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はじまりの物語  作者: fw×白湯
2/2

第一話 幸せな日常

どうもこんばんはfwです。


みなさまは暖かくお過ごし頂いているでしょうか。


私は風邪を引きました。


体調管理はしっかりしましょう。


今回は平和な感じです。


最後まで読んでいただけたら幸いです。

 桜も散り緑が増え始め、少しずつ暖かくなってきた今日この頃。大通りから少し外れた路地に沢山の薬草や膏薬が商品棚に並べられている店がある。それらに囲まれた中で一人の少年が本を読んでいた。齢は14、5くらいだろうか。本に熱中する幼さの残る横顔は時折、ふわりと店に舞い込む風を迷惑そうに顔をしかめ、無作為に伸びた髪を抑える。

 この少年の名は乙桐結翔(オトギリユイト)。彼の家は薬屋を営んでおり、もとより体の強くない(とはいえ、通常より少しばかり弱いだけであり、虚弱体質ではない)彼はよく店番と称しここにいる。


 しばらくし日が傾きを大きくして辺りを赤く染め始めるのを頃合いに、周囲が騒がしくなり始める。仕事が終わって帰り始めた会社員(サラリーマン)達や学校が終わり解放されたのだろうはしゃぐ子供達、路地は今日一番のにぎやかさを放ち始めていた。

 その中でも一段と騒がしく愛らしいものが近づいてくるのを見つけ、結翔はゆっくりと立ち上がる。

「兄ちゃん!!」

そして何の迷いもなく飛びついてくるそれを抱きしめ目を細める。

「おかえり、恭介」

「ん、ただいまぁ」

結翔の言葉にはにかみながら答えるそれは結翔とは5歳年の離れたたった一人の弟、恭介(キョウスケ)だ。結翔とは正反対の性格で明るく活発、朝から晩まで外を走り回っているような子供で、今は見るたびに新しい傷を作っており怪我の絶えない弟だが見ての通り兄っ子で暇さえあれば兄を追いかけている。(外へ遊びに出るようになったのも結翔が「俺の分まで外で遊んでおいで」と言われたのがはじまりである)

 しかし、それからというもの恭介は結翔にその日にあったことを事細かに言うようになった。兄としては嬉しいものだが、10歳にもなってこのままでもいいのかと思うようになったのは言うまでもない。


 「兄ちゃん、聞いてくれよ!」

だが、こんなにも可愛い弟が慕ってくれているのに悪い気がしないのは最早病気か...。結翔はこんなことを考えながら「聞くから落ち着いて話すんだぞ」と言って興奮覚めやらぬ様子の恭介の頭を撫でる。恭介も嬉しそうに頬を赤らめると話し始める。

「えっとね、今日なまたあいつら上級生のやたら偉そうなやつらが弱い者いじめしてたんだよ!だから俺、間に入って言ってやったんだよ。自分より弱い奴いじめてるなんてだっせぇって!そしたらな、あいつらいきなり殴りかかってきたんだ!」

本当に話したままなのだろう、いつも以上に汚れておりそこかしこに傷を作っている。大きな傷はなかったが痛々しい。結翔は泥と血で汚れた顔を薬湯で濡らした布で丁寧かつ優しく拭いて傷口に薬を塗ってやる。

「それは大変だったな。ほかに怪我してないか?」

「うん。どこも痛くないよ。ありがと。それでさ、みんなぶっ倒してやったんだよ!そしたらそいつらな、覚えてろ!って走って逃げたんだよ!物語の悪役みたいに!俺が英雄(ヒーロー)になったみたいで、すげぇ楽しかった!」

「そうだな、恭介は主人公でみんなを助ける英雄だ」

「ほんと!?」

兄としての結翔の心境はなかなか穏やかなものではなかったが、弱い者を守ったという健気な弟の行動を素直に褒めてやると恭介は嬉しそうにそのつぶらな瞳を輝かせる。

 この後にちゃんと怪我をしてきたことを戒めなければいけないのだがその気持ちはだいぶそがれた気がするが気にしない事にする。

「ああ。兄ちゃんがお前に嘘吐いた事、あったか?」

「ううん、ない」

「だろう?でもな、恭介。いくら英雄だろうと俺の弟に怪我をしてほしくない兄ちゃんの気持ちは分かるな?」

「うー...ごめんなさい」

「分かればよろしい」

 結翔が真面目な声色で言ってやると恭介は少しだけシュンとして謝る。そんな弟の頭をポンポンと撫でてやるとシュンとしたのが嘘だったように笑顔になる。可愛い。


「さ、もう店は閉めたから家へ帰ろう。もう暗いからそろそろ母さん達も心配するだろうし」

「うん!」

恭介は元気良く返事をすると結翔が店の鍵を持った方とは反対の手を握ってくる。この年になってくると反抗期やら思春期やらで兄を嫌いだすと聞き覚悟していたのだが、うちの弟にはそれがないらしい。

