駅前で
続きになります。
恐らく毎日投稿できると思いますが、出来てない場合は詰まっているなとか、寝てるなコイツ。とか、生温い目で見守って頂けたら幸いです。
いきなり大きな風船が割れた様なイヤな破裂音がして、ぼくは歩道橋の上で立ち止まる。
見ると、駅前で道路を閉鎖してやっている産業フェスティバルの会場で、赤色の煙が上がっていた。
続けて2つ破裂音が聞こえ、もわっとした赤い靄みたいなものが勢いよく立ち上っていく。
火とか見えないし、何かの催しなのかな?
だが次に響いてきたのは人々の歓声ではなく、耳をつんざくばかりの悲鳴と、大挙して逃げ出した人々の姿であった。
なにがあったのだろう。
遊歩道の手すりに上半身を乗せ、辺り一帯の様子をぼくは観察する。
幸い、風向きは東に向いていて、あの煙がこちらに流れてくることはない。
まさか、毒ガス?テロ?
ぼくは震える手でスマホのカメラを起動させ、ピントもろくに合わさずに一心不乱に撮影を始める。
なんだこれ、ちゃんと写ってないじゃないですか。
完全に焦点のはずれた写メを見て、自分の動揺ぶりを棚に上げスマホに向かって八つ当たりをする。
そっか。動画だよ、動画にしよう。
とは思ってはみたけれど、やっぱり小刻みに震える手は、中々いうことを聞いてはくれず、テレビやネットでよく見る、落ち着いた動画撮影とは程遠い代物しか撮影できない。
なんだよ。なんだよ。
ブレまくるスマホを両手で抑え込み、どうにかモノに成る画像が撮れた頃には、人々は既に現場を遠巻きに不安げな様子で眺めていて、産業フェスティバルに参加していたらしい警察と消防、それに自衛隊が、フェスティバルの為に持ち込んでいた車両を使って、付近一帯をまるで目隠しする様に封鎖した後だったのだから、情けない。
ぼくは素人だし、しょうがないよね。
誰に話すでもないのに、自分を納得させる為だけに呟いた僕は、依然遠巻きにしながらも、僕と同じようにスマホやデジタルカメラで撮影を続ける野次馬を横目で見ながら、横断歩道を下って駅とは反対方向に歩みを進める。
あっと、Twitterにアップし忘れてたよ。
慌ててスマホを取りだして、さっき撮った画像と動画をアップする作業をしながら、近くの書店に入り、お気に入りのラノベの新刊を手に入れた。
今日はこのために折角の日曜日を無駄にしてまで、外に出たんだった。
あれから、たぶん一時間くらいはたったかな。
家に着いた僕は玄関を開け、靴を脱ぎ、ゆっくり階段を登って自分の部屋に向かう。
リビングからのテレビからは、速報です。と言う仰々しいセリフと共に、どうやらさっきの駅前での事件の概要を伝えるニュースを流しているみたいだ。
こっちはとっくにお祭り騒ぎなのに。
相変わらずのマスコミの緩さに、いつもの事かと自答しながら足を一歩前に出したところ。
あんた駅前の事件知ってる?三人死んだって!
とかいう母上の御言葉を受けた僕は、内心で知ってるよ♪とか思いつつも、こう返事を返してあげた。
マジで⁉あとで教えて。
言い終わると、わかった!という明るい御母上の返答は無視して、そそくさと自室に引っ込んだ。
さてさて、Twitterはどうなってるかな?
パソコンの電源を入れ立ち上げた僕は、みんなから寄せられた驚き交じりの返事や感想に応えながら、買って来たラノベのページを開く。
今回の話はどんな意表を突いた話を織りなしてくるのだろう、楽しみだよ。Twitterをのぞき見しながら、ページを読み進めていく。
やっぱり今回の話も面白い!
するとTwitter上の誰かが、これ浅草の事件に似ていると、別の誰かが載せたらしい動画をアップして呟いた。
途端にぼくのTwitter内が騒がしくなる。
動画を見た誰かが、すごい似てるかも!とか、原因これじゃねw とか、次々に呟いていく。
浅草の事件は知ってるけど、そういや動画はまだ見てないな。
まとめサイトや考察サイトも見てないけどね。
今更ながら情報に疎過ぎたことを痛感した僕は、誰かがアップしてくれた動画のURLをクリックしようとマウスに手を掛ける。
その時ふと、目の端に映った何か動くものが気になった僕は、熱気がこもりやすい部屋の風通しを良くするためにしている網戸の方に顔を向けた。
なんだろう。
緑色の虫が何匹が取り付いて、網に足を絡ませては蠢いているのが眼に入った。
カナブンかな?
こんな田舎では珍しくもない甲虫の名を口にしたぼくは、部屋に入って来られては厄介だと思い、網戸がキッチリ締まっているかを確認する為に立ち上がった。
あれ?
一匹だけ身体と云うか胴体と云うか、いやに腹がふくれたカナブンがいる。
途端、弾けた。
うわ、汚い!
得体のしれない汁が顔に掛かってしまったので、思わず手で拭い、机の上に置いてあるティッシュを使い再度顔と手を拭く。
気持ち悪いな。べとべとして嫌な臭いもしてそうだよ。
拭き終わったティッシュの臭いをかいでみようかとも考えたけど、幾ら何でもそれはないなと考え直す。
仕方ないな、一旦下に降りてシャワーでも浴びようかな。
ぼくは嘆息しつつ、階段を降りる覚悟を決めた。
彼がブラブラ再び街に出て、量販店で行われていたお笑い芸人のライブを何とはなしに眺めていたところで上半身が弾け飛んだのは、これから六日後のことである。
地球・RESET。 繁殖開始