天井が高い音楽室。
「あ、教室に数学のノート忘れた。」
とっさに思い出した。机の中に入ったままだった。このままじゃ、また宿題忘れの記録が更新されてしまう。
中学2年の夏。影が自分の倍ほど長い帰り道。幼なじみの優作に先に帰ってほしいと頼み、俺は学校に戻ることにした。正直、めんどくさいが先生の雷が落ちるよりはマシだ。
学校について自分の教室に入る。
(あった。)
予想通り机の中に入っていた。これでもう記録の更新も先生の雷も心配しなくて良さそうだ。
ポロロン
ピアノの音がした。まさか学校の七不思議?そんな事を考えながら、ピアノのある音楽室に向かった。
俺の通う菊山第一小学校はそこそこの都会にある。でも、さすがに放課後の学校は静かで音がよく響く。
音楽室に着き、恐る恐るドアを開ける。そこにはベートーヴェンやお化けではなく、ボブの少女がいた。
「何してんだ?」
声をかけた途端、ジャンッと不快な音がした。彼女は指を止め、ゆっくりと振り俺と目が合った。
「あれ?確か隣のクラスの...」
「桜坂です...」
「あー!桜坂光希さん!」
さん付けなんてした事もないのに、なぜか俺は緊張で手汗がビッショリだった。
桜坂は隣のクラスの二の三だ。三組の前を通る時たまに見る。いつも1人で時々、人話すくらい。うるさい俺とは真反対な人だ。そして、今日初めて話す。
「で、何してたんだ?」
桜坂は少し下を向いて
「曲を...か、書いてて....」
ピアノを弾けるのはなんとなく知ってたが、まさか曲を作っていたとは...
「すっげぇ!!!一人で作ってるのか?」
「う、うん...」
「天才じゃん!!」
うわ、まただ。俺は語源力が少なく、褒める時はいつもすげぇ!しか言えない...。多分いや、絶対こいつバカだな、って思われた...
「俺はサッカー部の鶴見竜之介。よろしくな!」
俺は手を差し出した。
「よ、よろしく....」
桜坂はぎこちなさそうに握手をしてくれた。
少し話をした。まぁ、大体は俺が話っぱなしで桜坂はつまらなさそうな顔をしてた。そして、6時のチャイムがなり、俺は猛ダッシュで家へと帰った。走りながら強くこう思った。
(絶対に仲良くなってやる。)
胸が高鳴っているのは、走ってるせいだからだろう。