「これに安心しているあたり、やっぱ病気だよなあ」

「なんか言った?兄ちゃん」

「いや、何にも」

恭介は不思議そうに「変な兄ちゃん」と言うと前を向いて歩きだす。


 今日は少し帰る時間が遅れてしまい、辺りもだいぶ暗くなり居住区でも世間の帰りの時間とは少しずれている為、自然と人の気も少なくなる。店と家は完全に離れており遠くはないが近くもない。治安が良いとは決して言えないこの街に住んでいて帰りが遅くなるという事はそれだけで心配の種になるのだ。それだけでなく整備の行き届いていないこの道は結翔はともかくまだ年を10しか数えていない恭介の恐怖心を煽るのには十分すぎるものだった。

 そんな恭介を見て結翔は恭介に合わせながらも急ぎ足で家に帰った。



「「ただいまー」」

 ほぼ走って帰ってきたために二人とも額に汗を滲ませていた。

「おかえりー。って二人とも何かあったの?」

そんな二人を出迎えたのは母である晴子だけで二人の異変に気付き、その端正な顔をしかめる。

「何にもなかったよ。ただ、予想以上に暗くなっちゃって焦って帰ってきただけだよ。父さんは?」

結翔は軽く息を吐くと心配をかけないようにいつも通り普通に話す事を意識して口開く。恭介も刻々とうなずく。そんな二人を見て晴子はため息を吐くと口を開く。

「仕事が長引いてるみたい。患者さんの容態が急変したらしくて呼ばれたみたい」

「へえ」

結翔は聞いておきながら他人事のように返事をし二階の自室へ向かう。恭介もそれに続いて歩きだす。晴子もさほど気にしていない様子で「もうご飯出来てるからささっと着替えてきなさいね」と言ってリビングに戻って行った。


 服を着替えてからリビングへ向かうと先に着替え終わっていた恭介といつの間にか父である哲郎が帰ってきており恭介の話を聞いて笑っていた。

「父さん、おかえりなさい」

「ああ。ただいま」


 服を着替えてから部屋から出てリビングへ向かう。今日の夕飯はシチューらしい。一階からほっとするような良い匂いがする。リビングのドアを開けると先に着替え終わっていた恭介といつの間にか父である哲郎が帰ってきており先程の恭介の武勇伝を聞いて笑っていた。

「父さん、おかえりなさい」

「ああ。ただいま」

「あ、兄ちゃん。今日のご飯、シチューだって!」

「そうだな。母さん、なんか手伝う事ある?」

 盛り上がってる後ろでせっせと夕飯の支度をする晴子に問いかけると「ありがとう」と微笑み頭を撫でられる。結翔はなんともむず痒い感覚に襲われるが、されるがままでいる。そんな気持ちが伝わったのだろうか、晴子は微笑みながら、「ふふ。じゃあ、シチューみんなの分取り分けてくれないかしら」とこちらの顔を覗きこんだ。照れくささが最高潮に達してその視線から逃れるように、結翔は顔をそむけ、そそくさと手伝いに向かう。哲郎が「思春期かー?」と笑っていたので後で〆る事が結翔の中で確定した。

「分かった。恭介、テーブルの上片付けて」

「うん分かった!俺、シチュー多めがいい!」

そんな兄の心情は露も知らない恭介はついでとばかりにおねだりする。

「はいはい、分かった分かった」

恭介がはしゃぎながら片付け始めたのを確認すると、キッチンのグリルにかけてある鍋の火を消しミトンを着けた手で鍋の持ち手を握る。分厚い布を通しても伝わってくる熱は思っていたよりも熱かった。

「兄ちゃん!片付け終わったよ」

カウンターから恭介が身を乗り出して結翔に報告する。

「ありがとな、そっち持ってくからいきなり動くなよ。あと、危ないからあんまりカウンターから乗り出すなー」

「はーい...」

恭介は身を引っ込めながら返事をする。久しぶりの好物に気分が上がっているのだろう、いつもは気を付けてやらないようにしているのだが。そんなところも可愛いと思ってしまうあたり、もう末期なんだろう。頭を撫でてやりたい衝動を抑えて結翔は鍋を握る力を強めた。



 皿洗いが終わり部屋に戻ろうとした結翔と恭介を回覧板を眺めていた晴子が神妙な面持ちで呼び止める。

「どうしたの?」

「...お母さん、怒ってないから嘘を吐かないで答えてね」

珍しく晴子が変な事を言う。やはり帰りの時間についてのことだろうか。確かに遅くなってしまったがこんなことは特に珍しい事ではないはずだが...。結翔は恭介の方を見やるが恭介も首を捻っている。

 晴子はそんな空気を察したのだろう、少しだけほっとしたような、気が抜けたような顔をして口開く。

「たぶんないとは思うけど...今日、変な人に遭ったりしてない?」

「変な人?」

「そう。いつも路地にたむろっているような人たちじゃなくてなんとなく怪しげな人っていうか...」

「うーん...そんな人いなかったと思うけど?兄ちゃんはなんか見た?」

「ううん、見てない。こんなこと聞くってことは何かあったの?」

見かけていない事を伝えるとあからさまに安心して見せた晴子を気遣いながらも疑問をぶつける。

「ええ、大丈夫よ。ただ、今日きた回覧板でみて知ったんだけど最近子供を狙った人攫いが頻発しているらしいの。それで今日焦って帰ってきたでしょう?だからちょっと怖くなっちゃっただけなの」

