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街角の首なし騎士  作者: 霧江
第二章 燃える街並み
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第10話:荒廃


 ダンが居なくなってから、僕らは森を抜けて、途中から街道を南下して中佐が拠点を置いているという街へ撤退し、合流することになった。


 あの時を境に、シャーリーの顔からは表情が消えてしまった。最低限の会話すら成り立たせるのが困難なくらい、僕らは暗い空気に支配されていた。

 そんな中で、ベルタはなんとか三人の仲が崩壊しないように勇気づけてくれていた。


「あと二キロで街につくわ。少なくとも新しい命令は貰えるわね」

「でも、またどんな無茶な事をさせられるか」

「街の部隊と合流すれば、少なくとも三人だけで戦う事態は避けられる」

 

 黄色や白色を基調とした石造りの家屋が通りに寄り添うように立ち並んでいる。教会の尖塔が見える緩やかな丘の向こう側には、小川が流れていた。


 ついこのあいだまでは、どこにでもありそうな小さな田舎街だったのだろう。

 しかしよく見ると、外周の家と家の間は瓦礫で塞がれていびつな城壁をなし、芝生が綺麗だったはずの庭は、掘り返され塹壕が伸びていた。


 街道に続く通りには横倒しになったトラクターや荷馬車が、バリケードとして放置されている。


 僕らが着いたとき、その街はもう街と言えるかどうかも分からなくなっていた。


「エスト大尉を探そう。この街にいるはずだ」

「そうね、彼には早急に指揮をとってもらわないと」

 

 広大な農地を抜けると、戦車と装甲車が道を塞ぐように止められていてた。

 その主砲は街道のこちら側に向けられている。

 

その手前で、警察大隊の腕章をつけた兵士に呼び止められた。

「止まれ!! どこの部隊だ」


 兵士は五十メートル手前で首なしを停車させ、僕らに叫んでいた。

「工務学校生徒隊だ」

「確認する……」


 兵士は装甲車の中に居た無線手らしき仲間に話しかけ、数分やり取りをしていた。


「身元が確認できた、通っていいぞ。中佐のもとへ出頭しろ」

 兵士が合図すると戦車が黒煙を噴き上げながら、道をあけた。

 通り過ぎようとした時、別の兵士に呼び止められた。


「おい、敵はどうなった」


「来ますよ、僕らの後ろからね」



 街の通りに入ると戦闘への備えがより鮮明に見て取れた。

 街はもはや牧歌的魅力を失っていた。木造家屋は防火対策で取り壊され、石やコンクリートで作られた建物は、無数の穴が銃眼として空けられていた。

 商店街はその面影を無くし、シャッターの奥に対戦車砲が巧妙な偽装をもって隠匿されていた。

 それ以外の場所でも、田舎街を最後の戦いに備えたにわか造りの砦とするべく、要所要所で破壊が行われていた。

 

「この街も決戦仕様ってわけか」

「無理もないわ。街の南にかかっている橋は街道を貫く重要な拠点になっているみたい」


 地図で教えられた建物には警察署と記載されていた。

 中佐は街の警察署を司令部として接収したらしい。


 三階建ての無骨な建物で、敷地内の車止めの前では警察官と前の戦争で戦った老人たちが隊列をなして行進をしていた。

 もう二度と手に執ることはなかったはずの、旧式の小銃を手にして困惑しているようだった。

 玄関の天井を支える四本の石柱が僕を出迎えた。

 最上階の大部屋に通されるとタバコを手にした中佐が出迎えた。

 彼は僕とシャーリーを見るなり、怪訝そうな表情を浮かべた。


「四人だったと記憶していたのだが?」

 警察署についた時、シャーリーは精神的に不安定で、移動中も嗚咽をもらしたり、断片的な言葉を発したりして、何を起こすかわからないような状態だった。

 そこでシャーリーにはベルタを付き添わせ、首なしの補給と再整備をお願いしていた。

「色々あったので」

「まあいいだろう。敵を足止めしたそうだな」

 自分から聞いたわりに、中佐は居なくなった人間のことなどあまり気には止めていないようだった。

「時間は稼ぎましたが、結果的に敵の侵入を許してしまいました」

「あの首のない機動兵器だけで戦った割には、なかなかの活躍だ」

 彼は短くなったタバコをもみ消す。


「この街はどこまで持つと思うか?」

「敵の兵力は最低でも三個大隊はありました。この街の兵員の状況を見ても、半日は持たないでしょう」

「順当な推測だな。まあ、数は揃えるさ」

「援軍があるのですか?」

「街には元々の人間がいるじゃないか?」 


 この男は正気なのか? 前の戦争から続く徴兵年齢の段階的な引き上げで、どこの街も住民の七割は子供と老人か病人だって言うのに。


「住民を避難させないのですか?」


「国家の非常時に国民が立ち上がらなくてどうする? 我が国の建国の経緯を考えても、民兵の編成は常識はずれではないと思うが?」

「ですが、あまりに戦力差が……」

 我々の祖先が独立を賭けて闘った時と、現在では明らかに戦い方が違う。ただ人間を集めて武器を配ればいいわけではないのに。


「もっとも、我々としては街の連中より君らに期待してるがね――」

 中佐は二本目のタバコに火をつけて、ゆっくりと紫煙を吐き出した。


「そんな議論をする時間すらないのが、我々の現実だ」

 


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