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異世界チーレム勇者はゼロ歳児!?  作者: まさな
序章 赤ちゃんリプレイ
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第五話 家庭教師

 エリオお兄様の協力により俺は魔法入門書を手に入れ、行動範囲が一気に広がった。

 さっそく家の中をエリオと一緒に見て回った。

 初めての探検だ。

 

 だが、めぼしい発見は無かった。

 それどころか、うちはかなり狭い事が分かってしまった。

 平屋建て6LDK。

 現代日本であれば充分な広さかも知れないが、うちは領主だからな?

 この家にはグレン、サラ、エリオット、俺、それに住み込みメイドのリズとベリンダがいるが――六人で住むとなると手狭(てぜま)だ。

 

 男爵は下っ端貴族だと知ってはいたが、思った以上にヴィルヘルム領はしょぼいド田舎のようだ。

 俺の先天スキル【常識 Lv3】の知識では、貴族は二階建て以上が普通で、伯爵以上はたいてい城に住んでいる。

 つまり平均より下ってこと。


 地味にへこんだので家の外の探検はまた今度にした。

 エリオもほっとしたようだった。俺が外に出て何かあれば、鬼母神サラが黙っちゃあいないだろうからな。


 魔法書も思ったよりも少なかった。


 この家にある魔法書は全部でたった三冊。

 うち一冊は最初にエリオが持って来てくれた入門書で、初級魔法がいくつか記載されていた。

 もう一冊は入門書と言っても聖職者の心得という感じの本で、ヒールやキュアをすでに会得している俺には不満の残る内容だった。

 最後の一冊は魔法研究の考察で、異なる魔法文字(ルーン)やアレンジ方法が記されているようだった。目次だけ通し読みしたが、全部を読む時間は無かったので後回しにする。



 さて、魔法だ。


 魔法とはこの世界を普遍的に満たしている魔素(マナ)を使って、様々な奇跡を起こすことが可能だ。

 マナを操作するためには呪文や魔法陣と言った術式を使う。

 呪文の方が手早く使えるので、大抵の魔法使いは呪文を使う。何か大がかりな儀式や特殊な魔法だと魔法陣となるが。

 呪文はさらに、詠唱と無詠唱の二通りの発動方法がある。

 魔法文字(ルーン)を詠み上げるだけではダメで、その魔法文字の意味をきちんと理解し、個々の呪文の概念をイメージしなくてはいけない。


 また、へその少し下側、丹田の辺りに一度魔力を集中させ、体を循環させる必要もある。

 この過程で、金属鎧などを身につけていると魔力の通りが阻害されて、呪文が唱えられない事がある。

 だから、この世界においては魔術士の装備はローブと相場が決まっている。

 別に呪文を使わなきゃ、鋼の鎧を着てても良いけどね。



『――というわけだ。分かった? 兄さん』


「な、何となく…」


 ま、四歳児には少し難しい説明だったな。

 それは良いとして念話(チャット)の呪文を発明したので、意思疎通は随分と楽になった。

 この呪文は特定の相手と心の声で会話する事が可能となる。一分につき、MPを一ポイント消費。有効射程はまだ調べていないが、そんなに広くはなさそう。

 ちなみにこの呪文は魔法書には載っていなかった。

 俺のオリジナル呪文である。


 魔法研究の書の目次だけを読んで内容をおおむね理解し、さらにオリジナルの呪文を編み出すなんて天才だろ?



『兄さんは火属性の加護をもらってるんだったね?』


「うん、ママが言ってた」


『じゃ、最初はファイアの呪文だ』


 念のため、水を用意しておくか。


『リズ、空の桶を部屋に持ってくるように』


 念話(チャット)の有効距離もついでに確かめるべく、部屋の外にいるメイドのリズに向かって呪文で話しかけてみた。


「ひゃあああ! げ、幻聴が、幻聴が聞こえてきましたぁ!」


 リズの慌てた叫びと共に、ガッシャーンと何かを床に落として割る音。やっちまったなぁ。


『リズ、落ち着け。これは俺の、レイの魔法だよ』


『ああ、レイ様の魔法ですか、ふう』


 何でこの世界の奴って、魔法と言うだけですぐ納得するのかね? 普通、零歳児が流暢に喋ってたら、それだけで怖えと思うが。まあいい。


「リズ、どうしたの? 怪我はない?」


 エリオが心配した。


「大丈夫ですー。花瓶を割っちゃっただけで。とほほ……後でベリンダさんに怒られますぅ」


 基本的にリズはおっちょこちょいな印象だし、ま、怪しまれることは無いだろう。

 リズがこの事実をバラしても、幻聴で片付けられること請け合いだ。もう一人のメイドのベリンダは頭が固い感じだからな。


『兄さん、ベリンダにあまり叱らないように言っておいて』


「うん、そうだね」


 俺とエリオはニッコリ笑い合った。

 


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ただいまー。二人とも良い子にしてたかしら?」


 鬼母サラが帰って来た。


「うん!」


 エリオは素直に返事をした。

 俺は、つーん。

 本当はそっぽを向きたいが、俺の頭部は魔法でも使わない限り動かしにくいので、仏頂面で対応。

 俺が念力(ムーブ)で動き回れるのはママには絶対内緒だ。


「あらあら、レイには嫌われちゃったかしらね。ごめんね、レイ」


 謝るくらいなら、手加減しろと。魔法書を持って来いと。呪文を教えろと。


「はーい、よしよし、機嫌直してね」


 だが、こうしてベッドから抱きかかえられて頬ずりされると、何とも言えない良い気分になってくる。

 ああん……く、悔しいけど気持ちいい。ダメ、体が勝手に反応しちゃう! 赤ん坊のこの体が憎い…! も、もっと!


