2話 ドグマ・マグマ
冬の魔法少女、猫屋 織。
私は彼女と友達だった。
織は魔法少女が好きで私は仮面ライダーが好き
2人はお気に入りのキャラクターに変身をして
人形を怪物と見立て協力して倒した。
活発だった私は消極的な織を引き連れて
夏の暑い日でも冬の寒い日でも外で遊んだ。
彼女は人より体温が低く感情が高ぶると
触れるものを少しだけ凍らせることができる
特別な身体を持っていた。
その事実を大人達に隠して私と織は秘密を共有し
子供ながらに小さな愉悦感を感じていた。
織はずっと友達でいてくれると約束してくれた。
「薫ちゃんは普段暴れん坊で怖いけれど
本当は優しい子って事私は知っているよ」
人より冷たかった彼女が放ったその言葉で
ずっと自分の心に隠していたナニかが
とても暖かくなる様な、不思議な気持ちになれた。
☆
普段と変わらない帰り道
愛子はいつもの話題をふりかけてきた。
「薫ちゃん自分がなんの魔法少女かわかったん?」
「いや…まだ分からない、それに私が
魔法少女になる機会なんてないでしょ」
「そうだよねぇ、今時怪物なんて出てこないし」
『怪物』日本が冬の国になってから突如現れた
歪な姿をした…氷? 雪? の様な…何か。
人々を襲い氷漬けにする、現実にそんな事あり得ないけれど
そんな常識を怪物達はいとも簡単に覆した。
あの日から各国で『魔法少女』が生まれ始め日本政府に集め
そういう教育を受けさせて『対怪物兵器 魔法少女』なんて名称をつけられ
怪物達と戦わされた。
『魔法少女』は『能力』をもっている
割り当てられる能力は生まれた時と決まっていて悪く言えば「遅いクジ引き」
思春期 中学 高校生くらいに発症する年頃の病
その頃になると女の子達は不思議魔法が使える様になる。
空が飛べたり 10秒先の事が見える予知だったり
創作だけの世界という事実が嘘となり、現実となった。
人類の脅威に立ち向かえる能力を持った魔法少女は待遇され
その家庭には一生遊んで暮らせる金額が支給される、代わりに日本政府へ
引き渡さなければならないけど。
使えない 意味がない能力を持った魔法少女は「つかえない子供」と貶され
「処分」される、能力は年齢と共に強くなって行き
劣等生達がその能力で日本政府に反逆を起こさない様にだと言われてる。
「薫ちゃんが魔法少女だって薄々気づかれてるし
あの事件の事を見間違いで通すのはもう
厳しくなってきてないかにゃ」
「大丈夫だよ…多分」
「うーゅ……薫ちゃんがいなくなったら私さみしいよ」
「政府は馬鹿ばかりだから目先の事に集中しすぎて
私の事になんて手が回らないって…それに
お昼ご飯の前に『愛子は悪くない』なんて言っちゃって
本当にバレたらどうするのよ」
「だってぇ〜…」
「それに、私自身どんな魔法が使えるか分からないし」
能力が分からない、
ならば何故「魔法少女」であると分かるのか
「確かに自分の魔法が分からないなんて前代未聞だよねぇ
でもね、嬉しかったんだ〜! あの時本当に魔法少女がいるだなんて
思いもしなかったもん!」ぎゅ〜
「もぉ〜…だから外では抱きつかないでって…」
「ありがとうね薫ちゃん、お父さん殺してくれて」
「まぁ…別に」
姫乃 愛子のお父さんを、自分の魔法で殺したから。
あの現場を見た時は感情が昂りすぎて意味がわからなかった。
悪い怪人を倒す、私の夢が叶う日であった。
☆
2054年 4月
埼玉から千葉に引っ越してきた私は
全く知らない土地ではじめての高校生活を送ろうとしていた。
高校までの道のりを調べるために自宅から歩いて
同時にどこになにがあるのかを確かめていたんだ。
「ここにコンビニがあるのね〜」
浮かれていた、呑気だった。
季節は前の人類の記録によるとちょうど春
新しい人生のスタートを切るにふさわしい季節なのだけど
今は冬、前日の天気は吹雪だったけど今日は雪も止んで
散歩に持ってこいの日、のハズだった。
「〜〜〜!!」
「コイツ、暴れるなッ!!」
「抑えろ!抑えろ!」
「うわ、何やってんだあそこ」
ちょうど人気が無いとこをを通っていた私は偶然
その現場を見てしまった。
男複数人が若い女性に乱暴をしている
今年16歳になる私にはあまりにも酷すぎる現実を突きつけられた。
「見られたぞ!」
「あいつも捕まえろ、警察にバレたら洒落にならない」
逃げるには十分な距離はあり、少し走ればさっきのコンビニもあった
けど、足が動かなかった。
寒さのせいではない 歩き疲れたからでもない、怖かったから。
震えが止まらないのは冬だからでもない、新しい生活に緊張を
しているわけでもない。
ただ 恐ろしかった。
☆
『薫ちゃん!』
『なに織ちゃん』
