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異世界チーレム勇者はゼロ歳児!?  作者: まさな
序章 赤ちゃんリプレイ
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プロローグ DTサヨナラ券

一話平均3千字~4千字くらい、不定期でのんびり行こうかなと思っています。

よろしくお願いします。

 俺は、トラックに()かれる瞬間を、今でもハッキリと覚えている。

 

 それは真夏の、クソ暑い日の出来事だった。


 元々、引きこもりだった俺は毎日ゲームで遊んでいた。

 できることが、それしか無かったからだ。

 別に誰かに他の事を禁止されていたわけではない。

 出るなと言われたわけでもない。

 それでも「外に出ろ」「働け」――そんな言葉を投げかけて通用するのは、当たり前の事を当たり前にできている奴、普通以上(・・)の奴だけだ。

 世の中には当たり前の事すらできない奴がいる。


 『落ちこぼれ』ってヤツだが、認めたくはないな。

 

 群れて弱いモノいじめが大好きな奴ら――金髪の不良共と一緒にされるのは不愉快だ。

 無能ってわけでもないんだ。

 だってネットの掲示板で論破させたら俺は無双だぜ?


 ただ、ほんのちょっと才能がピーキーだった……ってだけの話。


 俺が轢かれる一ヶ月前、電話が何度も鳴ったが居留守のスキルを使った。

 そうこうしていると警察官と弁護士と管財人を名乗る奴がやってきて、俺の両親が交通事故で死んだと告げた。

 親が死んだのはせいせい(・・・・)した。

 うるさいだけだったし。

 アル中と神経症の組み合わせで子供の頃は虐待もされていた。

 自業自得だ。



 だが、俺の身には厄介な問題が二つ生じていた。


 ひとつは、食事や生活費の面倒を見てくれる者がいなくなってしまった事。


 もう一つは両親の交通事故の過失はこちら側にあり、銀行口座と家は『差し押さえ』だそうだ。

 なんだそれ?


 弁護士が説明した。

 普通は保険で賠償金は支払われるはずだった。

 が、引き落としができずに、保険は一部無効となっていた。

 ろくでもねえ親だな、払っとけよ馬鹿が、と思った。

 

 が、保険が支払われなかったのは俺がソシャゲのガチャで五十万円ほど使い込んだからだ。

 

 親が文句を言っていたが、保険なんて事故らなきゃ問題無いし、来月から払えば良いだろ?

 そう思っていた。


 そしてこの事故だ。

 運が悪かったとしか言いようがない。

 しかも、よりによって有名私立小学校の行列に車が突っ込んだらしい。

 死傷者多数、賠償金は総額で二十二億――。


 正直笑いが出た。

 そのうちの何人かは俺と同じように引きこもって将来の収支はマイナスになるんじゃないかと思ったが、無職の俺が言ったところで反感を買うだけだ。



 とにかく状況は、これ以上無いくらいに最悪だ。


 おまけに俺は葬儀の後で家を追い出された。

 親戚連中は俺をろくでなしと大きな声で罵っていたが、要は俺の面倒を見たくなかっただけだ。

 だって保証人でも無けりゃ親戚だろうと金を払う義務は無いんだぜ?

 マイナス分が多けりゃ『相続放棄』で親の借金は背負わなくて良いしな。


 かくして俺は外の世界へ転がり出た。

 ショルダーバッグを一つ肩に担いで。荷物はたったそれだけ。

 バッグの中身は、外付けハードディスクと、着替えと、ノートパソコンだ。

 ハードディスクの中には色々、ヤバいもんも入ってるし。

 置いて行くわけには行かなかった。


 さて、ひとまず、住むところを探さなくっちゃな。

 敷金礼金無しで家賃一万円くらいの、どっかねえかな? エアコン付きで。あと風呂とトイレは共同やらユニットバスじゃない方で。


 しかし、十年ぶりの外は暑かった。

 マジで死ぬと思った。


 道路のアスファルトが焼けて下の方の空気が揺らいでる。

 地球温暖化ってレベルじゃねーぞ? 地球オーブン化だ。

 もう一歩も歩きたくないが、ここで立ち止まってたら確実に熱射病だ。


 俺の体がしぼんでしまいそうなほど盛大なため息をついた時、歩道を向こうから歩いてくる白いワンピースの女の子が目に入った。

 小学生くらいだが、可愛かった。

 もうすでに美少女だった。


 俺は何気ないフリをして彼女を盗み見た。じろじろ見たり声を掛ける勇気なんて無い。

 通り過ぎるまでチラ見するだけだ。

 キモいと言われようがそれだけなら犯罪じゃ無いからな。

 もちろん脳内フォルダに保存して、あとでじっくりねっとり隅々まで私的に最大限利用させてもらうけど。


 チラ見していると、少女の後方に、蛇行しながら大きなトラックがこちらに近づいてくるのが見えた。


 酔っ払いか? と思ったが、よく分からない。逆光で運転席の状態は見えなかった。


 嫌な予感がしたが、そのトラックはすーっと引き寄せられるように歩道に乗り上げてきた!

 おいおい。

 そっちにはワンピースの女の子がいるんだぞ?


 ぶつかる――!