「あーうー、キャッキャッ」


 と、俺がヘブン状態になっていると、急に不快感、嫌な視線を感じた。



「ほう、これはなかなかの魔力量ですね」


 若い男の声。

 誰だ? 父親のグレンとは明らかに違う喋り方だし、声だって間違えるはずもない。

 どこかねっとりとした、嫌な感じの声だ。


「ママ、この人、誰?」


 エリオも少し警戒した声で聞く。


「ああ、紹介しないとね。こちらはブラン先生。あなたとレイの魔法を見てもらおうと思って。先生は風と光と火の三つも使える凄い先生なのよ」


 サラが言うが、けっ、三属性程度で凄いとか。俺は七つ全ての属性の適性持ちだぜ?

 それに、家庭教師か……新しい魔法を教えてもらえるのは嬉しいが、知らない奴がどんどん来るのは俺は好きじゃ無いんだよな……人見知りだし。


 しかも、今、コイツ、俺の魔力量を一瞬で測定しやがった。ステータス系の無詠唱呪文か、鑑定スキル持ちのはずだ。

 鑑定スキルだったら、かなりヤバい気がする。

 俺が七属性持ちだとバレたら、勇者だの聖者だのと騒がれて、神殿でスパルタ教育が始まってしまいそうだ。


「へえ、三つも……あっ、初めましてブラン先生」


 感心していたエリオが挨拶する。


「ああ、こちらこそ初めまして、エリオット君。しかし、君は四歳と聞きましたが、いやいや驚きました。実に礼儀正しいですね。結構なことです。お母様の教育がよろしいのか、これがヴィルヘルムの血筋なのか」


 けっ、いきなりゴマすりか。驚いたと言ってるが、ブランは全然驚いた様子でも無いしな。こういう良く喋る奴は俺は大嫌いだ。


「うふふ、嫌ですわ、先生、お世辞がお上手ですこと」


 ママンもよそ行きの言葉になってるし。

 どこから連れてきたのか知らないが、大丈夫かなぁ。


「ああ、そうだ、レイ、あなたもご挨拶しなさい」


 そう言ってサラが俺の体を少し起こしてブランの方に向けた。

 ようやくブランの姿が見えたが、こいつ、エルフか。

 耳が普通の人間の倍はあるし、尖っているから間違い無いだろう。俺の【常識 Lv3】の知識と特徴が一致する。

 ブランはやせ気味の男で、短い茶髪だ。エルフは金髪や銀髪が多いはずだが…。少しくぼんだ目は賢そうには見えるが、どこか卑屈な印象を受ける。

 お世辞にも美形とは言いがたい。これもエルフの一般的特徴と外れてるぞ。


 …怪しい。

 ここは鑑定だな。



Lv 39 リヒター HP 227 MP 722



 おい、いきなり偽名かよ、ブラン先生よぉ。


 俺はさらに名前を鑑定する。


 む、失敗した?!

 詳細が見えない。



「レイ?」


 サラが疑問に思ったようだ。

 ここは念話(チャット)の情報漏洩なんて気にしてる場合じゃ無いな。



『ママ、こいつ偽名を使ってるよ。超怪しいよ。気を付けて』


「えっ!」


「どうかされましたか?」


「あ、いえ」『……どういうこと? これ、あなたの魔法なの、レイ』


 ママンは驚くには驚いたが、リズと違ってすぐに対応してくるなぁ。手強い。

 だが、今は目の前のヤバいエルフ(仮)が先だ。

 魔族の可能性もあるな。


『そうだよ。念話(チャット)の呪文。それより、早くコイツを追い出してよ』


『その前に、偽名って、どうして名前が分かったの?』


『……スキルで見た。そいつはリヒターが本名だよ』


 鑑定はレアスキルなので、具体的なスキル名は伏せておく。


「ああ、ふふっ、そういうこと。ブラン先生、この子にフルネームで自己紹介をお願いできますか」


「ああ、やぁ、私としたことが、これは失礼。私はエルフのリヒター=ブランと申します。初めまして」


 ……ああ、なんだ、名字とファーストネームだったか。


「ほら、レイ。これで分かったでしょ? ふふ、この子ったら、あなたの名字と名前を偽名と間違えたみたいで」


「ああ、なるほど。今し方、ステータスを見られた感じはしたのですよ。二度目はつい抵抗(レジスト)してしまいましたが」


 ばつが悪いなぁ。


「ほら、レイ、ご挨拶」


「はじめまちて」


『そうじゃないでしょ。念話(チャット)の呪文でご挨拶しなさい』


『ええ? それはちょっと。ママ、あまり僕の能力はおおっぴらにしない方が良いよ』


『どうして?』


『それは……騒ぎになると思うから』


「そうね。でも、この先生は大丈夫よ。神殿とは距離を――あんまり仲が良くない先生なの」


 ふむ、この様子だと、サラは勇者認定の問題もしっかり考えてくれている様子。

 とは言え、持ち札をこのエルフに晒すのは気が進まないな。


『それでもヤダ』


 俺は拒否した。

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