3話 夕暮れメモライザ
「織ちゃんみたいに冬の魔法少女なんじゃないかにゃ」
「あの時、氷が私に纏わり付いてたし、その可能性はあると思うけど
同じ魔法少女が居るとかアリなのかな?」
「織ちゃんはあの日からいなくなっちゃったから……
死んだらその能力は他の人に受け継がれるとか?」
あの日、愛子を助けた…と言っていいのだろうか
私も結構危なかった時に「変身」 この一言で辺り一面寒くなり
手から出てきた氷を操る様にして男達を突き刺していった
強いて言えば「氷の魔法少女」とでも名付けよう。
「でもなんであの時、魔法少女になれたんだろう」
「薫ちゃん言ってなかった?織ちゃんは感情が高ぶると
より一層冷たくなるって」
「確かに…泣いたり怒ったりするとあの子の周りが涼しくなってたし」
愛子は私を恩人と讃え、学校で浮いている私のそばにいてくれる唯一の親友
そんな愛子に私は過去の友達、織の事を話して引っ越してきた理由も話した。
「やっぱり織ちゃんは薫ちゃんの事護ってくれてるんだよ」
「そう、なのかな…」
魔法少女の定義は決まって一つ
「感情が高ぶると何かが起こる」
喜び 怒り 悲しみ 楽しさ 何か一つでも一定値を超えてはならない。
感情を殺して生活しなければならないのだ。
楽しくなると空を飛ぶ者もいれば 悲しむと目の前のものを無意識に破壊し
怒ると人をも殺す力を持つ者もいる。
「薫ちゃんは『氷を操れる魔法少女』なのかもしれないねぇ」
「雪だらけの日本でそんな能力、一つも役に立たないよ」
役に立たない、つまり殺されるという事。
私達はそれを恐れ、隠して生活している。
そもそも魔法少女は政府に届け出を出さないといけなのだけどね。
「私のお父さんが仲間引き連れて犯しに来た時
もう殺されて雪の中に埋められるのかと思った」
「なに突然」
「だってそうじゃん、アイツら刃物持ってたし第一顔を傷つけられた
薫ちゃんが来なければ生きてても死のうかと思ってた」
愛子はコンプレックスがある。
顔に刃物で傷つけられた跡と汚れた自分の身体がなにより
世界で一番に嫌いだった。
「そう、助けられてよかった」
「淡白だにゃ〜!!」
「うっさいなあ、恥ずかしいの!」
彼女は明るく振舞っているが、本当は闇を持っている。
通学用かばんにぶら下げられた愛子のぬいぐるみが揺れ
一つ、言葉を口にした。
「私も魔法少女になって薫ちゃんを護りたかったなぁ」
「…………」
魔法少女は処女でなければ、なれない
残酷な事実 純情を奪われた乙女は今までらしく
普通の人間のままであり、魔法少女は特別な者にしかなれない。
政府の出した結果によると魔法少女は全員性的交渉をしていなく
汚れをしらない人間ばかりだったという。
「暗くなんないでよ〜悲しくなるんにゃ!」
「言い始めたのそっちでしょ」
笑い声が銀色の世界に響き渡る
今の現実に立ち向かうには、笑うしかないのだ。
「助けて————!」
「え…?」
「今、声しなかった、薫ちゃん?」
「違うよ、私じゃない」
「殺される————!」
笑い声をかき消すかのようにか弱い女性の声の悲鳴が聞こえる。
人気のない通学路に聞きわたるのに十分過ぎるほどの声量だった。
その声の在りどころは私達のすぐ真後ろにある。
「あっ薫ちゃん……!」
私は振り向きながら走った
もうこれ以上、誰かが傷つくところを見たくない
織との約束を破るわけにも行かなかった。
『私が帰って来る間に、本物のヒーローになっててね!』
ヒーローは必ずやって来る。
「怪物……?」
私は自分の目を疑った
それの正体は人間ではなく、怪物であった。
雪と氷をごちゃ混ぜにし人間の姿を保っている。
鋭いほど尖らせた氷柱を手に持ち、白い雪とは違い
所々に黒い埃みたなものが纏わりついていた。
「薫ちゃん…まってって、なにこれ…」
遅れてついてきた愛子も驚愕していた
無理もない、怪物は日本政府に所属している魔法少女が
怪物が生まれる前に 町に入る前に討伐しているからで
こんな通学路に入ってくるとは想定していなかったからだ。
「これが怪物…?」
「グギガゴ…ォォ…ァ…ガ……」
怪物は私達に気づき襲おうとしていた女性に見向きもせず
こっちへ歩いて来る。
鳴き声は氷を擦っているような、耳に悪い音をしている。
「薫ちゃん、変身だよ!!」
「え、でもこんな街中で変身なんて」
そうだ、実際私は自分自身がなんの魔法少女であるか定かではないから
魔法少女に変身したくはない。
氷を操れる事は確かだが、そんな使えない能力
