浅草の仲見世で
投稿前提の作品です。
原案は高校生時代に思い付いて書き、仲間内で回し読みして貰った短編作品(原稿用紙四・五枚程度)が元ネタとなっております。
当時とはタイトルも違いますが、まんまネタバレなタイトルであったため、新たに書き起こすにあたり変更させていただきました。
楽しんでいただけたら幸いです。
浅草の仲見世で惨劇が起こった。
一人の観光客とおぼしき女性の腹が突如膨れ上がり、裂け、中身が血しぶきと共に周辺に飛び散ったのだ。
悲鳴と驚声、怒号と叫喚が入り交じる中、彼女の黒い血液を浴びたまま慌てふためく人々をよそに、血まみれで倒れた女性を取り囲み、今更どうにもならない状況まで破壊された人体を茫然と見詰め、救急隊か警察が早く現れて事態を収拾してくれないかと願うばかりの人々の姿もあった。
あたしも、その中の一人だった。
人の死を、それも異常な死と云うモノを初めて見たけど、特にこれといった感情が湧いてはこなかった。
やっと現れた警察が規制線を敷き、救急隊が懸命な、だが無駄な労力を倒れた女性に降り注いでいる中、あたしは集合地点でもあるバスが止まっている駐車場に向けて歩きはじめた。
ここにいても仕方がないから。
上空には事件を聞き付けたらしいマスコミのヘリが、まるで腐った食物に群がるハエの様に飛び交い、脇をウジ虫のように我先にと現場に駆けつけていく。
気味が悪い。
思春期特有の厭世観なのか、それとも単にそう云った倫理観に欠けた行為が嫌いなだけなのか、あたしはアソコで一人で倒れ、このあと一週間くらいはメディアに晒し者にされる彼女に少し同情した。
でもやっぱり、世の中の事は気になってしまう。
さっきの出来事がどう騒がれているのか、現場にいた当事者、ではないけれども、眼前で見てしまった異常な事態が世の中ではどう見られているのか気になってしまい、おもむろに黒いスカートのポッケからスマホを取りだして、いつも見ている投稿アプリを開いて検索を開始する。
すると、あっさり事件のアップに行き当たり、しかもついさっきの話なのに、もう世界中の人たちが注視していることに驚いた。
海外でも有名な観光地でもある浅草の仲見世で起こったのもあるんだろうけど、日本に来ている外国人の投稿の多さに驚かされたし、その内容にバラつきや誤報が混ざってはいるものの、おおよそは合っている情報や、彼女の腹が裂けた瞬間の動画までアップされていてビックリしてしまう。
やっぱりネットは早いし凄いな。
それに比べてマスコミの方はというと、皆が皆、揃いも揃ってどんぐりの背比べよろしく判で押したような報道に終始していて、いつもの様に得体のしれないコメンテーターや専門家たちが意見を求められ、番組の意向に沿った如何にもな御託を並べて時間を浪費しているだけの内容ばかり、しかもそれすらも束の間で、地方の人間が行ける筈もない都心の有名店の美味いらしいスイーツの話に切り替わり、実際は面白いのかどうかもわからない芸人や、本業は何なのかもわからないタレント達がオーバーリアクションではしゃぐ姿に切り替わったところで、うんざりしたあたしはスマホを見るのを止めた。
うん?
あたしはブラウザバックした右手の親指の先っちょに、赤黒いしみが点でついているのに気が付いた。
もしかしてさっきの女の人の血?
まあいいか。
人差し指の爪でこびり付いた赤い小さな点を弾き飛ばし、ハンカチで拭ったところでようやくバスに辿り着いた。
既に大方の生徒は乗り込んでいて、あたしの後に乗り込んで来たのは外で生徒の帰り具合を確認していた先生とバスガイドと、クラスカーストでも上位に位置する見た目はイケてる男女のグループたちだけだった。
アイツらバスでもとりを持ってくのかよ。
通路を挟んだ座席に座る男子が濡れたタオルでしきりに腕を拭いながら、忌々し気に呟いたのが聞こえる。
どうやら彼はあの現場にいたらしい。白いタオルが所々ピンク色になっているのが目に留まる。
え~。大変な騒ぎになったが皆無事でよかった。ケガをした人もいないようで安心しました。
大学を出てまだ数年しかたっていない今時珍しい黒縁眼鏡の先生が、マイクを片手に無事を喜んでいる。
修学旅行。
ただ、憂鬱でしかなかった学校行事の三日目は、こうして都内のホテルに向かう道中を残すだけになった。
あしたは何事も無ければ、唯一楽しみにしていた千葉にあるのに東京なテーマパークで遊び、好きなキャラをお買い物な大事な予定が待っている。
さっきの事件で持ち切りな車内の賑わいを無視して、夕闇が迫る東京の景色を首都高から眺め、一人楽し気に微笑んだ。
彼女が体育館で行われていた全校集会の最中に、頭と腹を一気に膨らませ破裂させるという謎の奇病で命を失うのは、これから一週間後の事である。
地球・RESET。 活動開始




