曲の命
「失礼します。二年三組の桜坂です。音楽室の鍵を借りに来ました。」
職員室に入って鍵をとり、廊下に出るなりダッシュ。
早く鍵盤に触りたい、次の小節はどんな風にしようか、あそこの和音はもう一度考え直そう。これから始まる私の至福の時間について、いろいろな事を考えていた。初めて鍵盤に触り、音楽に出会った時の衝撃は未だに忘れられない。
押すと音が出た!なんだろうこれは?もう一度押してみよう。二歳にして私は音楽の魅了にどんどん惹かれていった。人と上手くコミュニケーションが取れなかった私は、楽器となら話せる気がしていつも身近には楽器があった。楽しかった。友達なんていらなかった。ずっとそう思っていた。
でも、中学校に入って存在を忘れ去られていく。ついには、否定される。
「なにこれー?マヌケ坂の?」
奪われた。
「ハハハッ!自分で曲作ってんだってよ!」
「ダッサ!!!絶対音なんとかがあるなら...」
あ、切られる。三ヶ月もかけた曲が。
「やめて!」
「何回でもできんだろ!!」
『#ソ』だ。破られた時の音はこんな音がするんだ。
必死に泣くのをこらえた。泣いてしまったら負けた気がした。大丈夫、また新しい曲を作ろう。303小節目、気に入らなかったし。そんな事を考えていた。
アイツらは、この学校で有名な問題児たち。阿久津という男がボス的な存在。どうやら私は、阿久津に気に入られてしまったらしい。
その出来事以来、私は音楽室に入るなり鍵を閉めることにした。しかし、私は今日失態を犯した。
ガララ...
今の音はなんだ?
「何してんだ?」
驚いた。後ろに人がいる。また一つの曲の命を奪われる。
私は恐る恐る後ろを振り返った...