小銃を握って
お待たせいたしました。続きとなります。
毎日死ぬほど暑いですね、どっかに地球・エアコンのスイッチとか無いですかね?躊躇なく温度下げるのに!
敵はどこだ。
俺は心の中で呟き、手で仲間に尋ねる。
聞かれた仲間は左手を小刻みに顔の前で振り、やがて十時の方向を指し示す。
あれか。
敵の一人はこちらに気付かず、オリーブドラブに塗られた三台いる8tトラックの、同色のホロが掛けられた荷台を背に、キョロキョロ周りの様子を窺っている。
仲間の方に再び眼を向けると、奴は左をさして指を三本立て、次いで右をさして指を五本立てた後、更に二本追加した。
他の仲間たちも、俺たちとは別の場所から同様の位置に同じ数の敵がいる事を知らせてくれた。
それを確認した俺は、右手で拳骨を作り人差し指を一本立て、サッと前に倒した。
トラックの周辺に居た敵は時間差もなく一斉に倒れた。
その敵の、十メートル以内に忍び寄り密かに機会を窺っていた軽装の四人の隊員が、凄まじい速さでト ラックに取り付き中に残っていた敵を射殺する。
CLEAR。
合図を確認した俺たちは、あとを警察のSITに任せ、我々は軽装甲機動車へと乗り込み次の目標に向かう。
民間の、それらしい姿に改造されたトラック三台の中には、連れ去られた住民が十五人いた。サーモと集音機通りの人数だ。
あいつらも、我々の装備どころか警察の装備と防護服まで持ってましたね。
仲間の一人が手話で話しかけて来る。
ここのトコロあちこちの部隊や治安当局が襲撃を受けているだから、持っていても不思議じゃないからな。
俺も手話で応える。
軽装甲機動車が二両と高機動車が二両、これに87式偵察警戒車一両に隊員が二十七名、これが我々の部隊の全戦力だ。
目標まであと何分だ。データは?
十分。データは送信されています。
戦術情報担当の二曹が手話で返答する。どうにも戦闘で慣れ親しんだせいもあって、おもわず手話で会話する癖が俺も仲間も抜けなくなったらしい。
ん、これか。
データを手持ちのタブレットで確認する。
絶賛営業中といったところだな。
第四偵察隊が放った自立型ドローンから送られる映像が映し出され、スキャンをタップすると周辺情報が手に取る様にわかる。
これに統合幕僚本部管轄下の無人飛行船のデータも加わる。
熱源と映像から察するに、敵はトラック五台にインド軍も使用しているジムニーが二台。それに奪った89式小銃二丁を機関銃代わりに装備した、いかにも急造品らしき装甲板やら鉄格子で装甲されたラウンドクルーザーが一台か、それに人数は三十人か。
まさにゲリラかISですね。
防護服を奪う為にようもまあ、無駄に労力を使うもんだ。
仲間が敵の行動力と創意工夫ぶりに感心する。
俺は笑い呆れながら嘆息して返答する。
こいつらは底抜けの馬鹿野郎たちだ。感心するに値しない。
奇病の存在が確認されてから三週間の間、除染活動に物資の搬送、要救助者の救出に住民の避難援助など、全自衛隊を上げて東日本大震災時を上回る動員数と活動を全国で展開させてきた。
これに新たな任務として、奇病の解明と撲滅を日本政府や同盟国家だけには任せていられないとして、武力行使を伴う、物理的政治介入も辞さぬ構えを見せ始めた周辺国家群との軍事衝突までも想定し、部隊の再配置と防衛出動準備行動までこなしていたのだから、この当時の防衛省及び実働組織である自衛隊の忙しさたるや想像を絶していた。
僅か三日で収まったのは幸いだったが。
実のところ、奇病に関する情報の隠蔽と存在の否定、これに伴う事態の認識の甘さから、日本を上回る規模で謎の奇病の猛威に晒されていた周辺国家群は、国民や少数民族の反政府運動や暴動と云った国家そのものを転覆させかねない状況に陥りかけており、更には、WHOからの奇病は世界同時発生の可能性が高いとの説明が大々的に報道されたことで、揺れる国内事情の目線逸らしに都合よく利用しようと、当初奇病の発生源とされていた日本を盛んに口撃して罪を背負わせた上で、ついには実際に攻撃して自国国民の鬱憤晴らしのスケープゴートにしてしまうつもりだった。
だが、その周辺国家群は既に、過去に存在していた国々になってしまったが。
これが奇病発生から僅か一カ月足らず後の極東情勢である。
もちろん、これらの国々だった領域には、未だ人々が生き残ってはいるのだが、情報によれば大幅に人口を減らしていっているらしく、かつてあった人口密集地すら人がまばらにしか存在してはいないようではあったが、飽きもせず内乱と離合集散を繰り返している様子で、中には国として承認せよなどと、日本や生き残っている世界各国に打診して来る地域まであるくらいのカオスっぷりになっていた。
日本もそうなっては困る。
俺はそう思わざるを得ない。
今更戦国時代の再現なんかはしたくもない。総ての国民に届くべき物資の数々を自ら進んで略奪していくなどあってはならない。なぜならそれは……。
集団的自殺行為でしかないからだ。
これ以外に、彼らの行動原理の理由付けが思い浮かばない。
他者のモノを奪い、自らは生延びる。だが、奇病の存在がこれを許してはくれないのだからな。自分の首を絞めている事にも気付いてはいまい。
無論、それはこれから殲滅に向かう奴らにも当てはまる。
馬鹿な行動を起こしたもんだ。自分だけは助かりたいなんてどうかしている。
奇病対処の活動を行う自衛隊は、当たり前の話だが武器類は装備していなかった。
