1話 春が来る前に
ヒーローになりたかった。
私は幼少期、同い年の女の子が皆憧れていた
「魔法少女」には見向きもせず
「特撮」を好み、将来の夢は仮面ライダーだった。
周りからは「女の子なのに趣味が男の子みたい」
「女の子なんだからお淑やかに生きなさい」
「元気があっていい子だね、お名前は? あら、女の子だったのね」
今思うと、髪は短髪で性格はどちらかというとガキ大将
好きなものは特撮とドッジボール、間違われていても無理はない。
外で遊ぶの好きだったなぁ。
『魔法少女より、仮面ライダーの方がかっこいい』
いつかベルトを装着して世界を救えるモノだと信じていた。
ヒーローはピンチの時に駆けつけてきて
街を脅かす怪人をやっつけて人々に勇気と希望を与える
そんなクサイものに憧れていたんだ。
怪人と戦う時に備えて変身の練習をたくさんした
一度は言ってみたいセリフ『変身!』
現実では使う場面は一切ないし驚異的な怪人はこの世にいない。
あるのは理不尽な今だけだ。
☆
高校生、思春期真っ只中の生き物
私はこの友花高等高校の1ーAに通っている高校1年生
毎日勉強に恋愛…はしてないけど、大忙しなごく普通の、女子高生。
「よぉクズ、よく生きてられるよなお前」
「やめなって隼也、関わらない方がいいって」
「こんな人殺しと一緒のクラスとかマジ最悪だわ」
「隼也…!」
「なにも俺は間違ってる事言ってないだろ
それにコイツ名前にクズって付いてるからお似合いだ」
葛宮 薫それが私の名前で
クズって文字が入っているからよく弄られる、よくある事だ。
「はは、やめてよ隼也くん…」
「うわっ返事してきやがったよコイツ」
「返事もなにも話しかけてきたのそっちじゃーん」
「行こ隼也、気味が悪いよ…」
「あぁ、んでコイツのうのうと明るくできんだよ……」
去って行った、みんなが私を避けるが仕方ない
それなりのことをしたのだから。
☆
8月2日、数十年前までは夏休みなんてものがあったと聞いたけど
今はない、というかまず夏という季節がない。
「えー、では出席番号でー……今日は2日だから2番の愛子さん
日本の季節は10年前まで春夏秋冬だったけれども………
なぜ、冬しか来ない雪の国になったのか
答えてくれるかな、これは先週教えたことのおさらいだから分かるハズだよ」
「……」
「愛子さん?」
「…フガッ、はい!! ハイッ
今日のご飯は・・・あれ?」
「…なぜこの国の季節はずっと冬なの?」
「あー…すみません、分かりません」
「はい減点、じゃあ薫さん、答えて」
「……冬の魔法少女が現れ、たからです」
「えーはい正解、昔の一般常識でいうと魔法少女は創作物の類で使われていましたが10年前政府によって発見されて以来各国で思春期の女の子がなる特異的なーーー」
授業の終わりを知らせるチャイムに教師の言葉は遮られる。
☆
「ねぇー薫ちゃん、中根の野郎『えー』って言う回数多くなかった?」
「確かに多かった、それより愛子ちゃん寝てたでしょ、今日の授業の事
プリントにまとめる宿題でたけど分かるの?」
「わかんにゃいー…見せて?」
「はぁー……いいよ」
姫乃 愛子 唯一対等に接してくれる友達
授業態度は不真面目だけど誰にでも優しい良い子。
「ねぇーご飯食べ行こ! 学食! 寒い体にカレーが染み渡るんだ〜」
「行こうか〜」
「また姫宮さん姫乃さんに優しくしてるよ」
「言った方がいいかな?」
「姫乃さん優しいし、騙されてるの可哀想だよね」
「言っちゃおうよ」
「姫乃さん、ちょっといい?」
女子軍団のリーダーが愛子に声をかけた
私の事情を愛子に教えるためにだろうか。
「にゃにー? 私カレー食べに行きたいんだけど」
「葛宮さんの事で話があって……」
「ふーん、なに?」
「だからちょっと離れたところで」
「ここで」
「え?」
「ここで言え」
愛子は力強く声にした。
「ちょっと愛子ちゃん…」
ムキになるのも無理ない。
「薫ちゃんはなにも悪くない、悪いのはお前らの方だ」
愛子は私の過去を知っている唯一の人間だから。
「愛子!」
「…! アハー、ごめんね! 愛子ちゃんきらいなんないでぇ〜!」ギュ
「だから人前で抱きつかないでって!」
愛子は私の全てを知ってる。
「………」
「姫乃さん、すっかり騙されてるね」
「可哀想に」