見つかり次第処分されるに決まっている。
「でも、でも…!足が震えて動けないし…交番からも遠いし…
助けなんて来ないよ……」
「うううう」
悩んでいる暇はなかった、怪物は私達めがけて
固まった雪でできている拳を振り上げた。
なぜ怪物は私達を殺そうとしているのか?目的はなんなのか。
「ギギギガ……ギィ…ガ…!」
私は愛子を攻撃の範囲外へ最後の力で投げ出し
怪物の一撃をまともに食らってしまった。
「……!かお……!…ちゃ……!薫ちゃん!」
眼がさめると目の前には酷い泣き顔の愛子がいた
どうやら、気絶していたみたいなのだが一つ問題がある
身体が動かない、脳が回らない。
口も動かせないし「大丈夫だよ」の一言も言えない。
(私、死ぬのかな)
織との約束を果たせないまま死んで一人ぼっちの愛子も
置いてけぼりにしちゃって、なにが正義のヒーローだ。
情けない、悔しい。
ヒーローはピンチの時に覚醒して敵をやっつける
そんな御都合主義の展開、現実にはない。
「ごめ……ん…ぇ…」
やっと口から出た私の最期の一言は、愛子に対する謝罪だった。
『死んだらさ、なにがあると思う?』
『天国と地獄だよ薫ちゃん』
『なんでそう言い切れるの織ちゃん!』
『ママがね、信じる人は救われる
天国に行けるっていつも言ってるの!』
信じる人は救われる、か
『信じない人はどうなるの?』
『地獄に落ちるんだって!』
『怖い! なにそれ!』
私は神様なんて信じていなかったから
地獄に落ちるんだろうか。
『薫ちゃんが死んじゃって地獄に落ちても
私が助けてあげるね!』
『織ちゃんにそんなことできるのー?』
『わたし魔法少女だもん! できるできる!』
『じゃあ、私が死んじゃったら助けに来てね!』
薄れていく私の心の中で懐かしい声が聞こえて来た。
「大きくなったね、薫ちゃん」
「うそ………薫ちゃん…」
「ぐ……うぅ…」
小さい身体に鞭を打ち、立ち上がる。
私は死の淵から這い上がって来たんだ。
「やめて薫ちゃん!もういいんだよ!」
死んでも 死んでも 織が助けに来てくれる。
「愛子ちゃん、私やっとわかったよ」
「え…?」
「私の本当の能力」
「まさか薫ちゃん、頭打たれておかしくなっちゃった…?」
「そうかもしれないね」
「ガァァァァアアギギギググ!!!」
「変身」
昔の合言葉を強く口にする。
愛子を救ったあの時のように辺りは白く、寒くなり。
制服の上から氷を纏う。
「私は」
『私が助けてあげるからね』
「不死身の魔法少女だ」
「不死身……って…」
愛子は意味がわからない、という顔をする
本来魔法少女は身体的な能力を持つものは少なく
いたとしても 超人的な力を持ったり身体をゴムのように伸ばしたり。
不死身は前例がない。
「ガガウグアイギア!!!」
怪物はまた私目掛けて拳を振り下ろす。
けれど二度同じ失敗はしない。
「そしてもう一つ分かったのが織がくれたあの魔法」
「それってまさか…」
「雪の魔法」
怪物は人間の形をしていて、弱点がわからなかった。
私は怪物の人間でいう心臓部分に生成した氷柱を打ち刺す。
氷と雪でできた怪物に効くはずもないが、動けなくなるまで、刺す。
能力的に不利ならば、動きを封じ込めればいい。
私は、2度も織に命を救われた。
「行こう、愛子ちゃん!」
「でも、動き封じ込めてもいつかは解かれちゃうよ?!」
「あんなドゴンドゴン音立てながら戦ってたから
誰かしら警察に通報してるでしょ!大丈夫!あとは国に任そう!」
「う、うん…………??」
「その倒れてる女の人も!私の事見てたとしたらやばいから
家に連れて帰ろう!」
「わ、分かった!」
街を脅かす怪物は倒せなかったけれど、2人の命を救えた。
なぜ怪物はこんな通学路に出現したのだろう。
なぜ、私は不死身と雪の能力2つを持てるのだろう。
☆
「やっと見つけたで」
「こんな所まで怪物来てたんな」
「さっさと処理してっと、上のバレたらやばいで」
「僕ら魔法少女のメンツが立たないよ…」
「うわなにこれ氷柱?動けないみたいやな、自滅したんかなコイツ」
「血の痕もある……」
「あちゃ、誰か殺しちゃった?まずいな」
「人を取り込んでる様子はないし大丈夫だよ」
二人の少女は自分達の魔法を使い動けない怪物を処理をする。
指先から出る炎に怪物は成すすべもなく溶かされ、消えていく。
「こんな当たり能力を授けてもらって良かったなぁ桜」
「使えない奴と言われて殺されるよりはいいように使われて
生きれる方がずっとマシよ」
変身が好きです。