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64式のオジサンが

またも、だいぶ遅れてしまい申し訳ありません。

あと壱話で終わりますので、怒らずけなさずお待ちいただけたら幸いです。

 任せろ。


 アンタ本当に大丈夫なん?

 オヤジ無理すんな!

 パパ、やる気だ。


 偽自衛隊からの逃走劇から三週間、嫁や娘らから〖64式オジサン〗と渾名を付けられた、現在無職のニートおじさんだ。


 よ、よ~し、おっちゃん撃っちゃうぞ。


 標的に照準を合わせ、引き金を落とす様に、撃つ。

 銃口から閃光が左右と前方に(ほとばし)る。


 イッテ!肩が(えぐ)れたかと思った。


 おじさん人生初の発砲は、やたらと痛かった。


 バールを手にして突っ込んで来たおっさんが、弾かれた様に倒れた。


 アンタ、アンタ!当たったよ!

 オヤジすげェー!

 マジで⁈ あたしら助かったの?


 嫁と娘たちは感嘆の声を一斉に上げた。


 家族の為なら、これくらい造作もないね。


 肩の痛みが指の先まで伝わり、上半身がガタガタ不平を言ってるけど気にしない。


 どれ、も、もう一発撃ってあいつらを追い払ってやるか。


 地下街の通路を挟み武装勢力と鉢合わせした逃走家族は、統率の取れた行動で、すかさずシャッターが 開きっぱなしの喫茶店に立て籠もり、今一発、発砲したところだ。


 てか、一発と云わず、連発にしてやろうかな。


 自慢の64式小銃の切り替えセレクターを持ち上げ、矢印をアからレに移動させる。


 肩の痛さなんかに構ってられるか!


 弾が連続して規則正しく撃ちだされるのを、しびれ出した右肩で感じた。



 薙ぎ払え!!



 それは某アニメの姫殿下のセリフではなく、軍ヲタらしく日露戦争当時の実在の参謀が、当時最新鋭の機関砲を使い突撃して来るロシア兵を、越権行為と知りつつ命令せざるを得なかった故事?に由来する言葉を叫んだのだ。


 ヲタクめんどくせェ~。


 上の娘がうるさいが、しょうがないだろヲタクだし。


 実はさっきの説明っぽいのは全て、口に出しながら撃っていた64式オジサンである。


 各々違った武器を手に、突進してきた男共は皆倒れた。



 終わったな。



 逃げ始めた武装勢力がロクな武器を持っていなかったのが良かったかな。


 散を乱して我先に潰走する敵を背に、64式オジサンは満足げな表情で物陰に隠れたままの家族に手を差し伸べる。


 さあ、行こう。


 安堵した様子の嫁や娘達、みんな笑顔だ。


 うん、行こうアンタ。

 やったなオヤジ。

 やっぱりすごいね、パパ。


 愛する者達の満面の笑顔を向けられ、まんざらでもない。


 家族四人、仲良く寄り添い合い、あの奇病の寄りつかない楽園を目指し走り出した。





 ポカッ!!


 あたっ⁉


 アンタ、いつまでボーッとしてんの、ほら行くよ。


 …あっ、はい…。


 オヤジ、しっかりしろよ。


 ホントだよ、自衛隊の人はもういないんだよ。


 すいません。妄想をしてました。


 まったくもう!!!


 妄想癖のあるバカなオジサンを連れた家族は、地下街の一角、おいしいお肉♡と書かれた幟が立つ、物凄い腐臭のする肉屋の脇を早歩きで通り過ぎる。


 くっさ!

 堪らないねぇ。

 いいから早くいこ。


 恐らく、店の人たちにそのまま放置されてずいぶん経つのだろう。鼻を衝くどころではない強烈な刺激臭が脳天を抉って来る。



 でも、この臭いのお陰で、ここがまだ安全だと教えてくれる。


 もしも奇病が涌いていたら、肉屋の肉が腐臭を放つわけがないからね。


 アレ、なんでも溶かして喰っちまうからな。


 ほらほらアンタ、遅れるんじゃありません。

 もう、早くしてよ!くっさいんだからさ!

 オヤジ、走れ!


 無理いうな。


 ずっしり両肩に食い込むリュックを見てから言いいやが……。いえ、おっしゃって下さい。

あん、ナニ?


 そんな目でこっちを見るな。


 すっかり家族の荷物持ちに地位が格下げされた64式オジサンは、ジト目で睨んで来る嫁や娘たちの視線に恐れおののく。


 ありゃ、死線だわ。怖いなァ。


 肩ズレしそうなリュックをえっちらしょッと背負い直し、嫁や娘たちの後に従う。


 そうだね。もう自衛隊も警察も何もかも溶けて居なくなったんだったね。





 偽自衛官一行の手を逃れて、自宅裏の側溝の中を逃走すること二時間。奴らを掃討しにやって来た陸上自衛隊の特殊作戦群に拾われたのは二十日前の話だ。


 三日間、彼らの御厚誼に甘えつつ、毎夜二発づつ嫁のナカに発射を繰り返していたのは今となっては気持ちよすぎる思い出だ。


 その後、誘拐した人質を盾に豪華防護服セットや衛生物資に安全な食料、自衛隊の連隊戦闘団に匹敵する武器を要求した偽自衛官一行を、サクッと葬った特殊作戦群の一個小隊は、救出した人質の皆様と家族をひとまとめにして合流してきた後方支援連隊に預け、次なる戦場に転戦して行かれたのだ。


 彼らが去る時分、何故だか三佐の階級章を付けた小隊長が、無事救出された人質という名のご近所さんと嫁と娘たちに握手をして別れを惜しんだそうだ。


 他称、64式オジサンは下痢気味で、トイレに籠りっぱなしだったから握手せず仕舞いだったんだけどね。


 怒られたらイヤなので、しっかり三度も手を洗ってから戻って来たら、何故だか家族にゴミを見るような目で見られたのは、ある意味いい思い出かも。


 何でそげな目で見んの?


