――」
「私?」
言い終わる前にベルタが割り込んできた。
でもそれも当然だと思う。僕らは士官学校から編入してきたというだけで、彼女を頼りすぎてしまったのかもしれない。
多少根に持たれるのも仕方がないだろう。
「すまない」
「その一言で十分よ。でもね――」
ベルタの少しため息めいた声が漏れる。
「――私も居なくなったら、自分で見つけなくちゃいけない事なのよ、アル」
諭すようにベルタは静かに僕に告げた。
クレーンの動きが止まった。しばしの沈黙と、外の兵士がこちらに投げかける怒鳴り声が遠く聞こえた気がした。
「そうか同じだったんだ」
「アル?」
「僕はこいつと同じだ。首都が陥落して、指揮官不在のよくわからない中、その場しのぎで戦っている……。
でも戦うしかないんだ。戦って、生きてこの戦争の真実を知るまでは、僕とコイツは、失った首を探して戦い続けないといけないんだ……」
「アル?」
今は真実なんてわからない。
だからこそ、僕はこのまま訳もわからないまま死にたくなかった。
何も知らないまま逃げるのはやめて、何かを知るために戦っていたい。
外の喧騒にようやく気がついて、工事全体を止めてしまっていることに僕らは気がついた。
僕は慌ててクレーンを動かした。
「二人で生きて帰ろう」
「アル……そうね」
「もちろん、街の人達に逃げてもらうのも大事だ、だからまずはそのために戦うよ……。そのためにいつも中佐について回っている、あの副官を懐柔するのがいいかもしれない」
「あなたね……」
「何?」
「あなた長生きするわ、間違いなく」
そして僕は今日何度目かのベルタのため息を聞いたのだった。




