第一話 アビリティ
本文の『』で囲まれたシステムメッセージが長めですが、そこは適当に流し読み推奨です。
神様に提示された異世界コンティニューの話。
騙されてるんじゃないのか、という気もするのだが、話を聞くだけならタダだ。
俺は一文無しだし、金を取られる心配も無い。
「うむ、じゃが、説明している時間も限られておる。天賦の才を先に選ぶがいいぞ」
神様が言う。
「それって具体的に、どういう才能なんだ?」
俺は気になったので選ぶ前にそれを聞いた。中身も確認せずに相手の言うことを信用する奴は詐欺師のカモだからな。
「うむ、天賦の才とは、文字通りに持って生まれた才能じゃな。例えば三つ星の剣の才能なら、産まれながらにして達人の剣士の能力が約束される。鍛え上げれば国に一人、百年に一人というレベルの剣聖になることも可能じゃ」
ほう。三つ星があるということは、【剣の才 ★★★】こんな感じで、星一つの弱い【剣の才 ★】もあるんだろうな。ただ――
「でもそれ、どうせ厳しい修行がいるんだろ? 面倒臭え。まあ、努力無しで達人レベルなら、悪くない」
「才能があれば同じ努力でも効率がぐんと良くなる上に、成長が目に見えるからやっていても楽しいと思うがの。ま、お前の欲しい才能を選ぶが良かろう」
こっちで種類を選ばせてくれるようだ。それは嬉しいが、あんまり役に立たない才能を選んでも後悔しそうだな。どうせ選ばなかった他の才能は伸ばしにくいんだろうし。いや……?
「ジジイ、物は相談だ。才能もたくさん付けろ」
どうせなら全部、どーんと。
「やれやれ、少しは相手に敬意を払うということをせんか。それじゃから上手く行くものも上手く行かなくなるのじゃぞ」
仕方ねえだろ、コミュ障なんだから。だが、コイツが速攻で断らなかったということは交渉次第か?
「じゃ、まず交渉の才能をよこせよ。いや、魅力……カリスマ……とにかく、その辺だ!」
「よかろう。まずはそれをくれてやる」
神様がうなずくと、突然、俺の目の前に半透明のウインドウが浮かび上がった。
ウインドウの背景は黒地で、大きさは二十三インチのモニタくらい。白い文字のメッセージがずらずらと表示されていく。
『【カリスマ ★★★】の[アビリティ]を入手しました。魅力の基本値が常に10を下回らないように底上げされます』
『【カリスマ】の才能取得により【魅了 Lv5】の[スキル]を入手しました』
『条件を満たしたため、【交渉人】、【輪の中心】の二つの[称号]を得ました』
『【交渉人】の称号取得により【話し合う Lv3】【説得 Lv3】【敬語 Lv3】【押しの強さ Lv3】【お世辞 Lv3】の[スキル]を入手しました』
『【輪の中心】の称号取得により【世間話 Lv1】【相づち Lv1】【冗談 Lv1】【人の話を聞く Lv1】【相手の目を見る Lv1】の[スキル]を入手しました』
『[創造主の加護]により、スキル【話し合う Lv3】が【話し合う Lv5】にレベルアップしました。人間の成長限界に達しています。これ以上はレベルが上がりません』
『スキル【話し合う】を極めたため【タフ・ネゴシエーター】の[称号]を得ました。【交渉人】が上位称号【タフ・ネゴシエーター】に統合されました』
『新たな称号取得により【不屈の精神 Lv3】【脅迫 Lv3】【泣き落とし Lv3】【おだてる Lv3】【なだめる Lv3】【厚かましさ Lv3】【ウィン・ウィン Lv3】【椅子を蹴る Lv3】の[スキル]を入手しました』
『スキル【押しの強さ】が上位スキル【厚かましさ Lv3】に統合されました。【お世辞】が上位スキル【おだてる Lv3】に統合されました』
『スキル【話し合う Lv5】が【交渉 Lv1】に進化しました』
『[創造主の加護]により、【交渉 Lv1】が【交渉 Lv3】にレベルアップしました』
『条件を満たしたため、【調停者】の[称号]を得ました』
『【調停者】の称号取得により【鶴の一声 Lv1】【落としどころ Lv1】の[スキル]を入手しました』
「ん? 何か変なメッセージが出てきましたけど、これはいったい何でしょうか?」
俺は質問した。特に意識してなかったが、前よりは丁寧な言葉が使えた。
「それはこの世界のコトワリじゃ。システムと言った方が分かりやすいかの?」
「ああ、なるほど」
ゲーム系のシステムか。
見た目が古代ギリシャっぽいのになんで?