 それは、とっさだった。


 助けたお礼に良い関係になったらどうしよう? 小学生との恋愛は刑務所行きになるよね? 先方の保護者も絶対に同意しないだろうし……なんて想像してる余裕などあるわけがない。

 ただ危ないと思って、俺は女の子に駆け寄ると彼女の体を思い切り歩道の外へ突き飛ばした。それだけだ。

 ギリギリで何とか間に合い、少女が助かりそうなので俺はほっとした。


 だが、間を置かずに全身に強い衝撃があり――俺は意識を失った。




 そしてどうやら、俺は異世界転生ってヤツに巻き込まれたらしい。

 白い(もや)だらけの空間で、神様に出会っちまった。


 そいつは老人で、古代ギリシャのキトンだっけか、そんなような白い布を片側だけ肩を出して着込んでいる。

 右手には樫の杖を持ち、長く白いあご髭。

 見ただけで「ああ神様だ――」と分かった。そこはもう理屈ではない。不思議な威圧感がある。見た目は等身大なのに、なぜか何百倍も大きく感じる。

 神様は俺をじっと見つめた後、口を動かした。 


野原(のばら)礼一(れいいち)よ、お前はまれに見る人間のクズじゃ」


 開口一番、そう言いやがった。

 こっちは(さすがに神様ならここは平伏して敬語で話さないとマズいよな?)と思い始めていたところだったのに、俺の気が変わった。キレた。


「うっせーぞクソ爺! 勝手に決めつけんな!」


「ふふ、ワシ相手に威勢が良いの。じゃが、お前の一生は見させてもらったぞ? どう見てもクズじゃ」


「チッ」


 だからどうした。ベテランニートにそんな口撃は効かねえぞ?


「お前の信仰する神のルールでは当然、地獄行きじゃったのじゃが、ちと手違いがあっての」


「手違い?」


 まさか、俺は死ぬ運命じゃなくて、間違いで殺されたなんて言うなよ?


「うむ、間違いと言えば間違いなのじゃが……。元々、お前は二ヶ月後に栄養失調で死ぬはずだった。飢えて苦しみ、労働の尊さと親のありがたみを知ってから死ぬ運命だったのじゃ」


「うぜぇ」


 そんなもん、死ぬ直前に気付いたとしても、無意味だろうが。


「無意味ではないぞ。じゃが、お前は少女の命を救った。自らの命も省みず、見返りも求めずに救った。たった一度ではあるが、極めて大きな善行だ。ゆえに向こう(・・・)の神と話し合って、お前にはこちらの世界でもう一度、生を与えようという話になった。早い話が人生やり直し(コンティニュー)じゃな。それにもう一つ理由がある」


「あん?」


 もう一つの理由だと?


「お前さんは親のせいで自分がそうなったと思っている部分があろう。それは正さねばならぬ」


「けっ、押しつけがましいな。だが断る、と言ったらどうする?」


「どうもせん。転生は決定事項じゃからな。その先で自殺するのもお前の勝手じゃ。ただ、教えておいてやるが、自殺の先には相応の地獄が待っておるでの」


 いちいち鼻につく野郎だ。クソ面白くも無い説教みたいな話をしやがって。


「じゃ、さっさと異世界に転生させろ。どうせ俺は長生きはしない。いや、できない(・・・・)と言った方が良いか」


 俺は言う。

 どういう世界かは知らないが、また引きこもりになれば、同じような運命だろう。

 やればできるだとか、可能性とか、努力とか、そんな綺麗事にはもううんざり(・・・・)なんだよ。

 ただしイケメンに限ってろよ!


「まあ、そうふてくされるな。生の喜びを知らねば、これまた意味が無いと言うもの。お前には『天賦てんぷの才』と『DTサヨナラ券』と『絶対モテる券』、もう一つおまけに『結婚できる券』をプレゼントじゃ」


「……マジか」


「マジじゃ」


 『DTサヨナラ券』には正直、心かれるものがある。俺は魔法使いのクラスチェンジ要件はとっくに満たしていたが、やっぱり地球じゃ魔法は使えなかったからな。

 「別に女とヤりたいわけじゃ無い」「惨事元(さんじげん)に興味は無い」と掲示板の中じゃさんざん言ってきたけど、ありゃ嘘だ。

 DTは捨てたくないんじゃなくて、捨てられない呪いのアイテムみたいなもんだ。チャンスが無いだけなんだ。


 『絶対モテる券』も、もらえるのなら欲しい。どういう風にモテるのかは知らないが、臭いとかキモいとか言われなければそれで充分だ。高望みはしない。


 『結婚できる券』の方は割とどうでもいい。結婚して幸せな生活ってのはブライダル業者のでっち上げた幻想、結婚は人生の墓場だ。そうに決まってる。

 鬼女(キジョ)の奴らは自分達は高級ランチで夫にはワンコイン、そういう悪魔のような種族なのだ。


「肉体も若返らせてやるから、十代のハチャメチャなセックスでも楽しむが良いぞ。フフフ」


 ニヤリと笑ったジジイは結構な好きもんのようだ。


「う、うるせえよ。……べ、別に俺は、愛のないセックスはいらないっつーか……」


 俺は気恥ずかしさに思わず目を下にそらして言う。そこら辺のケバいビッチをあてがわれても全然嬉しくないもんな。だいたい、俺の相手じゃ、ろくでもないのしか来ないんじゃないの?


「案ずるな。神の奇跡で、お前の理想の彼女とイチャイチャできるようにしてやるぞ。運命というヤツじゃ」


「理想か……いや、でもな……。俺の理想の嫁は、エルフに猫耳、ロリっ子だぞ?」


 それにどれか一つに絞れと言われても本当に困る。


「問題無い。そこはハーレム確定じゃ」


 目を細めて優しく微笑むジジイの片目がキラリと光った。


「ほう……詳しい話を聞かせてもらおうか」


 俺は、そのときにはもう真剣にジジイの話を聞く気になっていた。

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