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パートに行こうと

四話目です。制作は順調ですので、明日もお楽しみください。

ああ、そうそう。書き忘れていましたが、必要ないので本作には特定の可愛らしいヒロインは出て来ません。悪しからず。

  えっ?ああ、はい。はい。わかりました。


  ママ、どうしたの?


 今日保育園おやすみだって、残念ね。


 えー。おやすみなのー。ママはー?


 休もっか?

 やた♪


  はしゃぐ娘を見ながら、スマホで勤務先まで電話をかける。


ええ⁉困るよ!最近なんでかパートさんの出が悪いんだからさ。お子さんどっか預けらんないかな?あっ、うちの休憩室貸してもいいから、ねっ、頼むよ。


わたしと同い年ながら独身、ファストフード店の一つを任されている雇われ店長が懇願する。


なんで来なくなったのか、知らないのね。


あれだけ休憩時間にテレビを眺め、スマホを開いてみてるクセに来なくなった理由が分からないことが信じられない。


大方、エロサイトか風俗店のサイトでも覗いてたんだろうな。


テレビもニュースになると切り替えて、違う番組を見てるくらいだしね。世の中のこと知らないか。


あと、あんたの性癖ね。


前に店長が隠すように見ていた携帯をチラ見したときに、あられもない格好をした、見た感じ年端のいかない女の子が、二人の男性に背後から組敷かれている動画を見ていることに気付いたとき、絶対にうちの子を店には連れて来ないと心に決めた。


店で仲の良いオバチャン店員から噂を聞き、興味本位から覗く機会を伺ってたけど、予想以上に店長がそっち系でヤバかったことにビックリだった。


でも、それだけだったら敬遠されるだけ、店に出てくるのを嫌がるなんて話にはならない。


男性も知り結婚もし、出産なんて大事業を成し遂げたオバチャン達だ。せいぜい裏で店長をオモチャにして、あいつ素人童貞かな?(笑)とか、彼女いない歴=年齢かも(ニヤニヤリ)とか、今ではすっかり古くなったスラングを駆使して、影でバカにしながら内輪で話すくらいだ。


さてと、子供と我が身が大事だから行けないのに、無理しても来いとかほざいたアホに教えてあげましょうか?


世の中、意味解らん奇病のせいで大変なんだよ!


皆、店で仕事中は平然としていたけど、ホントは客か店員の誰かが突然爆発したらどうしようか気が気じゃなかったんだから。


握ったスマホに向かい、声に出さぬよう口をパクパクさせて鬱憤を晴らしたわたしは、いけない?他に方法ないかな?とか、まだ諦めていない店長に逆に呆れ返り、娘がポカーンとわたしを見詰めるなか、どっかとフローリングに胡座をかく。


ですからね。行きたいのは山々ですけど、謎の奇病が隣町で出たでしょ?それでですね教育委員会が…。


あっ!ちょっと待って、えっ、なに聞こえない…。


誰かに呼び掛けられたらしい店長が、電話を耳から離したらしく声が遠ざかっていく。


 こっちは少し目を離すと自由奔放に動き回る娘を見ていないといけないのに。


 イライラしながら店長からの応答を待っていると、案の定、我が子は庭に飛び出ていた。


 ちょっと!


 スマホを握りしめたまま表に飛び出る。


 お早うございます。


 どこかの会社の部長夫人だという見るからに品のいい奥様が、愛猫の三毛猫を抱えて塀越しに立っていた。


 あっ、おはようございます。


 わたしは頭をこくりと下げ挨拶をする。


 今朝はゆっくりなのね。


 あっ、はい。保育園が休園になったので……。


 それは急ね。何かあったのかしら。


 ええと……。


 ネコちゃん、朝ごはん食べた?


 説明をしようとしたとき、無邪気な我が子が猫に話しかけた。


 ちゃんと食べたわよ。あなたは食べたのかしら?


 食べたよ!オムレツ!


 美味しかった?