……というツッコミは入れない方がいいだろう。
「他に欲しいモノを言ってみるがよかろう」
「ええと…」
次は何の才能が必要か?
全部というのは論外だ。
それは無茶だし、ダメと言われる可能性が高くなる。もし全部がOKなら最初から与えてくれるハズだからな。
考えればすぐ分かることだった。
しかし…どれを選んだらいいやら。
パッと思いつくのは、【最強】【不老不死】【大金持ち】【皇帝】【大魔導師】【神】【復活】だが……。
【最強】というのは使う技と言うよりも称号になるだろう。
ひとまず、言ってみることにする。
「では、【最強】の称号を頂ければと」
もらえたら無敵、オレ様TUEEEができる。儲けものだ。
「くれてやるのは簡単じゃが、よく考えた方が良いと思うぞ?」
「え? なぜですか?」
「なぜなら最強というのは世界に一人、国に一人、村に一人、ランクは違えど、たった一人しか許されぬ[固有な称号]じゃからな。そして、それはずっと最後まで無敵という意味では無い」
「あっ、そうか…」
俺もすぐに気付いた。最強という称号は、挑戦者に負けたら簡単に奪われてしまう。
先ほどのシステムだと色々なスキルをもらえるだろうが、神様の言う通り、もう少しよく考えた方が良いだろう。
【無敵】もたぶん、称号だろうからダメだな。誰かに負けた時点で消えるだけの称号。仮にそんなスキルが存在していたとしても、戦闘ができないとか、思い通りにならない気がする。
【不老不死】も永遠に死なないって、たぶん、俺は飽きるよな。人間以外の肉体になっても困るし。不老なら欲しいが。
【大金持ち】も金を使い切ってしまえば終わり。金儲けのスキルを持っていた方がより有効だろう。
【皇帝】……暗殺されたら嫌だ。
【大魔導師】これは、有りだと思う。だが、その前に。
「この世界ってのは魔法は有りでしょうか?」
俺は聞いた。
魔法の使えない世界で【大魔導師】や【魔法使い】の称号ってホント意味ないからな。
「有りじゃ。便利じゃし、よし、七つ全ての属性を与えてやるとしよう」
神様はそう言うと杖を振った。
『[創造主の加護]により、地、風、火、水、光、闇、無の魔法属性が解放されました』
『条件を満たしたため、【万能の魔導師】の称号を得ました』
『【万能の魔導師】の称号により、【魔術のコツ Lv5】【魔法知識 Lv5】【魔力感知 Lv5】の[スキル]を得ました。最大MPに100ポイントのボーナスが永久に付与されます」
「おお」
全属性と来たか。
これで魔法は使いたい放題だろう。やったぜ!