「まじ?こっわ」

真っ先に反応したのは恭介だ。結翔も先程の夜道を思いだし、顔をしかめる。そんな二人の様子を見て、晴子は安心させるように口を開く。

「頻発っていってもそこまでではないのよ。あ、それでね、明日からしばらくの間恭介の学校、早帰りになるから覚えておいてね。あと結翔はそれに合わせていつもより早めにお店閉めて帰ってきてちょうだい。あと、出来る限り大人数でってこれは難しいか」

「うん。分かった」

「じゃあ、俺は恭介の帰ってくる時間に合わせて店閉めてそのまま家に帰ればいいんだよな?」

「ええ」

「分かった」

二人が返事をすると晴子は満足そうに微笑んだ。


「ねえねえ見て見て見て!新作の薬膳ケーキ作ってみたよ!前は苦かったから今回は果物を入れて見たよ...ん?どうしたの?」

人攫いの話も終わり3人で他愛のない話をしていたのだがどこに行っていたのか(恐らく実験室だろう)哲郎がところどころ焦げた緑色のどこからどう見ても怪しげなケーキを両手に持って入ってきた。このケーキは哲郎が普段考えている「誰でも美味しく取れる薬」を作ろうとした結果だ。

 まあ、なんとなく察してくれている人もいるだろうが、吃驚するほど激マズだ。

「げ、父ちゃんまた作ったのかよ」

「ああ!食後のデザートに丁度良いだろう?」

恭介が分かりやすく嫌がるが哲郎には全く伝わっておらず、「あと2つ持ってくるな」といそいそと出て行ったのである。

「仕方ないさ、諦めよう恭介」

「せっかくシチューだったのにいい...!」

往生際悪く恭介はリビングから逃げ出そうとしたが丁度ドアを開けようとしていた哲郎によって無事に捕獲された。


 その後の事はご想像にお任せするが、敢えて言うなら次の日結翔たちの舌は使い物にならなくなっていたとかなんとか。






≪補足と説明と何か≫

乙桐結翔(おとぎりゆいと)

15歳。ブラコン。運動が嫌いで身体があまり強くない。幼い頃から哲郎の書斎を漁り本を読んでいた為、薬学についてそれなりに知識がある。夢は特にないが、なんとなく薬師になるんだろうなと思ってる。手先はあまり器用ではなく、母に習って編み物をしようとした際には1時間と経たずに投げ出した。これで薬師になんてなれるのだろうか。ただ、運動センスはずば抜けて高く、喧嘩では負けなし。嫌い=苦手ではないんですよ?編み物系は壊滅的だがそれ以外は基本的に何でもこなして見せる天才型。最近の悩みは弟が可愛すぎる事。ブラコンですね。実は剣術を習っていた。その腕前は同じ道場に通っていた生徒たち(年上年下全部込み)を簡単に伸してしまうほど。引きこもり(?)を舐める事なかれ。


乙桐恭介(おとぎりきょうすけ)

10歳。ブラコン。お母さん似。元気で活発、そして良い子。作者の理想が詰まってますね。結翔が本好きというのもあり同年代と比べるとかなり賢い。でもなんだかんだ身体を動かす事が好きなようです。いつも着けているマフラーは結翔君からの誕プレ(手作りではありません)。天才感覚派の結翔に比べ、出来ない事が多いため頑張る次男坊。結翔が天才型ならこっちは秀才型。最近の悩みは兄ちゃんがかっこよすぎる事。ブラコンですね。


乙桐晴子(おとぎりはるこ)

28歳。うちの子可愛い。一見おっとりしているが無言の圧力が強い美人さん。いつも笑顔。怒ると怖い。編み物が得意で評判が良く、それを買うために隣街から来る人もいるとか。肝が据わっておりおしとやかに見えて実はおおざっぱだったりする。


乙桐哲郎(おとぎりてつろう)

32歳。うちの子可愛い。腕の良い薬剤師。おっとりしてる。今は薬師だが元々は大きな病院の医者として働いており、街では腕が良いと有名な医者だった。今でも人手が足りなかったり難しい手術を行ったりする場合は呼ばれたりする。味音痴料理音痴の破壊神(デストロイヤー)


・結翔たちの住む街

ササヅカ。路地が多く、入り組んだ地形に迷うものは少なくない。土地勘のない者は生きて出たくば一人で歩いてはいけないという話が出回るほどである。ただ身を隠すには最適である為、ガラの悪い者が多く治安は悪い。


・回覧板の話

人攫いの話。不穏ですね。働け警察。


・薬膳ケーキ

哲郎の作った激マズケーキ。この日以降、「殺人ケーキ」と呼ばれるようになり晴子によって一切の政策を禁止された伝説のケーキ。

白湯です。

第一話、投稿することが出来ました!(*´∀`*)

pixivからの改変版で、一度読んだ方も楽しめると思います。

まだまだの部分もありますが温かい目で見て頂けると幸いです( *・ω・)ノ

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