する必要もなかった。何せ相手は銃なんか何の役にも立たぬ未知の病であり、救い出すべき国民への救援活動に武器の携行は余計な荷物を増やすだけだからな。
それが一変したのは四週目を過ぎたころから。
ネット上のとある匿名掲示板に、自衛隊と警察消防を襲って防護服と武器を手に入れてみた。そう名付けられたアップ画像が貼られたのはこの頃のことである。
切っ掛けであった。
画像は何枚もアップされており、そこには自衛隊用に警察用、そして消防用と明記された防護服を中心とした装備品の数々が映っていたのだ。
実際には、襲撃を受けた部隊も警官も消防士もおらず、画像も解析したところ良く似せた紛い物であったのだが、これに触発された者達が次々それらしい品々のアップを始め、その中にはこれらの品々の販売まで行う連中まで出現してしまった。
流通の統制によって、届くはずのない品々にネット上のコインを注ぎ込む。
頭痛がしてくる話だが、本当に起こった現象なのだから始末に負えない。
生きていたい。
この一心さからの気持ちの発露だったのかもしれない、それは哀れで愚かで醜い話。
でだ。聞くところによると、これらの詐欺行為の発祥元は海外であったそうだ。
こちらは本当に襲撃して物品を奪い、売りさばくか金だけ受け取って売らないか、または独占するかだったらしい。
ネットを通じて知った手口を真似た日本の度し難いアホが、悪戯心から始めたのが、まさか俺たちが出動する事件にまで発展するとは、誰が想像し得ただろう。
いくら待とうが届かぬ命の盾に、しびれを切らした誰かが隠語を使い、ネット上で襲撃計画の実行参加者を募ったのだ。
これが全ての始まりだった。
外出禁止令が出ているせいで自宅に引き込んでいたせいもあってか、この犯罪に手を染めた最初の実行者たちは、常に暇であったのが隠語を解く機会を与え、計画を練り込む最適な環境だまで与えていたのだ。
犯罪は実行に移された。
最初に襲撃を受けたのは警察のパトカー。
場所は住民が避難した人気のない住宅街、時間は午前三時を回った頃。
警邏中のパトカーの前輪がパンクした。
止む無く路肩に停車したパトカーは無線で救助を求め、三人の警官は防護服を付けたまま車内で待機することになった。
そこを襲われたのだ。
覆面にマスク、合羽を着た十二人の襲撃者はバールに鉄パイプ、釘バットに包丁にナイフといった銃刀法が施行される日本でも入手可能な武器を手に、パトカーのガラスを割り警官たちを引きずり出し殺害した。パンクは意図的であった。
計画は成功した。
三人分の防護服と拳銃を手にした彼らは時間を置かず、すぐさま救助が現れるまでの時間を、奪取したパトカー内で警官の装備を身に付け無線は雑音が混じって聞き取りにくい振りで対応しながら過ごし、残りは周辺で待機した。
やがて現れた応援のパトカーも襲われた。
襲撃者は男女混合のチームであった。
七人分の装備を手に入れた彼らは、襲撃の顛末を動画付きでネット上にアップし、日本中に生き残れ!との言葉を残したのを最後に、姿を現さなくなった。
しかし襲撃事件は、この後も続いた。
襲撃者のほとんどは彼らでは無かった。
なぜなら彼らの所在を掴み、掃討作戦を実施した部隊からの報告では、戦闘に及ぶまでもなく目前で溶けて死亡したのだから。
どうやら七つしか手に入らなかった防護服を巡り殺し合いをした挙句、奇病にまで感染してしまったらしい。
しかしテレビやネットを通じて事の仔細を報道したにもかかわらず、政府の指示通り、自宅や避難場所での閉鎖された空間で生活を営んでいた国民が襲撃者となった。
することも限られていた彼らがやっていたことが、ネット上での検索という暇つぶしだった。生き残るのに必要な詳細な情報を少しでも得る為と、少しでもいいから人々と繋がっていたいという抗えぬ思い、
誰もが疑心暗鬼に陥っていた。
そこに要らぬ情報と手口が、脳内に介在していく。
待てど暮らせど生産が追い付かず、一向に届かない衛生物資。収まる気配すらないどころか、正体不明のまま恐ろしい勢いで拡大を続ける奇病、死んでいく家族や友人やネット上の知り合い、どうにかならない方がおかしい。
だが、自分だけ生き残り、他人はどうでもいい。なんてことは許されない。
拡大する被害に即座に対応した政府は、総理自身が発議した武力による早期制圧案を承認した。
こっちも仲間がやられてるんだ。奇病の為ならば致し方ないが、なんだって救援物資を届けて殺されなければならないんだ。
警察官や消防隊員が次々と襲われる中、最初の事件から僅か二日後、ついに自衛隊員が襲われた。
その後も次々に襲われ、守るべき国民相手に隊伍を組み銃器を構え備えなければいけなくなったのは、今振り返ってみても悔しい。
では、各員。始めようか。手筈はさっき送信した通りだ。
カチッ。
了解のシグナルは、皆が一斉に解除した89式小銃の安全装置の音。
また戦闘が始まる。
かつて平和国家と謳われた日本。それが僅か一カ月足らずで武装集団が跋扈する土地となった。
これに立ち向かう自衛隊は現役およそ二十五万人。予備人数およそ六万。
奇病発生直後から危険な活動を強いられ続けた彼らもまた、人員を大幅に減衰させつつ、なおも活動を続けていくもだ。
だが、いつまで組織的活動が続けられるかは、誰も知らない。
地球・RESET。 東奔西走