『あのね、私考えたんだ
悪い怪人を倒す時に変身! って言うじゃん!』
『言う! 変身! かっこいいよね!』
『だから私がいなくなっても
心は繋がっていて、変身する時も一緒なの!』
『どういうこと? 一人で変身するんじゃないの?』
『ちがうの! 離れていてもずっと一緒!』
『うーん、分かった! 変身する時は
織ちゃんの事を思い出すね!』
☆
男が近づいて来る間、昔の事を思い出していた。
織ちゃんはある日突然いなくなった。
「はは、こいつ動けねぇでやんの」
「ちょうどいいじゃねぇか、こいつも壊そう」
「1人増えたってかわらねぇしな」
私の体は小さい方で、ガタイが良い男性なら
ヒョイっと持ち上げられる程の体重でもあった。
「ごめん、なさい……
わたしのせいであなたまで…」
地面に無造作に放り投げられ肌を露わにしている
女の子は私に向かって言った。
弱々しく、諦めている声だ。
『だから薫ちゃんは、私の代わりに悪い奴らを倒して
街を、みんなを幸せにするの!』
走馬灯ではないけれど、なんで今になってあの時の。
織の事ばかりを思い出すのだろうか。
「はなせ…!」
「こいつ幾つだ?」
「身分証明書に15歳って書いてあるぞ」
「はは、15なのに胸小さいんだな」
「まぁいいだろ」
「ゴミ!アホ!!クズ!!」
昔はあんなに強くて男子にも勝てたのに。
今は殴ろうとした手を男の力で封じ込められる。
「……プッ」
「クズはお前だろ、葛宮 薫ちゃん」
「クズ宮だってよ、今から犯されるお前に十分な名前だな」
「……ぁぅううう……ぃ……ぃぃ…ぐぅぅ……」
「あーあ、泣いちゃった」
「早くやろうぜ、なんか寒くなってきたからよ
腹壊しちまうよ」
『悪い奴らをやっつける正義の言葉なんだよ!』
こんなやつらに私の純情を奪われる。
引っ越してきてばかりの見知らぬ土地で、まだ名前も知らない
女の子の隣で、ボロ雑巾の様に。
「ごめんね……ごめんね…」
裸の女の子はずっと謝ってばかりだ。
あなたのせいで私まで、汚されてしまう。
『でたな怪人! 正義の力で成敗してくれる!』
『プリティーチェンジ!』
そんなのは嫌だ。
『かっこわりー!こっちの方が絶対かっこ良いって!』
『えーじゃあ薫ちゃんやってみてよ!』
あの時の合言葉、今も覚えてる。
織と誓った約束も。
『見てろよ! せーの!』
悪い奴らを倒す事。
「変……身…………ッッッ!!」
声が震えてしまい、情けない決め言葉となる。
懐かしい、昔はよく口に出していたなぁ。
年をとった今では恥ずかしく言えない。
それでも、織との約束を守るんだ。
「…はぁ?」
「やるまえから壊れちまったな」
『薫ちゃんはどうして変身が好きなの?』
『だってさ!変身すると力が強くなるんだもん!』
私は初めて自分が魔法少女だと確信した。
変身 その言葉はあまりにも重く 希望に満ち溢れていた。
「泣き叫ばれるよりはいいわ、パンツ脱がしてっと
ははは、もう濡れてるじゃねぇか」
『見てろよー! これが私の必殺技!』
「ひ、っさつ……」
『ライダーパンチ!』
『パンチより魔法の方がかっこいいもん!』
「……ライダー…ゥッ……」
また昔の事を思い出してきた
この記憶は春の日におばあちゃん家の
庭先で遊んでいた時のこと。
『えー! じゃあ二つ合わせて魔法パンチ!』
『かっこいー!!!』
正直、かっこ悪くて気に入ってはいなかった。
でも今ならかっこよく決めれるかもしれない。
「まほ、う……パンチ……ッ!」
「なんだこいつ、んな殴り痛くも痒くもねぇよ」
「最後の抵抗ってやつ?」
そのパンチは弱々しく、儚く。
「は…れ?……血…?」
「う、ぐぅぅぅ……ッ」
「お前、腹から血が…!!グッ」
「寒い……体の芯まで、冷え」
魔法が込められていた。
「うるさい……ぅぐ…!!」
手を一振りすればあたりは白く冷たくなり
私の目からは涙ではなく、氷が流れ出ていた。
☆
「う……ハア………ハァ…」
「大丈夫……?」
代償か何かは分からない、身体的な事なのかもしれない。
変身が解除された時には立ち上がる事も難しく
周りには男達の残骸と自身の嘔吐物にまみれていた。
『魔法パンチ!これでどんな怪物もやっつける!』
過去の親友、織は私に生き残るヒントを与えてくれた。
織は人より冷たく、砂場の砂を握っては凍らせて
結晶を作ってくれた。
親友の印!なんて言って私だけに作ってくれた宝物。
「あなた……魔法少女なの…?」
「………かもしれません」
高校の通学用カバンからあの時の宝物が顔を覗かせる。
「助けてくれて……ありがとう………ございます…」
貰った結晶はこの世で一番冷たかったけれど
一番暖かくもあった。
過去の事ばかり書いて中々進まない…!