 おいしかった♡


 そう、よかったわね♪


 ネコにちょっかいを出しながら答える娘を、さも愛おしそうに見つめていた奥様は、顔をわたしの方に向けて電話は大丈夫?と、声を出さずに口パクで心配してくれた。


 そうだった!


 何やら声が聞こえて来るスマホを耳に当て、すいません!と奥様に頭を下げながらリビングへと駆け戻った。


 あっ!通じた。よかったよ、電話切れたのかと思った。


 すいません。ちょっと取り込んでいたもので。


 気の抜ける店長の声を聴き、思わず頭を下げながら返答する。


 まあいいや。あのさ、しばらく店に来なくていいよ。


 えっと、それはどういう……。


 店長からの突然すぎる発言に動揺する。


 ああ、あのね。これ本社からの指示なんだけどさ。なんかよく分からないんだけどさ、どうも国からの指示でね、えっと、なんだっけ。


 なんでしょうね。


 無性にイライラしてきた。


 そうそう、買春禁止れェーとか?秘宝事案だっけかな。そんなのが出されたらしくてね。だからしばらく店閉めるからみんな来なくていいんだってさ。


 買春禁止なのはおのれじゃ!


 などとは流石に声に出す訳にもいかず、そっと胸の中で呟いておいた。


 あの、それ、もしかして外出禁止令と非常事態宣言じゃないですか?


 ああっ!うん、それそれ。いまテレビでもやってるよ。でね相談なんだけど。


 なんですか?


 あのさ、おれさ、出勤してきたばかりなんだよね。どうしたらいいと思う?


 今すぐ帰れ!!


 はい!


 イライラがピークに達したわたしは、声を荒げて怒鳴ってしまった。


 店長の甲高い返事を残して切れてしまったスマホを虚ろ眼で眺め、目線を庭に向ける。


 可愛らしい三毛猫を追いかけて楽しそうにはしゃぐ娘の姿が見えた。


 そうだ!テレビ、テレビつけないと。


 さっきまでのやり取りは一旦記憶から消すことにして、テーブルの上に置いてあったテレビのリモコンを引っ掴みスイッチを押し、普段はあまり見ない公共放送にチャンネルを合わせる。


 店長の言った通り、ワイドショーやニュースでよく見かけるけど、その名前は良く知らない内閣官房長官の会見が行われていた。


 ……国民の皆様はご自宅に戻られるか、近隣の公共施設などの指定されている避難場所に速やかにお移り下さい。またデモを行っている皆さまは即座に解散し……。


 彼は淡々とした様子で全国民に対し、国家非常事態宣言が発令された事、これに伴い外出禁止令が発布されたことを知らせていた。


 ヤバい、ヤバい。


 慌てたわたしはテレビをつけたまま、どうしていいか解らず立ち尽くしてしまった。


 ママぁ~。おばちゃんが変だよ。


 不安げな娘を声を聴き、ハッとして庭を振り返る。


 そこには娘の頭を撫でている姿勢のまま、腰から後頭部にかけて異様に膨らみ始めている奥様の姿があった。


 あぶない!


 咄嗟に庭を駆けたわたしは奥様から娘を引きはがし、リビングに転がり込み窓を閉めた。


 外で爆発音がして窓を真っ赤に染めたのは、この直ぐあと。


 助かった。


 ギュッと力いっぱい抱きしめたお陰で、息が苦しかったらしい娘がべそをかく。


 わたしはごめんねと謝り腕を解いた。でも娘はなぜだか離れようとはしない。


 どうしたの?


 あれ、ネコちゃん?


 娘が尋ねる方を見ると、毛の生えた肉色の風船玉がいた。




 陸上自衛隊の化学隊に所属する尉官の夫が、休む間もなく行っていた除染活動を続けること三週間目で、やっととれた休暇を利用して妻と娘に連絡をとろうとしたところ、妻や娘はおろか親とも電話が繋がらないことを知ったのは、この四日後のことである。



   地球・RESET。 伝染肉球 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










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