 そう伺いを立ててみたところ、どうやら人質にされた方々の中に隣近所の皆々様は一人もおらず、さらにお伺いを立てたところ、皆様揃いも揃ってサッサと田舎に疎開されていたそうな。


 それとゴミ見るようなゾクゾクさせる家族の蔑んだ眼と、なんの因果関係があるんだろうと思ったが、なにやら気持ちいいので、どうでもよくなってしまっていた64式オジサンであった。


 実のところ嫁と娘の言い分としては、64式オジサンが早めに故郷に疎開していてくれたなら、偽自衛官に自宅までお迎えもされることもなく、命からがら汚い側溝を這いずりながら逃げなくてもよく、あまつさえ、次はどこに向かわされるのか分からない生活をしなくても済んだかもしれない。


 とのことらしい。



 無茶言わないでくれません?



 こっちは夢も希望も大体無くしたばかりの、しがないニートおじさんなんですよ。そんな考えが涌いて来る状態だとでも思っておいでですか?


 それにさ、それならそれで常に近所付き合いに余念がないアナタ達がね、先に気付くべきじゃないんですかね。


 てな話が通じる訳もなく、ていうかね。それに先に感付いたからこそ、こっちに余波が回って来たのがみえ見えなんです。


 でね。結局はこれですわ。


 オジサンは重過ぎるリュックを背負って、えっちらおっちら愛する家族の後に従うのであった。



 こちとら行く当てなんぞない。



 結局あれからとある駐屯地に収納されてはみたけれど、三日もすれば違う駐屯地に移送され、たらいまわしにされた挙句、気が付いた時には東北の第6師団が本営とする駐屯地の一角に居候する破目になってしまっていた。


 ここは見るからに本職の自衛官の少ない寂しい駐屯地で、いつの間にか加わった大勢の民間人と共に生活を共にしていたのだけれど、奇病がここでも発生してしまったのがきっかけで、知らない誰かと、というか、お互い疑心暗鬼に陥って接触を断ちざるを得なくなってしまい、それに只でさえ少ない自衛隊の部隊は、度重なる防護服や物資狙いの武装勢力との戦いに疲弊してしまっていて、いつの間にか発足していた師団司令部を擁する駐屯地の防護にも事欠く有様となっていたみたいだった。


 それに、奇病の恐怖から防護服を優先して与えられていた保護下の民間人まで蜂起してしまったら、どうにもならないからね。


 遂に瓦解した自衛隊は駐屯地を放棄するしかなくなって、一握りの部隊と民間人を護りつつ撤退していったのだ。


 で、そうとは知らないオジサンたちは置き去りになってしまっていた。


 もうね。嫁と娘のオジサンに対する怒りったらなかったね。


 なぜにほっぺたを叩かれたのか、いまでも判りません。うん。


 理不尽にも三人分の暴力を我が身に受けたオジサンは、それはそれ、これはこれと考え直すよう家族を命を懸けて説得し、逃避行の準備を始める様にみんなを指示して、基本オジサンが支度をする次第となりましたとさ。



 オジサンは思うんだ。



 武装勢力の皆さんも、駐屯地に避難されていた皆さんも話し合えば、少しくらいは長く生きれる可能性があったんじゃないかってね。


 だってさ、よく考えてごらん。


 武装勢力も随分人数が少なくなったとはいえ、皆仲良く駐屯地に入営してさ、順番守って待ちさえすれば、ヒャッハー!しなくても物資は行き渡っていた筈なんだよ。


 だってここは、国指定の物資集積地だったんだから。


 それを自衛隊の皆さんの話も碌に聞かずに武器持って襲ってくれば、そりゃ反撃もされるよ。バカじゃないかな。


 まあね、うん。いずれは奇病に侵されて死んじゃうのは変わりないんだけどさ。


生粋の軍ヲタだから言うけどさ。無駄に争っても何も産まないのよね。兵器が壊れるのも見たくないしそれに……。


 最後くらいはさ、仲良く笑いながら死んでいけたら良かったのにね。



 ね、お前もお前たちもそう思うだろ?



 64式オジサンはやっとこさ逃げ込んだ地下街の、地下深くに繋がる作業用の階段の踊り場で、自分の膝枕に仲良く横たわる防護服姿の三人の家族に話しかける。


 みんな、逝ってしまったね。


 いくら逃げても奇病は液体になり空気になり、地下深くまで侵攻の手を緩めはしなかった。


 既に体が液体になってしまっている防護服の家族に、オジサンは優しく微笑み話しかけ続ける。


 なァ、苦労してやっと手にしたと思ったのに、これがTOP製だったとはなァ。いつもながら情けないオジサンだね、笑ってくれてもいいんだよ。


 右手に抱えられた64式小銃をまじまじと見る。


 家族を守る為に武装勢力の生き残りに立ち向かい、なんとか奪い取った、夢にまで見た本物の64式7・62ミリ自動小銃。



 でもコレ、精巧なおもちゃでした。



 オジサンは笑う。さも楽し気に笑う。


 そうすれば愛する家族も、バカなオジサンと一緒に笑ってくれているような気がしたからだ。

笑い終わって家族を抱きしめ、仲良くみんなで水に帰った。






 奇病発生前、日本国民は一億二千万人いた。


 今は、いったい何人が残っているのかすら、分からない。




  地球・RESET。 残留不可


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