次は、暴走トラックみたいなBADエンドで死んだときのための対策だが……。
【復活】はあると安心だけど、死ぬ時に強烈に痛そうだからマズい。
要は死を回避できればいいのだから【予知】能力の方がずっと効率的でスマートだ。痛くないし。
「予知……いや……それも微妙かな」
推理小説の結末が分かっていたら面白みが半減だ。物語が読めないのはつまらない。
そこで俺は少し考えて言う。
「悪い状況だけを察知するスキルは有りますか?」
「それなら警報が鳴る【虫の知らせ】が近いの。それに優れた直感の【第六感】とパッシブスキルの【精霊の予言】を組み合わせるのがベストじゃ。【予見】の方が正確性が増すが、人間が使いこなすのは難しいからの」
「ではそれをお願いします」
「よかろう」
『スキル【虫の知らせ Lv5】【第六感 Lv5】【精霊の予言 Lv1】を入手しました』
予言のレベルが低いが、人間の制約か、高すぎても色々と面倒があるのだろう。この神様はどうも俺に親切だから、細かいところはお任せで行ってみようと思う。
「次は、健康な体をお願いします。もちろん美形で」
とにかく言うだけ言ってもらえるものはもらっておく。厚かましいと思われようが、人生に関わることで妥協しちゃ駄目だ。ここが頑張りどころだと俺は感じている。適当に流されていては駄目だったんだ。
今から本気出す。
「うむ、病気でいきなり死なれても後味が悪いからの。よかろう、簡単には死なないような肉体にしてやろう」
「あ、もちろん、人間の範囲内でお願いしますよ。ムキムキもパスで」
変に悪目立ちしても面倒そうだもの。
「分かっておる。二つ星レベルのスキル、【頑健】を与えてやろう。【健康】系の【丈夫】のさらに上位のスキルじゃから、少々の事ではやられんし、病気になることはまずあるまい。見た目も大丈夫じゃ」
ありがたい。[称号]だと色々[スキル]がセットでくっついてくるようだが、病気になったり状況が変化すると称号は消えてしまう。それなら最初から必要な[スキル]を単体で持っている方が長く保つだろう。
『【頑健 Lv5】【美形 Lv5】の[スキル]を入手しました』
『【精霊の予言 Lv1】が発動。ヒントが与えられました。[称号]【美丈夫】の条件三つのうち二つを満たしています。年齢が足りません』
「んん?」
さっそくスキルの【精霊の予言】が役立ってヒントをくれたが、美丈夫って何歳からなんだ?
「気にしなくて良いぞ。今のお前の肉体は消えておるから、年齢が存在しておらんのじゃ。転生した後で歳を重ねればいずれ取れるじゃろう」
「そうですか」
ま、そこまで欲しいと言う感じの称号でもなし、割とどうでも良い。
次は頭だな。
「天才の頭脳にしてもらえますか」
物覚えが悪いより、覚えが早いほうがいい。勉強時間が短ければ、それだけ遊べるからな。
「では、【聡慧】のアビリティを与えようぞ。それで必要なスキルは手に入るじゃろう。じゃが『智者の一失』という言葉も有るとおり、間違いを犯さぬわけではないから驕るでないぞ」
「ええ」
『【聡慧 ★★★】の[アビリティ]を入手しました。知力の基本値が常に10を下回らないように底上げされます』
『【聡慧】の才能取得により【一を聞いて十を知る Lv5】の[スキル]を入手しました』
『条件を満たしたため、【天才】、【物知り博士】の二つの[称号]を得ました』
『【天才】の称号取得により【記憶 Lv3】【暗算 Lv3】【思考 Lv3】の[スキル]を入手しました』
『【物知り博士】の称号取得により【暗記 Lv3】【常識 Lv3】【雑学 Lv3】の[スキル]を入手しました』
『スキル【記憶 Lv3】が上位スキル【暗記 Lv3】に統合されました』
『[創造主の加護]によりスキル【思考 Lv3】が【思考 Lv5】にレベルアップしました。人間の成長限界に達しています。これ以上はレベルが上がりません』
『スキル【思考 Lv5】が【ひらめき Lv1】に進化しました』
『スキル【思考】を極めたため【哲学者】の[称号]を得ました』
『称号により【屁理屈 Lv5】の[スキル]を入手しました』
へりくつはいらねー。俺はもう素で持ってるし。
『条件を満たしたため、【賢者】の[称号]を得ました。称号ボーナスとしてMP消費が常に20%軽減されます』
さて、ここまでで
・危険を察知する能力
・魔法
・強靱な肉体
・明晰な頭脳
を手に入れている。あとは器用さや素早さだろうな。
「シーフ系の技能を下さい」
「ふむ…」
すぐにくれるかと思ったが、ジジイはなぜか考え込んだ。