「いつか姫乃さんも凍らせられるよ」
☆
冬の魔法少女、2046年に有名になった少女
発見された頃は8月
前年の最高気温を越す猛暑続きの千葉県に
「全身が冷たい」女の子がいると有名になり一瞬で話題になった。
その女の子のお母さんが言うには冷たさは生まれつきで
芸能人からべたべた触られては「つめた〜い」「ひんやりしてるね」
「一家に一人は欲しいかも」なんて言われて
女の子嫌がってたのを覚えてる。
次第に報道が悪化して行き、しまいには政府が動き出す事態となった。
日本政府は「この冷たさを研究したい、これは体質ではない、魔法だ」
とか言い始めちゃって大変。
それからは親が女の子を研究施設に売り、「冷たさ」を研究させられた。
マイナス何度かの密室に閉じ込められたり。
真夏の外に投げ出され水分を与えられなかったり。
人権はなかった。
女の子は温暖化が進む人類の為になるその一歩の材料にすぎなかった。
真実を知らない人たちは次第に女の子の事を忘れて行き次の話題に夢中だった。
魔法少女、聞こえは良い。
その冷たさは現代科学では表現できなくまさに魔法。
コードネームかなにかは知らないけど猫屋 織という名前は捨てられ
研究施設では魔法少女と呼ばれる様になった。
雪女かよりはマシだと女の子は狭い布団で考えいた。
女の子は日曜の朝に早起きしてお母さんと見る魔法少女のアニメが大好きだった
いつか魔法少女になって悪い怪物をやっつける、それが夢だった
現実は研究材料に使われては暖かい言葉もない
いつからか自分の心は酷く冷え切って行くのが幼心に染み渡り。
「つかれました ごめんなさい」
一桁も行ってない女の子の遺書だった。
☆
午前の授業が終わってから私たちはいつも二人で学食に足を運ぶ
愛子がさっきの事を気にかけて話しかけてくる。
「薫ちゃんってば〜」
「……」もぐもぐ
冷え切った身体を温める為に私はいつもラーメンを食う
もちろん醤油ラーメン、愛子はカレーを好んで食べてる。
「ね〜ぇ」
「ふー……ふー……」
「息冷たいねぇ薫ちゃん」
「おぁ!?ラーメンふーふーしてたつもりなのに目の前に愛子の顔面が……
……私の冷たさに耐えられるのすごいよね」
「冷たくないよ〜明るいじゃん!薫ちゃんは明るい〜!!」
「そういう問題じゃなくてね…」
私は普通の人より体温が冷たく触られると寒がられ
『雪女』なんて言われるのがオチだ。
でも、愛子は平気な様で昔は帰るとき手を握って帰ったものだ
今の日本の平均温度はマイナスを記録しているのに
手袋もしないで私と手を繋いでくれて……
「もっとふーってして!! ふーー!!!!」
「あー! カレーが飛ぶ!! やめなさい!!」
いっつもこうやって私のリズムを狂わせて来る
もちろん、いい意味で。
学校での私は真面目ちゃんで通っている、つもりだ
学生の仕事である勉強をし、部活は……帰宅部だけど帰ってからは予習復習
将来は資格を取って一人でできる仕事をしたい。
昔は世界救うんだーとか言っていたけれど、今の私は世界なんて救える身分じゃない
友達、親友と言えるのは愛子だけしかいないけれどそれで十分。
クラスメイトは私の事を忌々しい目で見ているけどそれでいい。
☆
午後の授業が終わって帰る時間
愛子と帰らなかった日はない。
「かーえろ! かおるん!」
「またあだ名つけたの……前はみやかおじゃなかった?」
「たくさん名前あったほうがいいでしょー! 楽しいし」
「楽しくなんてないでしょあだ名増えたって…」
『みやかお』の他に
『くーちゃん』『かおっぴ』『みやお』
なんて付けちゃってくれて
私は世界一あだ名が多いのかもしれない…
「それもそうだねぇ〜」
今日も1日が終わる
毎日毎日を大事に過ごし、今ある命を大切に生きる。
「ねぇ……あれ、って」
「猫屋織……?」
「10年くらい前にテレビ出てた子だよね?」
「懐かしいなー、そっくりさんかな」
「…薫ちゃん、どうする? 道変える?」
「いいよ、行こ」
8月、本来ならば夏であるハズ
しかし今は冬で雪も降っている。
自転がずれたからずっと冬ってわけではない。
冬の魔法少女が死んだあの日から。
猫屋織が私に人生を与えてくれたあの日から
日本は冬の国になった。
ブクマ 評価 ありがとうございます
より一層、読みやすい文章を目指して行きます…!